EP34 魔境大乱 ウケツガレル命③
本日(2/13)、2回目の投稿。
レグニルスと姫が合流してからの展開は、アサシンラビット陣営が優勢に進めていた。
しかし、それはあくまでもオーク陣営に対してだった。
集団戦に対応する為の力を得た姫では、この戦場において最強の存在であるリッチに対応出来ない。
その為、リッチのことはあえて放置し、回避に専念する方針を取らざるをえなかった。
幸いだったのは、アサシンラビットは小柄で素早く、回避が得意な種族だったこと。
そして、リッチが主にレグニルスを標的に行動していた事だろう。
「なんで俺だけ狙うんだ!」
狙われるレグニルスとしてはたまったものではない。
謎の即死攻撃を仕掛けてくるリッチから必死に逃げるレグニルスだが、対オーク戦では姫に続いて貢献度が高かった。
なにしろ、リッチから逃げる際にオークを盾にすれば、リッチが邪魔なオークを謎の即死攻撃で処分してくれるからだ。
もっとも、敵を倒した際に得られる経験値は得られていないが。
「良いぞ、その調子でオーク集団の中を走り回れ」
「一般人に無茶言うな!」
姫はレグニルスにオークの集団の中を走り、リッチを誘導してオークを倒させるよう囃し立てる。
勿論本気で言っている訳では無く、ただの冗談だ。
同盟者イジリはウサギ姫の鉄板ネタである。
「大体、さっきから姫さんの攻撃も効いてないだろ!」
「逃げ回るだけのお前よりはマシだ。それより、馴れ馴れしいぞ、貴様」
「いや、一応対等な関係って事で良いじゃない!」
オークの攻撃を避け、リッチの即死の手から逃げる。
そんな一歩間違えれば大怪我、もしくは即死してしまう状況に焦るレグニルス。
そんなレグニルスとは対照的に、姫は冷静だった。
冷静にオークの攻撃を避け、リッチの死角をついて攻撃を繰り返していた。
同じ戦場に立つレグニルスは叫ぶように声を発しているが、姫は日常生活の様な落ち着いた声で言葉を交わしていた。
発する声の強弱も二人の状況を如実に表しているが、姫もそこまで余裕がある訳では無い。
一対一により特化したギロチンラビットを選択しなかった影響なのか、存在進化した彼女の攻撃がリッチにはまるで通用していないのだ。
攻撃が当たらない訳では無い。
姫の斬撃は確かにリッチの急所を捉えているが、リッチの骨が姫の斬撃をはじいているのだ。
「思ったより硬いな」
リッチの骨が硬い事は分かっていた。
なにしろ、リッチは王の、アサシンラビット最強の斬撃をもってしても断てなかったのだ。
存在進化により能力が向上したとはいえ、それだけでリッチを斬れるとは姫も思っていない。
しかし、自身の斬撃で斬れないモノがあるというのは内心穏やかでは無い。
レグニルスに手を伸ばすリッチの背後から接近し、リッチの腓骨を断たんと姫は魔力を込めた耳を振り切る。
が、リッチの骨は断てない。
ほんの僅か、骨に一本の傷跡は残るがソレだけだ。
「骨だけの相手がこれだけ厄介だとは」
「生前はカルシウムをちゃんと摂取してたんだろうね」
「カルシウム? 何だ、それは」
「骨の材料。これが不足すると骨の中身がスカスカになる」
迫りくるリッチの手を避けたレグニルスは姫の愚痴に答え、リッチの骨を断てなかった姫はレグニルスの死角に立っているオークの腕を、行き掛けの駄賃に斬り飛ばす。
「それで、何時までここに留まれば良いんだ?」
「ふむ、フォレストウルフが撤退を開始してから一時間といったところか」
殿は本隊が安全に撤退出来る時を稼ぐ役目ではあるが、なにも死ぬまで戦う役目では無い。
中には捨て奸と呼ばれる死ぬまで戦う事を求められる戦法もあるが、今回の殿はそこまでの役割は求められていない。
そもそも、アサシンラビットは転移により撤退する事を前提に、殿としてこの場に残っている。
つまりは何処かのタイミングでアサシンラビット達も撤退すると言う事だ。
そのタイミングを判断するのは誰かと言えば、アサシンラビット達のリーダーである姫以外にはいない。
同盟者たるレグニルスにもタイミングを計る権利はあるのだろうが、姫に撤退タイミングを確認した事で、その権利をなかば放棄していた。
「フォレストウルフの俊足を考慮すれば足止めは十分か?」
「オークの陣形も乱れて混乱してるし、直ぐに追撃出来る状況じゃなさそうだ」
「リッチから逃げる豚鬼に、追撃する気迫があるとは思えんしな」
オークは土壁に分断され混乱している所をリッチに乱入され、その混乱度合いをさらに高めた。
