桜咲く
参照bgm
「brave heart 宮崎歩」
熱い曲と言えばデ◯モンですよね。
因みに作者は世代ドンピシャです。
「エドアルドッ、気付いているか?」
「えぇ、このままでは埒があきませんね」
俺達の目的はイフィゲニアを奪還することだ。
だから、"進化しせし獣"自体を完全に倒す必要はない。イフィゲニアを取り戻せば自ずと"進化しせし獣"の動きは停止するだろう。
だが、その為には"進化しせし獣"に接近する必要がある。
「キキョウを……いや、ダメだ。彼女を呼び戻す訳にはいかない」
キキョウならば"進化しせし獣"の動きも止める事が出来るだろうが、既に別の頼み事をしている以上呼び戻す訳にはいかない。
だが、俺とエドアルドだけじゃ"進化しせし獣"に打ち勝つ事は出来ない。何とかしなければと思うがら妙案を思いつく事が出来ない。
せめて、聖剣アリアンロッドがあった時と同じくらい武器に威力あれば。
「アヤメ殿!!」
「っ!?」
気付けば、"進化しせし獣"が眼前にいた。
これは、"無拍子"。しまった、思考に気をとられて、奴の動きを見逃した!
構えられ、向かって来る拳。
防御も間に合わない。せめて、片方の腕だけでも何とか守ろうとした時、俺の背中が何かに押された。そのお陰で、"進化しせし獣"の拳は外れ、壁に埋没する。
「いたたたっ、な、なんだ?」
回転して姿勢を立て直す。
エドアルドか? いや、だけど彼は遠かったはずだ。
ならば誰が……と思った所で、見覚えのある金色の髪が見えた。
更に、何か漆黒と金の模様の何かの上に乗っている。見た目は変わったけど、見覚えがあった。
「アイリスちゃん!? それに、えっ? ジャママ!? ジャママなのか!!?」
「はい! あなたのアイリスに、ジャママです! アヤメさん、無事で何よりです!」
<ガウッ!!>
えへんっと胸を張るアイリスちゃんは、ジャママの上に跨っている。
そう、ちょっと見ない間にジャママが大きくなっていた。
既にアイリスちゃんよりも大きい。えっ、何がどうなってそうなったんだ? 生物学的にいきなり成長することなんてあるのか?
「それはまさか【絆ノ進化】だと!? まさか、ごく限られた『魔獣使い』にしか発現しない現象を見ることを出来るとは!! 欲しい! 欲しい欲しい欲しい!! 実に欲しい!!」
ヨゼフが騒ぎ立てたお陰でジャママの身に起きた出来事がわかった。
「そうか。君は、アイリスちゃんの力となりたかったんだね」
<……ガウッ>
ジャママは肯定するように頷く。
「アヤメさん、これからはわたしも戦います」
「それは」
「わかっています。危険だということも。だけど、わたしだけが見ているだけなのは、もう嫌なんです。目の前で、傷ついていく姿を見ているだけは、嫌なんです。ジャママは、そんなわたしの思いを感じ取って、わたしの力となるべく成長してくれました」
アイリスちゃんの目に意思が宿る。
「だからこそ、わたしはそれに応えたい! わたしはもう守られるだけの存在じゃありません! わたしも、誰かを守りたい! わたしがアヤメさん達に道を切り開きます! 行きましょう、ジャママ!」
<ウオォォォォンッッ!!>
「アイリスちゃん! ジャママ!」
ジャママが遠吠え、駆け出す。
止める暇すらなかった。ぐんぐんと"進化しせし獣"に二人は近付く。
「ばかめ! 向こうから近付くなど! やりなさい、我が最高傑作よッ!!」
<無双乱舞拳ンンッ!!>
数多の腕が走り回るジャママとアイリスちゃんを潰そうと、動いた。
嵐の如く激しい殴打を二人に向かって放つ。
「アイリスちゃん! ジャママ!!」
思わず叫ぶ。
しかし、
「そんなの、ジャママに当たりませんよ!」
