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EP29 魔境大乱 ヨミガエリシ命③



「平和だなぁ」


ソファに横になって寛ぐレグニルス。

日々の疲れを癒すように彼は瞼を閉じ、これまでの物語を振り返った。


「…尊い」

「…お前は何をやっているのだ」


目を閉じているレグニルスの耳に、アサシンラビットの姫の呆れた声が聞こえる。

そんな姫の声を無視し、レグニルスはTVから流れてくる音楽を聴くことに集中する。


彼の脳裏に浮かぶのは、先程まで見ていたアニメのみ。


「…無視するな」


無視された形の姫は、ソファで横になっているレグニルスの胸に飛び乗り、バシバシと耳でレグニルスの胸を叩く。

しかし、無視を決め込んだレグニルスには通用しない。


「この板、叩き斬るぞ」

「スイマセン、止めてください」


自身への攻撃はそれ程痛くないので無視できたレグニルスだが、流石にTVへの攻撃は許容出来なかった。

なぜなら、TVを斬られてしまうと具体的な被害として、TVの買い替え代金が発生してしまうからだ。


「それで、急にどうしたんだ?」

「それはこちらのセリフだ、馬鹿者」

「いや、急に馬鹿者と言われても困るんだけど」


レグニルスは閉じていた目を開け、自身の胸に乗っている姫を見上げた。

そんなレグニルスを見下ろしながら、この怠け者に群れの命運を預けても大丈夫なのかと姫は不安に思ってしまう。


「我等はオークと戦争をしているのだぞ。それなのにお前は何を遊んでいるのだ」

「いや、まずはオークを間引くって決めたじゃないですか」

「…しかし、だからと言って怠けて良い訳では無いだろう」


オークの間引きを始めて2週間。

定期的にダンジョンを訪れるオークの狩りパーティーを土の壁で隔離、各個撃破によりオークの総数を減らしてきた。


その効果は確実に出ており、オークがダンジョンにやって来る頻度が明らかに減って来ている。


「だってオークが来ないんじゃ仕方ないだろ。それに今日は元々休日の予定だったし」


オークが来ないので間引き作業も無くなり、レグニルスの仕事はコーチとの訓練だけとなって数日。

今日は定例の休日なので、レグニルスは朝からゴロゴロと余暇を満喫していた。


・・・休んでばかりいるように見えるレグニルスだが、きちんと週5は8時間しっかりと働いているのだ。


「しかしだな、オークとの闘いでレベルアップしたとは言え、まだダンジョン外でオーク達と戦える程の戦力は無いぞ」

「それは分かっている」


格上のオークを相手に複数で戦ったとはいえ、20体程倒して来たレグニルス。

お蔭で彼はレベルだけは一流と呼べる域に到達していた。


また、オークの魔核の売却益により、アサシンラビット達の受け入れコストをペイ出来ただけでなく、10万円の繰り越し返済まで行えていた。


-----------------------------------------------

※( )内の数字は上昇値

基本情報

名前:レグニルス・レイル・レナグレイルス

種族:人間

性別:男

年齢:18

階級:男爵

合計レベル:40 (+18)

種族レベル:8 (+3)

職業:【剣士】レベル9 (+4)、【司祭】レベル6 (+3)

未装備:【槍士】レベル1

特別職:【ダンジョンマスター】レベル5 (+2)、【貴族】レベル4 (+2)、【聖人】レベル5 (+3)、【引き籠り】レベル3 (+1)


保有スキル

基本スキル:

【剣術】レベル3

【身体能力強化】レベル3 (+1)

【魔力操作】レベル2 (+1)

【肉体強化魔法】レベル2 (+1)

【回復魔法】レベル3 (+1)

【足裁き】レベル2 (+1)

【斬撃強化】レベル1 (New)


固有スキル

【不老】レベル2 (+1)

【ダンジョンコア操作権限】レベル4 (+1)

【貴族の誇り】レベル3 (+1)

【カリスマ(クラスC)】レベル2 (+1)

【神の祝福】レベル3 (+1)

【精神攻撃耐性】レベル3 (+1) (※領域内でのみ有効)


ユニークスキル

なし


剣士スキルポイント : 27

司祭スキルポイント : 18


返済状況

借金残高1975万円 (-10万円)


ダンジョン収入

25万2千/月


所持金

50万円 (+6万円)

