強さの証明
参照bgm
嘘つき姫と盲目王子 「魔女の館 古き童話の残照」
コメントで気付きましたが、100話突破していました。
これもひとえに皆様のおかげです。本当にありがとうございます。これからも今作をよろしくお願いします。
<ギャアァァアァァァァッ!!>
<ビュー! ビュー!>
<グオォオォォォォッッ!!>
複数ある口から雄叫びをあげ"進化しせし獣"が迫り来る。
その巨体からは考えられないスピードだった。恐らくは複合された数多の脚によって速度を速めていた。
「"月凛花"」
「【突撃槍】」
左右に躱すと同時に俺とエドアルドがそれぞれ攻撃を叩き込む。
俺の攻撃は硬い鱗に弾かれ、エドアルドの方はぶよぶよした皮に槍が包み込まれ貫けなかった。
「硬いなッ」
「こちらも、貫く事が出来ませんでした。来ますよ」
「あぁ!」
互いに言葉を短く横振りの拳を躱す。
その隙を突き、もう一度俺達は攻撃を加える。
俺たちの攻撃は"進化しせし獣"に通用しなかった。
<アァァアァァァァッ!>
躱す俺達を煩わしく思ったのか、癇癪の雄叫びをあげ、"進化しせし獣"は上から叩き潰そうとしてきた。振るわれた超重量の拳が鉄で作られた床を容易く凹ませる。
更には地面から伝わる振動。微かに俺達の動きが止まる。
躱した拳の隙間を縫うように、鋭い鱗が射出された。
「"沙水雨"」
「【要塞】」
俺は全て弾き、エドアルドは盾で防ぐ。
鱗は地面に突き刺さる程強靭であった。あれに当たれば容易く肉体は切り刻まれるだろう。
<ビュッ!>
"進化しせし獣"の幾つかの口から何かが吐き出される。
斬っ……、いやこれはっ!
「エドアルド、それを受け止めるな!!」
警告。
俺と違って液体を盾で防御しようとしていたエドアルドは声に従い、すぐさま液体から身を躱す。
液体は床に落ちると異臭を放ち、鉄の床すら溶かしていった。
「これは、酸ですか。なるほど、幾ら逸品の盾といえど受けないことに越したことはありませんな。……厄介な」
「だが動きも止まった! "落花狼藉"」
"緋華"以上の貫通力を持ちながら、穿つ"落花狼藉"。
かつてキキョウの【動く氷巨像】を実質的にトドメを刺したこの"絶技"ならば、"進化しせし獣にも通用するはず。
俺は"進化しせし獣"の脚の腱を狙い、動きを奪おうとした。
<ギィアァァァァアァァァッ!>
「なっ!?」
叫ぶと同時に巨体がブレ、その場から消える。
途端に俺の"落花狼藉"が外れる。今のはまさか……!
「"陽狼"だと……!? まさか巨体でこんな動きもできるのか!」
紛れも無い"巧技"の"陽狼"だった。
馬鹿な、と呟く。フィアの使える"巧技"を"進化しせし獣"が使えると言うのか。
「アヤメ殿! 来ますッ!」
「ぐっ!?」
背後に回った"進化しせし獣"が拳を放つ。
俺はそれは躱すが、同時に腕に生えていた鱗が射出。迎撃しようとした時、"進化しせし獣"の翼が動き突風が襲い来る。
あまりの風に態勢を崩された俺は、鋭い鱗を処理しきれず至る所を負傷してしまった。
「アヤメさん!」
「大丈夫だ! 主要な器官にはダメージを負っていない!」
悲鳴のような声を上げるアイリスちゃんに言葉を返す。
実際、傷は負ってしまったが戦闘不能には程遠い。血は流れているが、筋肉までは抉れていない。ならば大丈夫だ。とはいえ、それもいつまで持つか。
「あの時と同じか。複合された魔獣達の能力が厄介過ぎるっ……! 元からフィアの持つ"巧技"に魔獣の能力、恐ろしい程に噛み合っている。これが"進化しせし獣"かッ!」
対応できるはずなのに、トリッキーな動きと能力に翻弄されている。
"合成獣"はただただその肉体でごり押ししてきたが、"進化しせし獣"は取り込まれた当人の技能まで使える。
これではフィアの居る箇所に近づくことすら出来ない。
「確かにあの能力は強力です。強さ、重さ、速さ、全てを兼ね揃えていると言ってもいいでしょう。ですが、だからといって無敵ではありません」
「何か、手があるのか?」