<ガァウッッ!!>
「あれを躱せるのか!」
二人は全くの無傷であった。
面を制圧する拳の嵐をジャママは全て避け切ったのだ。なんて、速度に瞬発力。何より、ジャママの成長性だ。
「そして、貴方ももう動けませんよ!」
<ガ、ギィィンッ!?>
"進化しせし獣"の腕にいくつもの蔦が絡み合っていた。
拳を交わした際に、そこら中に種をバラ撒いていたのだ。結果、【木霊との交信】で成長した植物によって"進化しせし獣"は己の拳を封じられた。
「何だと!? 何をしているたかが小娘と獣一匹に翻弄されるなど!!」
ヨゼフが騒ぐも、"進化しせし獣"はどうすることもできない。
厄介な多数の腕は全て封じられた。ならば
「アヤメさん! エドアルドさん! 今です!」
「あぁ!」
「お見事」
俺達は一気に決める為に接近する。
<グゥッ、グゥッ、グゥゥゥッ!>
「くそっ、さっさとそこの獣を、いや、待てッ! やっぱりあの男を止めろ! 奴は危険だ! わかったらさっさとしたまえ!」
"進化しせし獣"は複雑に絡み合う蔦を外すことが出来ない。
加えて所々、ヨゼフの命令のせいでうまく動けていない。
強制力のある指令のせいで、急な指令に従おうとして身体がついていけていないのだ。
ならばそこに勝機はある。
「フィアを助け出せば自ずと"進化しせし獣"は崩壊する」
「左様です。しからば、狙うは彼女がいるであろう"進化しせし獣"の頭部のみ」
<フギャアァアァァァッ!!>
膨大な数の鋭い鱗が発射される。
エドアルドが俺の前に立ってその全てを盾で防ぐ。しかし、"進化しせし獣"はその隙に距離を取ろうと離れていく。
「エドアルドッ!」
「お行きなさい。貴方ならばそれが出来る。飛ばしますよ、【盾撃】」
俺の意を汲んだ彼が、盾を斜めに向きを変える。
そこに俺が乗ると同時に、技能を発動させ合わせて俺は跳躍した。盾を発射台とした。
その早さは触手を出して攻撃をしてきた"進化しせし獣"を置き去りにする。
「終わりにしよう! "火樹銀花"」
完全な脱力からの渾身の力を込める。その動きは瞬発力と爆発的な威力を生む下からの袈裟斬りの"火樹銀花"。"進化しせし獣"の頭部を大きく斬り裂いた。
そのまま俺は着地し、フィアを連れ出そうと傷口を見た。
「なっ!?」
馬鹿な、いないだと!?
そこにあったのはただの斬り裂かれただけの肉の断面だけだった。
「背後です!」
見れば数多の触手が俺に向かって貫こうと迫っていた。
俺はすぐにその場から離れる。折角詰めた距離も無駄になってしまった。
しかし、それよりもフィアがいなかった事に歯噛みする。
「ばかな、確かにあの額の中に取り込まれたはずだ!」
「はははははっ!! 愚かだね。君達は! あんな弱点を丸出しにして置くわけがないじゃない! あの魔族の娘は"進化しせし獣"の謂わば核! そうやすやすと居場所を判別させてなるものか。あの魔族の娘は内部を常に移動する。貴方達に捉える事は出来ない、それ即ち勝つ事が出来ないのですよ!!」
ヨゼフは嗤う。
それは凡そ最悪な知らせだった。フィアはあの巨大な身体の中を移動し続けているのか。
「これは、あの巨躯の身体を完全に破壊してイフィゲニア殿を見つけるのは厳しいとしか。最早、キキョウ殿を呼ばねば」
「でも、ぼっちであろうとあそこまで強力だと身体全体を凍らせるしかありません。そんな事をすればフィアがっ」
<ガゥゥッ……!>
二人が会話する。
既に"進化しせし獣"はアイリスちゃんが施した【木霊との交信】を解いた。
もう一度奴の体を大きく斬り裂くにもそんな隙も時間もない。
そもそも、斬り裂いた所でフィアがそこにいる確証はない。
どうする? どうする!?