アサシンラビットを襲う者もいれば、逃げたフォレストウルフを追おうとする者、戦場から離脱しようとする者、オークは組織的な対応が出来ずに混乱している。
「手負いのフォレストウルフも安全圏に逃れただろう」
「一応、ゴブリンとコボルトも逃げたみたいだ」
姫は父を助けたフォレストウルフしか気にしていないが、レグニルスが見渡す範囲ではゴブリンとコボルトの姿が消えているので、対オーク同盟の一角を担った彼等も無事に戦場を離脱したようだ。
ゴブリンとコボルトについては、戦場の至る所に死体が転がっているので逃げ遅れた者がいないと言う確信は持てないが。
「よし、撤退しよう」
悩むこと数秒。姫は直ぐに撤退の決断を下す。
姫は最低限の義理は果たした、そう判断したのだ。
この決戦でアサシンラビット村を奪還することは不可能。
ならば、後は犠牲を最小限に撤退するに限る。
「随分とあっさりしてるね」
「撤退が嫌ならお前だけ残っても良いのだぞ?」
「いや、遠慮しておく」
そんな姫をレグニルスは茶化すが、やはり姫は冷静に返すのだった。
冷静に返されたレグニルスだが、姫の決断に不満がある訳では無い。
なにしろ、レグニルスと姫は会話を続けているが、同時に戦闘を続けているのだ。
レグニルスは変わらずにリッチに狙われているし、姫はそんなレグニルスを囮にリッチに攻撃を繰り返していた。
「爺、撤退だ! 皆を集めろ!」
「全員がダンジョンエリアに集結後、転移で撤退するから遅れないように」
「承知」
姫は近くで戦っている爺に撤退命令を出す。
その命令をレグニルスが補足するが、これは同盟者としての意地だった。
そんな両者の指示を聞いた爺はその場を離脱、群れの仲間を終結される指示を各所に伝えるのだった。
そこからは早かった。
転移による撤退を前提としていたので、大半のアサシンラビットはダンジョンエリア内で戦っていたからだ。
それでも数羽程度はエリア外で戦っていたが、撤退指示が出た瞬間にエリア内への移動を開始していた。
「ダンジョンマスター殿、全羽エリア内に集結致しました!」
全羽がエリア内に入った事を確認した爺は、リッチの攻撃から逃げているレグニルスにそのことを伝えるのだった。
戦闘中のレグニルスは本当に全羽終結したのか確認出来ないが、爺の声を聴いて転移を実行することは出来る。
「転移するから注意して!」
転移は一瞬だった。
土壁に囲まれた戦場から、レグニルスが見慣れたマンション型ダンジョンの前庭へ。
戦っていたリッチやオークの姿も無く、レグニルスとアサシンラビット達は戦っている体勢のまま前庭に姿を現していた。
「…何故ここなのだ? 建物内に転移しても良かっただろ」
転移は物理的な距離も障害も無視する移動方法だ。
指定した移動先に一瞬で移動する。それが転移である。
つまり、レグニルスがマンション内を移動先に指定すれば、そこに移動出来たということだ。
「建物内に歩いて移動しなければならないでは無いか」
「戦闘中の転移だったんだから我が儘言うなよ。大した手間じゃ無いんだし」
リッチから逃れた。
その事実が皆の緊張を和らげる。
和らいだからこそ、姫は小さなことでレグニルスに噛みつき、精神的に有利な立場を得ようと画策したのだ。
「まだまだ修行が足りんな」
「はいはい」
言えない。
前庭に転移した本当の理由は言えない。
そうレグニルスは内心焦っていた。
戦闘中の転移だったので何時もより大雑把な操作になったのは事実で、前庭に転移したのも現代日本人の常識が咄嗟に顔を出した影響なのだ。
すなわち、外で遊んで汚れた動物はそのまま家に入れない、そのような常識が頭をよぎってしまったのだ。
動物扱いされる事を嫌う姫には言えない、レグニルスが墓まで持っていくべき事実だった。
△▼△▼△▼△▼
戦場から逃れ、和気あいあいとするレグニルスとアサシンラビット達。一方、戦場に取り残された存在がいた。
レグニルスを襲い続けたリッチは、獲物が急に目の前から消えたことで呆然と立ち尽くしていた。
「…ヤハリ」
しかし、リッチが呆然としていたのは一瞬だった。
そもそもリッチが呆然としていたのは、急に獲物が消えると言う現象が理解出来なかったからでは無い。
リッチは獲物が消えた現象に心当たりがあった。
心当たりがあったからこそ、リッチは獲物がどの様な存在なのか確信が持てたのだ。
そして、その確信がリッチの思考を一時的に止めていた。
さて、どうするか、と。
リッチが辺りを見渡せば、当初の獲物であるオークがいる。