「元より相手に何も合わせる必要はありません。どうせ攻撃されるとわかっているのならそれを利用するまで。【盾撃】」
エドアルドが攻撃に合わせて弾こうと技能を使った。
なるほど、そういう手があったか。【盾撃】で"進化しせし獣"の体勢が崩れれば俺にも飛び乗る隙が出来るはずだ。
「……なにっ!?」
しかし、迫る拳が直前に静止する。タイミングをズラされた為発動した技能は不発に終わり、次の瞬間には長く巨大な尾によってそのまま一緒に吹き飛ばされた。
「エドアルド!!」
「君達は馬鹿かね? 意識こそ朦朧としているが、染み付いた体術は忘れてはいないのだから、この程度のフェイントも造作もない。技能とて知っているのならば対処するだけだ。本能のままに暴れることしか出来なかった"合成獣"とは違うのだ。素晴らしい。魔獣の強力な肉体に鍛え上げられた人の芸があればこうも見違えるほどに動きを変える。素晴らしい、やはり他の"合成獣"を犠牲にしても捕らえて正解だった」
「どこまで人の、他の生物の命を馬鹿にするんですかッ!」
<ガウッ!!>
アイリスちゃんがヨゼフの所業と口ぶりに激怒する。しかしヨゼフはその言葉を何の感慨もなく、受け流す。
不味い、エドアルドは無事か!?
尾は壁にめり込んでいる。最悪の事態が頭をよぎる。
「【回転穿槍】」
<ギィアァァァァッ!!?>
粉塵の中で轟く声。
突き出た槍が皮膚を破り、筋肉を引き裂き、骨を砕いて寸断した。
血を口から吐血しながらエドアルドは槍を突き出し、尾を穿ち斬ったのだ。
「ふぅ……ごほっ、ふぅー……これで厄介な尾は封じれましたね」
「ちぃっ! 何をしている! 奴は虫の息だっ! さっさと捕らえよ!」
<ジンッ、センッ、ツキィィィッ!!>
振り上げられる拳。
もう一度エドアルドに攻撃を加え完全に動きを止めるつもりだ。
「【植物よ、大地に根を張り緑々しく咲き、わたし達を守ってください。植物よ、ーー我は森の守り手、汝の同胞なり。永遠に結ばれし契ちぎりは、決して破られる事なく、我らに根付いているーー防壁樹】」
拳がぶつかるより前に地面から樹々が生え、エドアルドを守るようにそびえる。
アイリスちゃんか! だが、あれでも"進化しせし獣"の攻撃を防げるかどうか。
なら!
「"落花狼藉"」
<ガィィンッ!?>
脚の関節を斬る事で、エドアルドを狙って下げた拳は外れる。
さっきは躱されたが今度は当たった。だがまだ脚は三本ある。完全には動きは止められない。だけど、確実に敵意は俺がとった。
「こっちを見ろ!!」
<コクムゥゥゥキョウゥサアァァァァッ!!>
俺を追って"進化しせし獣"が拳を突き出す。咄嗟にしゃがんで躱すも当たった壁は瞬く間にひび割れる。
壊れなかったのは魔獣を研究する施設が故か、それでも崩壊寸前までに威力を持つ拳だった。
「待て待て待てィッ! 研究所を壊すのはやめよ! それに殺しても良いと言ったが、それでも遺体の損傷は最小限に抑えるのだ!! わかったらさっさとしたまえ、私の最高傑作ならばそのくらい出来るだろう!?」
<!? ア、ギィィ……>
"進化しせし獣"が苦しんだように唸る。
ヨゼフは何らかの方法で"進化しせし獣"を操っているのだろう。それも、痛みを伴う方法で。
どこまでも、ふざけた奴だ。
「全く、やはり子どもの所為か些細な動きが出来ないのが欠点だな。あの男を捕らえられればそれも解決したものを。だが、そうだな。君もなかなか筋が良い。捕らえたらきちんと丁寧に検体として大切にしてあげよう」
「断る!!」
「〜ッ、生意気な!」
「お前の目論見通りになんて何一つなってやる道理はない! 俺たちは皆生き残るし、フィアは返してもらう!」
決意を新たに俺は剣を握りしめ、"進化しせし獣"との戦いに身を投じた。
アヤメが注意を引いてる頃、アイリスがエドアルドの側にやってきた。
「エドアルドさん、ご無事ですか? 今癒しますから」
「ふぅー、ごほっ……ご迷惑を」
アイリスが手を置き、淡い光が灯る。
途端に苦しそうにしていたエドアルドの顔から皺がなくなり、動くようになった手を確認する。
