弔いの花
7月7日にギリギリ間に合いました……!
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著作権フリーbgm「君と出会えたことが」
俺達はフィアを助け出す事に成功した。
フィアは身体中に機材が取り付けられていたが、幸いにもアイリスちゃんのおかげで身体に傷が残る事はなかった。
キキョウによって逃げ出したヨゼフや他の研究員、"合成獣"も全て捕らえる事が出来た。ただ、気掛かりなのがヒノハさん、いや、ヒノハの姿は何処にもなかった事だ。最初からあの"魔獣研究所"に居なかったのだろうか?
だとしたら、何処に行ったのか皆目見当もつかない。
とりあえず、俺達はリンネさんの屋敷に手紙だけを出しておいた。
恐らく直ぐにあのリンネさん達がヨゼフや"合成獣"を接収するだろう。これで一先ずは安心だ。
俺達は目的を達した。
フィアはあれから直ぐに目を覚ました。嬉しそうに、助けられた事に礼を言う彼女に、俺は胸が締め付けられそうになる。
そう、俺は告げなければならなかった。
グリゼルダさんが死んだ事を。
グリゼルダさんの訃報を告げた時、フィアは泣いた。
叫んだ。
暴れた。
そして自分の所為だと責めて、自らを傷つけ始めた。
だけど、それをアイリスちゃんが止めた。
暴れようとするフィアを抱きしめ、優しく頭を撫でて『聖女』の力も使って彼女を落ち着かせた。その甲斐あってか、フィアが自らを傷付ける事はやめた。
フィアを連れ、グリゼルダさんの遺体を保管した所に案内する。
彼女はグリゼルダさんの亡骸に練りつき、慟哭する。
遺体はフィアが目覚めるよりも前にエドアルドが服を着替えさせていた。
あの傷だらけのままのグリゼルダさんの身体をフィアに見せてしまう事を考慮したエドアルドが、配慮したのだ。
やがてほんの僅かに落ち着いたフィアが、嗚咽を抑えながらも告げた。
グリゼルダさんを弔いたいと。その願いを俺達は受け止めた。
グリゼルダさんの遺体は火葬する事になった。
火葬は、人がアンデットにならない為の重要な儀式だ。
アンデットは生前強い恐怖や無念を覚えた者が、未練となりこの世に不完全な状態で蘇り、他者を襲う存在だ。生きる者、その全てがアンデットにとって憎たらしいのだ。
無論、地域によっては土葬する事もあるがその時は『神官』によって清められた聖水を使用する。しかし、俺達には聖水はない。
『聖女』であるアイリスちゃんなら、歴代の『聖女』みたいにアンデットに対しても強い浄化や聖なる力を使ってアンデット化を防ぐ事も出来そうだが、彼女はまだ癒す力以外には目覚めていない。
だけど、それを補うようにアイリスちゃんは【木霊との交信】で、植物を集め、エルフにとっては神聖な木を生やし、グリゼルダさんの遺体をキチンと弔う形に整えた。
俺達も、アイリスちゃんから渡されたそれぞれの花を彼の側に捧げる。
フィアも花を捧げ、最後にグリゼルダさんに抱きついた後、自身が火をつけた。
月の光に照らされながら、炎が燃えあがりグリゼルダさんの身体を包み込む。
段々とグリゼルダさんの姿が炎の中に消え、やがて見えなくなる。
俺達はそれぞれ、見送る。
「とうちゃんはさ、言ってたんだ。いつか別れの時は来るって」
火葬を見ながらフィアは呟いた。
寂寥感を含んだ声色だった。
「だけど、あたしは実感なんてなかった。朝、起きたらとうちゃんがいて、一緒に色んな所を歩いて回る。辛い事もたくさんあったけど、嫌じゃなかった。とうちゃんがいれば、それでよかった」
けど、とフィアは自らの腕に顔を埋める。
「わかってたのに、こんな日がずっと続くと思ってたんだ。幻想でも、泡沫の夢だと知ってても、思っちゃってたんだ。あたし、ばかだ。そんな訳ないのに……別れがない事がないなんて、かあちゃんが死んだ時に、既に知ってたのに」
「フィア……」
すすり泣く音が聞こえる。
俺はフィアの姿を見て、かける言葉が見つからない。
何故ならその姿と言葉は、俺にとっても深く分かる事だった。
『よう、ユウ! 今日は河辺に探検に行くぞ!』
『待ってよフォイルくん!』
『二人とも〜! また怪我しちゃうよっ! 気をつけてよっ!』
遠い日の幼い頃の記憶。
色褪せる事なく、昨日の事のように思い出せるあの頃、俺も、そんな風に思っていた記憶を思い出す。
