EP26 魔境大乱 キエル命とウマレル命④
「あっ!」
トンと軽い音をたてて、ティーカップが床を転がる。
それなりの高さから落ちたティーカップだか、とくに破損した様子は無く、原型を留めたままメイドカフェの磨き抜かれた床をコロコロと転がっていく。
「し、失礼しました!」
ティーカップを落としてしまったウサ耳メイドさんのはれ。
彼女は慌ててティーカップを落としたことを謝るが、周りはそんな彼女を生暖かい目で見守るのだった。
「お客さん誰もいないから大丈夫だよ」
「ティーカップもダンジョンの備品で加護があるから壊れない」
「にゃーん」
優しい励ます犬耳メイドさんのちょこと、気だるげにはれを気遣うキツネ耳メイドさんのあんず。
そして、励ましているのかよく分からない猫耳メイドさんのココ。
本日もダンジョンメイドカフェは通常運転だ。
「でも、このカップはレグニルスさんのカップで」
「別に壊れてないから大丈夫いでしょ」
「洗っておけば大丈夫」
普通の喫茶店は特定客専用のティーカップなど用意しないのだろうが、客が数人しかいないメイドカフェでは自然と専用カップが用意されるようになっていた。
備品に拘った結果、ティーカップも複数の柄が用意されており客の好みに合わせたら、それぞれ好みの柄のティーカップが専用カップになったのだ。
「でも、ご主人様は戦ってるって」
「あ~、それは縁起悪いわ」
「…哀れ、ご主人様の頭は粉々に」
落ちたティーカップを拾ったはれは、両手でしっかりとティーカップを持ちレグニルスの無事を祈る。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「準備は良いかな、ダンジョンマスター殿」
「いつでも大丈夫です」
愛剣を構え、何時でも斬りかかれるよう心と体勢を整えるレグニルス。
その横でレグニルスの仲間になったアサシンラビットも、レグニルスと同様に何時でもオークを斬り裂けるよう体を低くし開戦を待つ。
ダンジョン内のメイドカフェでティーカップが落ちた頃、レグニルスの第二ラウンドのゴングが鳴ろうとしていた。
「では、参ろうぞ」
「はい!」
アサシンラビットの声を合図に、一人と一羽が駆ける。
牽制役として先頭にアサシンラビット、その後ろをレグニルスが続く。
「ぐもぉ!」
先頭を走るアサシンラビットに対し、オークは手にした棍棒を振り下ろす。
しかし、小柄なアサシンラビットは迫りくる棍棒をひらりと避けてしまう。
そして棍棒を振り下ろした隙をつき、一気にオークに駆け寄る。
「っふ」
短く息を吐き、アサシンラビットは己の耳でオークを斬り裂く。
が、一体目のオークと違い絶命させるまでにはいかない。
脂で切れ味が鈍った利き耳での斬撃を止め、利き耳とは逆の耳でオークを斬った結果だった。
「ダンジョンマスター殿!」
「わかってる!」
オークは本能的に己を斬ったアサシンラビットを目で追ってしまっている。
仲間の命を奪ったアサシンラビットを無視することは出来なかったのだ。
「頭は冷静に、心は熱く。そして、いつも通りに」
レグニルスがオークとの間合いを詰めると、オークから受けるプレッシャーが大きくなる。
オークはモンスターの中では巨体では無いが、それでもレグニルスよりも大きい。
脂肪の鎧もあり、力士を1.5倍に大きくしたくらいだろうか。
地面に叩きつけられている棍棒も太く、丸太のような太さだ。
振るうオークの腕はそんな棍棒よりも太く、ちょっとかすっただけでも大怪我になることは容易に想像出来る。
そんなプレッシャーを無理矢理押し込め、レグニルスはオークとの間合いを詰める。
そしてコーチとの訓練で一番多く振っている斬撃にして、一番自信のある一撃を放つ。
「しっ!」
上から下に剣を振り下ろす、所謂唐竹。
オークは血飛沫をあげた。
が、その巨体が倒れる事は無い。大地に根付いた大木のように不動だった。