------------------------------------------------


合計レベル40となった事で、オークの戦士階級とレベルの上では互角となったレグニルス。

しかし、これは相手が平凡な戦士階級だからこその話であり、相手がエリート戦士や族長、王などであれば話は変わってくる。


「斥候とか情報収集とかやるべき事はあるけど、どっちも出来ないからなぁ」


レグニルスは自身のステータスを確認し、どうしても自身が斥候などの情報収集に向いているとは思えなかった。

なにしろ【隠密】や【偵察】などの必須スキルを一個も所持していないのだ。

だからこそ、レグニルスはそのような仕事を諦めて休日を満喫出来たのだ。


「それに明日は、この世界に転生してから四回目の給料日。今日くらいゆっくりさせて欲しいな」

「いや、意味が分からない」

「これだから無職のウサギは」


レグニルスの仕事したく無い理論は、給料という概念の無いウサギの姫にあっさり却下された。

最後の悪あがきとしてレグニルスは悪態をつくが、まさに暖簾に腕押し状態。


「どうでも良いから働くがよい」


鼻で笑われ、働く事を強要されるレグニルス。

一応はダンジョン内の暦では土曜なので、現代日本で言えば休日であった。


しかし、ここは現代日本の常識が通用しない異世界。

週休二日制どころか、休みという概念があるかも怪しい世界である。


「…働きたくないでござる」

「あ?」


レグニルスの戯言に、ウサギがしてはいけない表情と乙女が出してはいけない声で姫は応じた。


「働きます」

「そうするがよい」


現代日本人の感覚では休日なのだが、現地人の姫の圧力に屈したレグニルス。

郷に入っては郷に従え。

すこし真面目に休日労働に勤しむ事にする。


「何故そなたに群れの者達が従うのか謎だな」


ようやく働く気になった怠け者に、姫は日ごろ思っている疑問を投げかけた。

レグニルスの配下モンスターになり、数日も経った頃にはアサシンラビット達はレグニルスに従うようになっていた。


これに群れを率いる姫は慌てた。

元々ダンジョンに身を寄せたのは一時的なモノで、身を寄せているにしても無理矢理に『貸し』をつくり、対等な関係で身を寄せたのだ。

それに正直、群れの配下が自分以外の指示に従うのは想定外だった。


「ああ、それ多分スキルの効果。【カリスマ(クラスC)】ってスキル持ってるから、100人位の配下に対して忠誠度とか信頼度が上がるんだ」


ボッチだったレグニルスの死にスキル【カリスマ(クラスC)】。

指揮能力向上、配下の能力ブーストと成長補正、配下からの信頼度、忠誠度に補正があるスキルだ。

クラスはスキルの対象範囲を示し、クラスCは百人程度の配下を対象に発動する。


ちなみにクラスDは10人単位、クラスBは1,000人単位で効果があり、レベルが1あがる毎に対象範囲が増えていく。

レグニルスの現在のスキルレベルは2なので、200人までに効果があり、201人目の配下からは効果が発揮されない。


「…なるほどスキルの効果か」


レグニルスの答えにホッとする姫。

群れを放置して自身の鍛錬を優先させていたので、群れの配下から見捨てられたのかと焦っていたのは彼女だけの秘密なのだ。


「しかし、あそこまで慕われるとはスキルとは凄いのだな」

「ま、まあね」


アサシンラビット達に姫と同レベルで慕われているレグニルス。

そこにはスキルの力もあるが、それだけでは無い。


レグニルスがアサシンラビット達に住処として提供したウサギ小屋はチートアイテムであり、フォレストウルフの犬小屋と同様に忠誠度とか親密度、愛情度が上がる優れものなのだ。