(……ばかか、俺は)
違うだろ。
今の俺がすべき事は過去の思い出に馳せる事なんかじゃない。悲しい子どもに、一人抱え込んでいる目の前の子どもに言葉を投げかけることのが重要なはずだ。
俺は、かがみこんでフィアと目を合わせる。
「フィア、君にとっての家族はグリゼルダさんだけだ。あの人は最後まで君を守ろうとして、戦って、そして亡くなった」
「っ……あたしのせいで……」
「自分を責めるのはやめるんだ。君のお父さんは、君にとって誰よりも誇らしくて、頼もしくて、素晴らしい人だった」
グリゼルダさん、確かに"暗闇に潜む闇鯨"に加担した事もあった。
だけど、全て彼の行動はフィアを思い、彼女の為を思ってこそ。例え世間では犯罪者であろうと、彼の気持ちが嘘偽りであった事は一度たりともない。
グリゼルダさんは父親としてフィアを愛し、護ろうとした。
立派な人だった。
でも、そんなグリゼルダさんはもういない。
亡くなってしまった。
「俺達は君の家族にはなれない。だけど、仲間にはなれる」
フィアが顔をあげる。
「だからひとりぼっちじゃない」
「アニィ……」
「一緒に行こう。血の繋がりなんてない、別の形だけれども、それでも俺たちは共に歩ける。共にいられる」
フィアが俺を見る。
アイリスちゃんを見る。
ジャママを見る。
キキョウを見る。
エドアルドを見る。
俺達は皆、フィアを見ていた。
ほんの僅かに逡巡するように手を止めるも、フィアは俺の手を強く握った。
「大丈夫だ。フィア。君はーーひとりじゃない」
「っ、うぁっ、うわぁぁあぁんっっ」
俺は泣き出すフィアを抱きしめる。
彼女の力は俺の身体を潰さん限りに抱きつくが、痛みなんておくびも出さずに俺はただ泣き出すか弱い子どもを慰め続けた。
「アニィ、あたし決めた事があるんだ」
「なんだい?」
「んっとね」
泣いた跡が痛々しかったが、フィアはそれを感じさせないほど、笑顔を浮かべた。
「あたしもあにぃみたいになりたい」
「俺みたいに?」
「流石にツノっこがアヤメみたいに剣を扱うのは無理だと思うのだけど。剣、根元から折れるわよ」
「そういう事じゃないと思うのです」
<クゥン>
「キキョウ殿は何処かズレておりますな」
キキョウの言葉にアイリスちゃんが呆れたような声色で、ジャママが何とも言えないように鳴き、エドアルドが真顔でじと目になる。
キキョウは居た堪れなくなったのか、しょんぼりした。
「あたしは鬼の力を、あまり好きじゃなかったんだ。かあちゃんから受け継いだ大切なものだとわかってても、あたしはこの力のせいで襲われたし、狙われた。
でも、アニィの言葉を聞いて考えたんだ。あたしが鬼の力をかあちゃんから受け継いだのも、何か意味があるんだって」
フィアは己の握った拳を見る。
「あたしは、理不尽に奪われる人を助ける。理不尽なんか、あたしがより強い理不尽な力でねじ伏せる。そうすれば、もうあたしみたいに幸せを奪われる人なんかいなくなるよね?」
それは幼い子が考えるにはあまりにも悲しい決意。
だけど、それでも。彼女が自らの歩む道を考えたのならば俺にそれを止める権利はない。
だから、俺は彼女の決意を肯定した。
「そうか。うん、そうだね。俺も『救世主』として沢山の人を救うのを目指しているんだ。だから、一緒に頑張ろう」
「うん!」
俺達は次の国に向かう事にした。
その中でただ1人、俺はグリゼルダさんの埋められた場所に佇む。
周囲には沢山の花が植えられている。
俺は墓標の代わりに、彼に折られたファッブロが造ってくれた根元から折られた剣を突き刺した。アイリスちゃんのように花を生やしたりも出来ない俺なりのこれは手向けだ。
「グリゼルダさん、貴方の娘は立派に成長しましたよ。だから、これからは空から彼女を見守ってあげてください。俺も、自らの進むべき道を歩んでいきます。貴方が、迷わず突き進んだように」
風が吹く。
俺は背中を押された気がした。
そう感じた事に俺は苦笑し、別れの言葉を告げる。
「さようなら、師匠」
振り返る事なく、仲間の待つ所に歩んでいった。
これにて4章は終わりとなります。
次回からまたユウ視点でのお話となります。第5章では遂に魔王軍が動き出します。乞うご期待下さい。
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