もう、どうしようもないのか?
「……いいや、手はある」
闘気。
グリゼルダさんは誰もが異なる闘気を持つと言っていた。
"進化しせし獣"は魔獣の集合体だ。
なら、幾ら融合しようともイフィゲニア自身の闘気は必ずある!!
ならば俺が"感知"すれば、自ずと彼女の居場所がわかる。
無論、可能性が低いことも理解している。
他の魔獣の気配に押し潰され、感じられないことも考えられる。
それでもやるんだ。
今感じなければイフィゲニアを救えない。ならばやるしかない。約束しただろう? グリゼルダさんと。
必ずフィアを助け出すと!!!
心は熱く、身体は冷静に。
呼吸しろ。感じ取れ。
相手の心臓を。
相手の呼吸を。
相手の存在を。
強く、強く、強く。
深く、深く、深く。
より己を巡る血の流れを感じ、そのまま相手の存在を感じるように集中する。
「うっ、ぐあっ!?」
"進化しせし獣"から感じ取れた膨大な歪な生命の気配。怖気の走る、不気味な感覚に思わずおどろく。
だけど、まだだ。
集中しろ。
集中しろ!!
血管が膨張する。目が充血する。それでも深く感じ取れ。"進化しせし獣"の存在。その先にいる、助けるべき相手を!
『…………………アニィ』
俺を呼ぶ声が聞こえた。
「見えた」
俺は呟く。
フィアの場所はわかった。ならば後はそこに近付くだけだ。
「イフィゲニアの場所がわかった。もう一度力を貸してくれ」
「アヤメさん……、はい!」
<ガゥッ!>
「策があるのですね? ならば乗りましょう」
皆は俺の作戦に直ぐに頷いてくれた。
その事に喜びを感じ、そしてすぐさま行動を開始する。
「いくぞッ!!」
「馬鹿め! そのまま押し潰されてしまいなさい!」
ヨゼフが指令を下す。
"進化しせし獣"が従い、俺達を叩きのめそうと動く。
俺やアイリスちゃんよりも先に正面に立ったのはエドアルドだった。
<コクムゥゥキョウサァァォッッ!!>
「ーーッ!!」
「くははは! またも真正面から受けるとは! 無駄だ、幾ら君のような硬い騎士であろうと、硬いだけが取り柄の奴に"進化しせし獣"に打ち勝つ事は出来ない!!」
何とか拳を受けても、その場で踏ん張るエドアルド。
「認めましょう、私の力では貴方に決定打を与えることは出来ないでしょう」
ぽつりと呟いた。彼は己の力量不足を認めた。
その上でエドアルドは真っ直ぐに顔を向ける。そうだ、彼の目は決して諦めてなんかいない。
「ならばこそ、食らった攻撃を、そのままお返し申す!! 【反射盾】」
<ギャウッッ!!?>
【反射盾】、相手の攻撃をそのまま跳ね返す技能だ。
"進化しせし獣自身の強力な一撃が、そのままの威力となって"進化しせし獣"を襲う。
ぐらりと巨躯が揺らぐ。
しかし、複数ある脚を使って態勢を立て直そうとする。
「させません! 【植物よ、大地に芽吹き、根を張り、花を咲き誇れ。、ーー我は森の守り手、汝の同胞なり。永遠に結ばれし契は、決して破られる事なく、我らに根付いているーー天花畑】」
ジャママに乗っていたアイリスちゃんが、彼の速さを利用して周辺に種を蒔いた。
地面から生えた草花が巻きつく。
邪魔をされた"進化しせし獣"は態勢を立て直すことが出来ず倒れた。
二人は己の役目を果たした。
なら、あとは俺が果たすだけだ。
「"陽狼"、"無拍子"」
"進化しせし獣"は俺の存在に気付けてすらいない。
そして、気付いてももう遅い。俺は既に懐にいる。
「ここだ、"天花乱堕"」
振るわれる両手の剣。
片方は風を表すように素早く幾度も斬り刻む。