「まだだ! ダンジョンマスター殿!」
アサシンラビットの声に返事する手間さえ惜しみ、レグニルスはすぐさま後ろに飛ぶ。
レグニルスの一撃は、オークを絶命させてはいなかった。
肉体は縦一文字に斬り裂いたが、斬り裂いたのは脂肪の鎧のみ。オークの生命維持に必要な臓器までは斬り裂けていなかったのだ。
そして、己を傷つけ、間合いにいる敵にオークが遠慮する必要は何処にもなかった。
地面に叩きつけられていた棍棒を振り上げ、そのまま下からレグニルスを攻撃する。
「あっぶな」
オークの命を奪えていないことを察知し、同時にオークからの逆襲を予測していたレグニルスはオークの棍棒を紙一重でかわす。
これは一流の剣士のようにわざと紙一重でかわした訳ではなく、必死にかわした結果なんとか紙一重で避けられた、というのが真相だ。
「衝撃だけで首が飛んでいきそう」
振り上げられた棍棒が空気を叩く衝撃を肌で感じ、レグニルスは改めてオークのパワーを脅威に思う。
レグニルスは何度か地方出張した経験があるが、その中で新幹線の通過駅で目の前を新幹線が通過するのを目撃した経験がある。
記憶が薄れているので比較は難しいが、レグニルスはそれと同等の衝撃をオークの棍棒から感じた気がしていた。
「これで種族ランクCだもんな。同じパワー系の種族ランクBのオーガとか、どんなけ強いんだろ」
驚異の格差社会だな、と内心現代日本で感じた以上の格差に絶望しながら、レグニルスはオークの振り上げられた棍棒から目を離さない。
その一撃の威力は、たった今身をもって知った。かすった衝撃だけでも死を予感させるに十分な威力だったのだ。
こうして真正面から向かい合った状態で、オークの武器を無視するなどレグニルスには出来ない。
そして、それはオークも同じであった。
いくら脂肪の鎧で致命傷は避けたと言っても、オークも生物なので痛覚はある。
アサシンラビットに斬り裂かれた傷も痛むが、レグニルスに深く斬り裂かれた縦一文字の傷の方がオークにとっては危険であった。
もし後一歩、相手が踏み込んでいたら命が危うかったのではないか、そう考える程に。
故に、オークもレグニルスから目が離せない。
そして必然的に、この戦場において誰からも注目されない存在が生まれた。
「っふ!」
オークの背後に回り込んだアサシンラビットは、無言で短く息だけを吐き再び斬りかかる。
その斬撃はレグニルスを警戒していた為、無警戒となった背中を斬り裂いた。
そして、その一撃はオークの命は奪えないまでも、オークの注意をアサシンラビットに移す意味では成功した。
「っ!」
オークの意識が背後のアサシンラビットに移った瞬間。
レグニルスは勝機を見出していた。
何かカッコいいセリフを言おうかと邪念が頭をよぎるが、コーチによって鍛えられた体は自然と前に出ていた。
「ぶも!」
オークが背後のアサシンラビットに注意を移したのは一瞬だった。
その一瞬の間に、正面に立つこの場で一番危険なレグニルスが突撃してくるのを察知したからだ。
そしてその瞬間、彼は本能的に棍棒を振り下ろす。
「なんとぉ!」
しかし、オークが咄嗟に振り下ろした一撃は、レグニルスが誘った一撃だった。
レグニルスはオークの一撃を予測し、棍棒の間合いに一瞬だけ入った後にブレーキ、すぐさまバックステップで間合いの外に出たのだ。
もっとも、レグニルスの予想より早い一撃だったので、バックステップによる回避がまたもや紙一重となってしまったが。
鼻先をかすめる衝撃に、レグニルスの心は折れそうになる。
しかし、スキル【貴族の誇り】が一歩前に出る勇気をレグニルスに与えた。
スキル【貴族の誇り】、それは特別職【貴族】を所持する者が持つスキルだ。
全ての【貴族】が所持している訳では無く、むしろ所持している【貴族】の方が少ない。
その効果は、所持者に領地と領民を守る勇気と力を与える、というもの。