「でも、仕事と言っても実際にやることって特に無いよ?」

「情報収集に出ていた者達が戻った。何やら森に変化があるらしい」

「…なるほど、緊急会議ってことか」


重要プロジェクトにおいて、何かしらの緊急事態が起きた際は休日であろうとメンバーが招集される事は現代日本でも珍しくない。

実際に会社まで招集されるか、電話会議などで済ませるかは所属する会社によって異なるだろうが。


それにレグニルスもIT系の会社に勤めていた人間として、普通に休日出勤の経験はある。

ITシステムの変更作業などは業務時間外に実施する事が常識なので、作業を実施する作業員は必然的に業務時間外に出勤して作業する事になるのだ。


「それなら仕方ない。場所は前と同じファミレスで良いのかな?」

「かまわんぞ、あの野菜スティックなるモノはなかなかの美味だった」


前回のファミレスでの打ち合わせの際、何も注文しない訳にはいかないので、皆が食べられるメニューをレグニルスが代表して注文した。


とは言え、相手はウサギだ。

種族としては肉も食べられるし、人間と同じ物も食べられる。


しかし、ウサギなのでナイフやフォーク、お箸が使えない制約があった。

そこでレグニルスが注文したのはフライドポテトやピザ、唐揚げなどの簡単に摘まめる料理を中心に頼んだ。


そして、アサシンラビットの姫が気に入った料理が、野菜スティックだった。

彼女はファミレスのメニューにしては妙に凝っている、オーガニック野菜のスティックを大層気に入っていた。


「ほら、早く行くぞ」

「はいはい」


姫に急かされ、レグニルスは会議場であるファミレスに足を運ぶ。

既にファミレスにはレグニルスと姫以外のメンバーは揃っており、二人の到着を待っている様子だ。


「もしかして待たせちゃった?」

「お前がグズグズしているからだ」


自分を待っていた、という状況に気まずい思いのレグニルス。

順調に俺tueeeの道を進んでいるレグニルスだが、やはり中身は現代日本に生きるありふれた社会人でしか無いのかもしれない。


「なに、情報を整理していたのでかまわぬよ」

「爺、この男に甘すぎるぞ」


アサシンラビットの中でも特にレグニルスと仲が良い爺が声をかけるが、そんな配下の気遣いが姫には信じられない。

彼女の認識ではレグニルスとは協力関係にはあるが、それ以上の関係に発展させるつもり無かったからだ。


「…これもスキルの影響か?」

「ははは。適当に注文するから、早速会議を始めようか」


配下の謎のレグニルス推しを前に、不正を疑う目でレグニルスを追求する姫。

そんな姫の視線を誤魔化すように、レグニルスは会議の開始を宣言した。


「そう言えば、この会議の議題って?」


開始を宣言したのが良いが、議題を知らないレグニルス。

進行役失格である。


「魔境にて異変があり、その報告を行いたく」


議題が分からないレグニルスをフォローするように、戦士階級代表であるアサシンラビットが答えた。


「異変?」

「ダンジョン周辺に生息している、複数の種族のモンスターが我等の村、現オーク村に向かって移動しているのです」

「それは確かに異変だね」


戦士階級代表が報告した内容は、まさしく異変だった。


魔境には複数の種類のモンスターが生息している。

群れで生活する種類、個体で生活する種類、知恵のある種類に無い種類。

本当に多種多様な種類のモンスターが生息しているのが、このダンジョンがある魔境なのだ。


そして魔境中心部から離れる程、生息するモンスターの種族ランクは低下していく。

その為、魔境外延部に建つマンション型ダンジョン周辺に生息するモンスターは、種族ランクDかEの低位種族が中心だ。


そんな低位種族モンスターが、格上であるオークの村に移動している。

今までになかったモンスターの行動だった。


「…オークに服従する為か、連合してオークと決戦する為か」


レグニルスが思い浮かぶ、モンスターの行動理由はこの二つ。

反対方向、オークとは逆の方向であれば『逃走』という可能性が真っ先に思い浮かぶのだが。


「服従であれば、複数の種族が同時に移動する意味が分からない」

「姫様の言う通り、服従であれば同時に行動しているのは妙ですな。我等モンスターは種族間の交流など皆無、示し合わせたように同時に行動を起こす事などありえますまい」

「まあ、同時に服従する意味も無いしね」


オークから服従の意を示す時期を指定された可能性もあるが、オークに時期を指定する知恵があるとは思えない。


それにオークが格上とは言え、オークは絶対的な強者では無かった。

無条件に、複数の種族が恭順の意を表するとはレグニルスには思えない。


「だとすると、決戦かな?」

「移動している種族は分かっているのか?」

「はい、姫様。現在確認出来ているのはゴブリン、フォレストウルフ、コボルト、それに…」

「それに、なんだ?」


言いにくそうに、口籠る戦士階級代表。

しかし、問い詰めるような姫からの眼差しに耐えられるはずもなく、おずおずと口を開いた。


「未確認ですが、アサシンラビットの姿がありました」

「アサシンラビットだと?」

「はい、確認した者の話では王の姿をお見かけしたとも」


アサシンラビットの村を脱出して以来、行方が分からなかった姫の父の行方。

一軍を率いて村を出ていたのは把握していたが、それ以降の消息が不明だった王。


「…生きておられたのか」


そう姫が呟くのを聞きながら、レグニルスは決戦を予感していた。

生き残りの王が姿を見せた以上、それは降伏の為では無いであろう。