初志貫徹。
このままオークを狩り尽くし、その後に新たな獲物を追うか。
それともオークを無視し、直ぐに新たな獲物を追うか。
リッチは考える。
収支を考えれば、オークを狩り尽くした方が良い。
新たな獲物を追うのは、自身の個人的な感情であることをリッチは理解している。
あの新たな獲物を狩ったところで、収支としてはそれ程美味しい相手では無い。
しかし、個人的な愉悦だが新たな獲物を追う事をリッチは選択した。
今なら、自身から逃れたと考えている獲物を驚かすことが出来る。
そうリッチは考えていた。
そして、さらに考える。
驚く獲物に何を言えば、より絶望させられるかを。
リッチが思いつく台詞は2パターンだったが、より古典的な台詞を選択する。
言うべき言葉が決まれば、直ぐに獲物を追う作業に移る。
幸い、獲物の魂の色は覚えており、獲物の逃走先も遠くないので直ぐに捕捉出来た。
そのまま追いかけても良いが、獲物の呼び名から考えれば巣穴を持っている可能性が高い。
己の力に自信のあるリッチだが、巣穴に隠れた獲物を追いかけるような無駄な労力は支払いたく無かった。
だから獲物が巣穴に逃げないよう、檻を事前に用意しておく。
ああ、なんと矮小な存在に堕ちたのだろうか。
リッチは過去の自分と、現在の己の在り方を比較して嘆いた。
獲物に対する恨みは無い。
あるのは、一度失敗した人間の醜い嫉妬。
ただの嫌がらせ。
それを理解していても、リッチは獲物を狙うことは止めない。
かつて自身が歩んだ、輝かしい道を歩んでいる存在がいる。
道を外れた自分と同じ様に、あの獲物に苦難の道を歩ませたい。
それが、リッチがレグニルスを狙う動機だった。
「マダ狩ノ時間ハ終ワッテイナイ」
そして、決戦の地に取り残されていたリッチも姿を消した。
△▼△▼△▼△▼
それは突然の事だった。
転移による撤退を行い、マンション型ダンジョンの前庭に移動していたレグニルスとアサシンラビット達。
マンションに入るため、簡単に汚れを落としている時にソレは起こった。
ソレに最初に気が付いたのは、存在進化を果たした姫だった。
次に姫に遅れること数秒、ダンジョンマスターであるレグニルスが気付く。
前兆はまるで無かった。
そう、ソレは何処かから移動してきた訳では無い。
完成された絵に突然現れたシミのように突然現れたのだ。
突如現れた気配に視線を向ける姫とレグニルス。
視線の先は、前庭の中心。
そこにリッチが静かに立っていた。
「え?」
驚きにより、レグニルスは言葉が出なかった。
そして、意味が分からなかった。
リッチが現れる予兆など、何も無かった。
音も無く、直前まで気配も無かった。
本当に、突然そこに突然現れた、そう表現するしかない現象だった。
「……転移移動」
自身の能力では無いからか、姫はリッチが急に現れた理屈を直ぐに理解出来た。
空間と空間を繋げ移動する能力。
同盟者であるレグニルスが持っている能力であり、決戦での移動に用いた能力。
その能力を、相手も持っていたのだ。
そして、逃げられなかった。
その事実がレグニルスを、姫を、アサシンラビット達を襲う。
やがてその事実は恐怖となり、絶望へと変化していく。
そんなレグニルス達の絶望を観察していたリッチは口を開いた。
「知っているだろう、魔王からは逃げられない」
リッチが口にした台詞を聴いて、レグニルスは理解した。
今までは聞き取りにくい発音だった為、その可能性に気が付いていなかった。
しかし、今の綺麗な発音で全ては繋がった。
何故、アンデッドモンスターの言葉を理解出来たのか、リッチが自分を狙うのか。
「日本語…」
それは、かつてレグニルスが日常的に使用していた言語。
ここでは無い、別世界で使用される言語だった。
「俺と同類、転生者…」
そうレグニルスが理解した瞬間、リッチの獲物を逃がさない為の檻が発動する。
リッチの体から光のドームが出現し、レグニルス達を取り込みつつ広がっていく。
「さあ、私とラストバトルを踊ろうでは無いか」
光のドームの拡大が止まる。
前庭の大部分を取り込んだドームは、リッチ主催のパーティー会場。
パーティーの開宴を告げる挨拶が静かに響く。
一度はやってみたかった一日複数回更新。
結局、一万文字近くなったので分割して良かったのかな?
また、皆様のおかげで総合評価 494ptになりました!
500ptまでカウントダウン開始です。
次回は転生者 VS 転生者のラストバトル。