現代風に言えば、領地と領民を守る使命感や達成感を所持者に与え、脳内麻薬で恐怖を誤魔化すスキルと言ったところか。
そして、その効果によりレグニルスは自身の領地と言えるダンジョンを、領民と言える身重の狼を守るため恐れず一歩前に出ることが出来た。
「これで!」
一歩前に出た勢いそのままに、レグニルスはオークに向かって駆ける。
愛剣を利き手で持ち、もう片方の手を前に突き出し半身の姿勢で突き進む。
レグニルスはオークに致命傷を与える一撃に、突き技を選択した。
これは斬撃ではオークの脂肪の鎧を破れないと判断したからだった。
しかし、コーチとの訓練を開始して3ヶ月。
レグニルスは突き技を習っていなかった。
だが、レグニルスは一つだけ突き技を知っている。
片手平突き。
新選組のとある隊士が得意とした技で、とあるマンガで有名になった突き技だ。
当然、レグニルスも子供の頃に真似をしていたので、意識すれば自然と構える事が出来た。
もっとも、某隊士とレグニルスでは利き手が逆なので、構えは左右逆になっているが。
「しっ!」
マンガで有名な技名を叫ぼうとも思ったが、レグニルスが転生した時の年齢は30歳。
流石に恥ずかしかったので、いつも通り短く声をだす。
そして突き出していた左手を引き、連動して右手でオークの胸の中央からやや左胸を狙い突く。
イメージは引き手で突くと言われる、空手の正拳だ。
取った。
オークの棍棒は地に叩きつけられ、直ぐには動かない。
レグニルスは勝利を確信していた。
しかし、オークは終わらない。
オークは咄嗟に左腕を胸の前に構えることで、左腕を犠牲に己の心臓を守る事を選択したのだった。
「なっ!」
レグニルスの突きはオークの左腕を貫通、わずかばかりオークの左胸を傷つけた。
しかし、それだけだった。
当初の想定では心臓を貫き、この戦いに決着をつけるつもりだったのだ。
その目論見は完全に破綻してしまった。
「離れよ、ダンジョンマスター殿!」
アサシンラビットの警告を聞き、レグニルスはすぐさまその場を離脱する。
しかし、離脱するレグニルスを追うようにオークの棍棒が迫る。
左腕を貫かれたオークは、無事な右手で棍棒を振り上げ自身を傷つけたレグニルスに復讐しようとしたのだ。
「あっぶな、死ぬかと思った」
アサシンラビットの警告もあり、三度レグニルスは棍棒という暴風から逃れる事が出来た。
しかし、その代償は大きい。
「素手でどうしよ」
すぐさまその場を離れた為、レグニルスの愛剣はオークの左腕に刺さったままだ。
そうなると当然、レグニルスに武器は無く素手となってしまう。
「いや、こんなの相手に素手とかムリ。攻撃魔法とか覚えておけば良かった!」
レグニルスに迫り来るオーク。
力士の1.5倍程の巨大を相手に、素手で戦おうと思う程レグニルスは無謀では無い。
しかし、それはレグニルスの都合であってオークの都合では無い。
オークも相手に武器が無い事を悟り、自身の復讐を果たす為にジリジリとレグニルスとの間合いを詰める。
そんなオークに対し、アサシンラビットは何度も斬りかかり、何とかオークの注意をひこうとする。
だが、オークの歩みは止まらない。
自身を2度も深く傷つけたレグニルスを、オークは最大の驚異と見なしていた。
ゲームで言うヘイト値をレグニルスは稼ぎ過ぎたのだ。
「逃げようにも、後ろには妊婦さんいるしな」
逃げろと叫ぶ本能を理性で押しとどめ、何とかその場に踏み止まる。
踏み止まるが、素手のレグニルスにはオークに対処するすべは無い。
一応は素手でも戦えるように、多少の格闘技はコーチから指導されているが、付け焼き刃の格闘技でオークに対応出来るはずも無い。
「マジでどうする、どうするよ俺」
焦るレグニルス。
徐々に大きくなっていく巨大、勿論物理的に大きくなってはいない、を前にすると、どうしても足がすくんでしまう。