「感謝を。これでまだ戦えます」
「あまり無理はしないでください。いくら傷は塞がっても流れた血は元には戻らないのですから」
「いいえ、アイリス殿。今無茶をせずにいつするのですか。彼もまた、それがわかっているからこそ、退かぬのです。ならばこそ、私も退く訳にはいかない」
エドアルドは立ち上がる。
傷は癒えたが身体中の疲労までは消せていない。にも関わらず、エドアルドもまた戦いを続けようとする。
「ならわたしも! 【木霊との交信】が扱えますから、少しでも戦えるはずです!」
「いえ、アイリス殿はこのまま離れていて頂きたい。私にも、彼にも貴方を守る余力はありません。此度の戦いは危険過ぎます」
「でも! わたしだけ見ているだけだなんて!」
「アイリス殿、大人には大人としての責務が……いや」
エドアルドは言葉を止める。
子ども扱いはアイリスに対する侮辱だ。彼女もまた、決意し、自らの意志で此処に来たのだ。ならば彼女に告げる言葉はこれではない。
慎重に言葉を選ぶ。
「アイリス殿、物事には適材適所があるのです。貴方の役割は前線で戦うことではありません。辛いでしょうが、貴方は今ここで戦いの推移を見つつ何かあればまた癒して下さい。辛いでしょうが、それもまた戦いなのです」
そう言ってエドアルドもまた"進化しせし獣"に向かっていった。
アイリスはエドアルドの言葉を反芻し、俯いていた。
「これがわたしにとっての戦い……? でも、それは皆が傷つくのを安全地帯から見ているってことじゃ無いですか。そんなの、いや、いやです」
だが戦いを見てわかった。
アイリスではついていけない。アヤメみたく躱すことは出来ないし、エドアルドみたいに防ぐ事も出来ない。
「わたしだけ、足手纏いになんかなりたくない……っ! でも、わたしが出てもあの猛攻の中をかわせません。どうして、わたしは弱いんですか。わたしに、ぼっちの、キキョウのような強さがあれば……」
<クゥーン……>
ジャママは見上げる。
アイリスは目に涙を浮かべていた。それでも、流しはしまいと必死になって抑えている。
アイリスが泣いている。
自らに戦う力がないと悔やんでいる。ジャママはその気持ちは痛い程わかった。自身もそれに悩まされてきたのだから。
ならばこそ、それに答えたい。
アイリスを守ると誓ったのだから。
ならば力がいる。
もっと力が。その為に、リンクルに鍛えてもらった。
もう子どものままではいられない。
新たな力と共に、アイリスの助けとなる。
<ウゥゥゥッ!!>
「ジャママッ? ひ、光がっ」
ジャママの体が光に包まれ始めた。
突然の事に狼狽えるアイリス。
魔獣には、時に急成長する事がある。
それは比較的『魔獣使い』と契約した魔獣によく見られる現象だ。一定の絆を深めた際に、『魔獣使い』と魔獣がより強力な力を得るのだ。魔獣はこれまでの既知の魔獣と違った全く別の姿と力を持つという。
無論、アイリスは『魔獣使い』ではないし、ジャママもアイリスと契約などしていない。
だけど、絆はある。
ジャママは子どもの時から上質な餌に恵まれた。アヤメ達がよく魔獣を倒していたからだ。
ジャママは師に恵まれた。リンクルという己の先を行き、同じく主人を守る忠犬と出会い心体共に鍛えられた。
既にジャママが急成長する為の条件は揃っていた。
あとは彼自身の決意である。そして、それも今達成された。
「ジャ、ジャママ……?」
<ウォォォォンッ!!>
光が収まった先、そこにはアイリスの身長を越えるほどに成長した漆黒の毛皮に、金の模様がある狼がいた。
ーー自分はアイリスの為の助けとなろう。
自らの脚で彼女を運び、護る魔獣となる。
ジャママは勇敢な瞳でアイリスを見つめる。
その姿はかつての母狼にも似た、精悍な顔つきの一匹の狼であった。
ジャママは当初からこうなる予定でした。
キキョウと比べ直接的な身体能力には乏しいアイリスを補う形になります。
次回、キマイラとの決着になります。乞うご期待下さい。