片方は雨を表すように叩きつけるように重く、砕き斬る。
その様子はさながら嵐のように迅く、鋭く、そして激しく。
それぞれ違う剣術を扱った俺の"絶技"の"天花乱堕"。
その威力は強靭な皮と鱗で出来た"進化しせし獣"の身体を容易く斬り裂いた。
「見つけた、イフィゲニア」
肉を掻き分け、骨を折った先。
そこにフィアはいた。彼女は弱々しくも顔を上げ、俺を見る。
「ア……ニィ……?」
「もう大丈夫だ。一人でよく戦ったね。帰ろう」
「うんっ……帰る……」
涙を流しながら、手を伸ばすイフィゲニアの手を握り俺は彼女を束縛する周りの装置を破壊する。
「っ、はぁ。うまくいった……ッ!」
「ば、ばかな!? そんなばかなぁ!!?」
俺は遂にイフィゲニアを救出する事が出来た。
気絶はしているが、生きている。その事に安堵する。
「間に合ったんだ。本当に、よかった……。グリゼルダさん、約束は果たしましたよ」
<ギィイィィィィッッ!!>
「!?」
心臓部を失った"進化しせし獣"がボロボロになりながらも動いた。これは一体!?
俺は"感知"を使い、相手の闘気を感じ取る。
ぐちゃぐちゃになった気配が一つに纏まろうともがいていた。
複数ある臓器を繋ぎ合わせ、心臓部の代わりを果たし僅かだが活動する事に成功したのか!
その時、俺の頭上を何かが通過する。
ジャママに乗ったアイリスちゃんが、跳躍し"進化しせし獣"の眼前に現れる。
<ガァウッッ!!>
「終わりです。【冒涜され、歪められた生命よ、もう生命の輪廻へと還りなさいーー桜花爛漫】」
ジャママの口に咥えていた種を"進化しせし獣"の口に放り込むと同時にアイリスちゃんが【木霊との交信】を唱える。
種を飲み込むと同時に"進化しせし獣"の身体中から沢山の枝が生える。それらは葉をつけ、やがて花となり、大輪の桜が咲いた。
優しく"進化しせし獣"を根が包み込む。
<ギィ……ギィィィッ……>
「歪められた生命よ、どうか大地にお眠りください……」
優しげな、それでいて哀しそうな表情で"進化しせし獣"に触れ、アイリスちゃんが祈る。"進化しせし獣"は弱々しい声を発し、やがて涙を流した後完全に沈黙した。
綺麗な桜の花弁が舞う。
綺麗なのに、何処か哀しげだった。
「終わったんだね」
「はい。この子達も、最期は土に還ることが出来たと思います」
見上げる先には桜と一体化した"進化しせし獣"があった。
「【桜花爛漫】は本来であれば、エルフが行う弔いの儀……樹木葬を元とした言の葉です。命は失ってもまた別の命を育み、繋がっていく。彼らも輪廻の輪に戻れたと思います。だからどうか安らかに」
アイリスちゃんが祈る。歪まされた魂が安らかに眠るよう。
俺も、それに習い黙祷する。
「アヤメさん、フィアは」
「大丈夫だ。今は気を失っているけど、呼吸もしているし生きている」
「よかった……」
アイリスちゃんが安堵する。
その時、研究所全体が揺れた。
「まずい、暴れすぎたのかこの研究所はもう持ちません! アヤメ殿にアイリス殿! 早急に脱出せねば!」
「わかった!」
エドアルドの言葉を聞いて、俺はすぐさまその場から離れる。
「アヤメさん、あのヨゼフと名乗った奴がいません!」
いつのまにかヨゼフは消えていた。敗北を見届けたのか、或いは勝ち目がないと悟ったのかわからないが、この場から居なくなったのは確かだ。
俺はイフィゲニアを抱え、アイリスちゃんの言葉に首を振った。
「大丈夫だ。あとはキキョウに任せよう。俺達は此処から脱出する」