僅かな時間しか共に生活していないが、それでもアサシンラビットのプライドの高さをレグニルスは知っている。

なにしろ、無理矢理『貸し』を作られ群れを匿う事になったのだから。


それにオークに降伏するにしても、ここまで時間を引き延ばす事をアサシンラビット達はしないだろう。

オークとの戦力差は既に明白。降伏するのであれば、彼等はさっさと降伏していたはずだ。


彼等はプライドも大事にするが、それ以上に群れの仲間を大事にする種族なのだ。


「しかし、このタイミングで決戦か」


決戦の地であろう、アサシンラビットの村からダンジョンはそれなりに離れている。

今からダンジョンを出発したとしても、オークとの決戦に間に合うかは未知数であった。


そして、レグニルスにはオークとの決戦に参戦する動機が無い。


「ここで見て見ぬふりするのも嫌だしな」


決戦を無視するか、アサシンラビット達に加勢するべきか。

レグニルスの答えは出ない。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


長かった。

それが王の率直な気持ちであった。


実際の時間は数週間かもしれないが、村を失った王にとっては悠久の時間であったのだ。

一軍を率いて村を出たのは何時だったのか、既に王には分からない。


手薄だった村を襲われ、帰る場所を失った。

還る場所を失った王は、無謀を承知で村奪還の為に玉砕するつもりだった。


しかし、救いの手は意外なところから差し出された。


「いよいよですな、ウサギの王」

「ご助力、感謝いたします」

「なんのなんの。娘と孫を助けられた恩をお返ししたまで」


アサシンラビットの王に並び立つ、フォレストウルフの王。

彼こそが、アサシンラビットの王に救いの手を差し伸べた存在だった。


フォレストウルフの王が、アサシンラビット達を助けた理由は単純だった。

駆け落ちした王の娘と、お腹の中の王の孫をアサシンラビットが助けたから。


アサシンラビットの王には覚えが無い事だったが、話を詳しく聞けばフォレストウルフを助けたのは彼の娘とのこと。

思いがけず娘の善行により生きながらえたアサシンラビットの王は、落ち着いた後も娘の元には戻らずにいた。


「それにオークの事は、アサシンラビットだけの問題ではありませんからな」


オークがアサシンラビットの村を制圧してから約二週間。

すでに周辺の生態系のバランスは崩れていた。


もともと魔境中心部に暮らしていたオークが必要とする魔力は多く、魔力が豊富な魔力溜まりを制圧したオークだったが、それでも必要とする魔力は不足していた。

そこで魔力不足を解消する為、オークは外部から魔力を補充した。


オークが悪食と呼ばれる由縁でもある、動植物の過食である。

新たな食物連鎖の頂点消費者の登場により、生態系のバランスが崩れるのは必然だった。


この事を問題視したフォレストウルフの王を説得し、挙兵させたのがアサシンラビットの王であった。

彼はオーク討伐の為、娘に合流せずに周辺の種族にオークの危険性を説いて回っていたのだ。


「このままでは、あの豚鬼にこの森は食い尽くされてしまうでしょうからな」

「そう言うことですな」


もちろん、フォレストウルフの王もソレがただの大義名分であることは理解している。

この戦いの本質は、アサシンラビット村の奪還。


しかし、いくら娘の恩人の為とは言え、それだけで一族の長としてオークに無謀な戦いを挑む訳にはいかない。

だからこそ、フォレストウルフにとっての戦う為の理由が必要だったのだ。


そして、食糧危機という大義名分はフォレストウルフ以外の種族にも響いた。

実際に食糧をオークに取られ、餓えはじめていたからだ。


「ゴブリンとコボルトには撹乱に専念するよう念押ししておきましょう」

「あの者達の力では、オークには勝てないでしょうからな」

「しかし、あの者達がオークの注意を引いてくれなければ我々の勝利も危ういかと」


アサシンラビットの王は、静かにフォレストウルフの王に助言する。

この対オーク同盟の盟主はフォレストウルフの王であり、領地を失った彼は副盟主として盟主の助言者として振る舞っていた。


「アサシンラビット王の言う通りだ、彼等には錯乱に注力して貰おう」


種族ランクEのゴブリンとコボルトは数多く同盟に参加しているが、力の差があり過ぎて対オークの主力にはなり得ない。

それなのに何故彼等が従軍しているかと言えば、単純に口減らしの為だ。


食糧危機の影響を一番受けているゴブリン、コボルトは生態系のバランスが回復するまで、群れが生きていける個体数に調整する為に余分な仲間を死地に送り込んだのだ。


様々な思惑を秘めた対オーク同盟はやがて決戦の地、旧アサシンラビット村にたどり着く。

オークも同盟の動きをつかんでいたが、村の外での迎撃は行わず、魔力が豊富な旧アサシンラビット村での決戦を望んだのだ。


「かかれぃ!」


こうして、オークと対オーク同盟の決戦の幕は開ける。

オーク70に対し、対オーク同盟の戦力は160。

数の上では同盟が有利であったが、個々の戦力はオークが圧倒していた。

次回はゴブリ○スレイヤーさんの出番(嘘)


ステータスの書き方変えました。

評判良さそうならこのままにします。


外伝も入れれば30話目。

思えば遠くに来たものだ。

これも読んでくださる読者様のおかげです!


しかし、家の主人公の俺tueeは何時書けるのか。

プロット上はもう直ぐなはずorz

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