『やれやれ、これが私を1度は負かせた男か』
「姫様?」
どこからともなく声が聞こえたかと思うと、次の瞬間前触れも無くオークの頭部が宙を舞う。
頭部を失った首からは血潮が噴き出し、宙を舞った頭部が地面に落ちるとそれを追うように胴体も値に伏せた。
「へ?」
「姫様!ご無事だったのですな」
『あのような豚鬼にくれてやる程、私の命は安くないのでな』
レグニルスのピンチを救ったのは、一羽のウサギだった。
ウサギの個人識別が出来ないレグニルスは気が付いていないが、彼女はアサシンラビットの姫であり、かつてレグニルスと刃を交えた仲である。
「助けてくれたのか?」
『ただの成り行きだ。まあ、気になるなら貸し一つで良い』
「そっか、助かった。しかし、貸し一つとかマンガ見たいだ」
マンガやラノベでよくある、貸し一つ。
素直になれないキャラが主人公を助けた際によく使うセリフだ。
「しかし、何か変な音で聞こえる」
目の前のウサギが話しているはずなのに、音は別の場所から聞こえて来る違和感。
これも目の前のウサギの特殊能力なのかとレグニルスが考えていると、先にレグニルスと契約したアサシンラビットが自身の仮説を述べた。
「姫様はダンジョンマスター殿の配下では無いからでしょう」
「あ~、ダンジョンコアが翻訳してくれてるから、変な風に聞こえているのかな?」
同じウサギで聞こえ方が違うので、両者の違いであるレグニルスとの契約有無が原因の可能性が高かった。
そしてダンジョンコアの単語が出た瞬間、アサシンラビットの姫の表情が変わる。
ウサギなので分かりにくいが。
『やはりダンジョンマスターか。では、さっそくだか先程の貸しを返して貰おう』
「え、早すぎない? と言うか貸しって返さないのが様式美じゃないの?」
『何を言っている、貸しは返すものだろう?』
ツンデレのお約束だと思っていたレグニルスにとって、貸しの返済を迫られるのは想定外。
しかし、道理を説かれると正論なだけに断ることは出来ない。
『実は我等は追われていてな。避難出来る場所を提供して欲しいのだ』
「我等?」
『我等は我等だ』
アサシンラビットの姫の言葉を合図に、辺りから無数のウサギが顔を出した。
360度、全方位にウサギがいた。大きいウサギに小さなウサギ、一人でいるウサギに二人でいるウサギ、中には片耳のウサギなどもいる。
「え、なにこれ?モフモフ天国?」
『モフモフ天国とはなんだ? まあいい、実は我等の群れは襲われておってな』
「襲われてるって、いったい何に?」
『あれじゃ』
そう言って、アサシンラビットの姫は耳である方向を指し示す。
その方向にレグニルスが目をやれば、行儀よく行進してくるオークの集団が目に入る。
「一匹、二匹ってレベルじゃ無いんだけど」
『うむ。三十匹はおる』
二匹の、実質ほぼ一対一であれほど苦戦したオークが三十匹。
レグニルスは絶滅しか感じない。
そこに、スマホの通知音が。
レグニルスがスマホを確認してみると、メッセージにはこうあった。
『アサシンラビットの群れが仲間になりたそうにこっちを見ています』
『仲間にしますか? Yes or No』
一瞬だけ躊躇するが、それは本当に一瞬だった。
この場にウサギ達を残しても結果は見えている。
蹂躙。
その結果が容易に想像できる程度には、レグニルスはオークの脅威を身をもって学んでいた。
レグニルスはYesを選択する。
『アサシンラビットの群れが仲間になりました』
スマホのメッセージが流れ、この場にいるアサシンラビット全羽が仲間になった事を告げた。
そこからの行動は早かった。
オークは鈍重とは言え、確実にこちらに向けて進軍してきている。
レグニルスはオークの左腕に刺さったままの愛剣を回収、同時にオークの魔核を素早く回収する。
「とりあえずマンションに入ろう。オートロックを超えれば安全だから」
「オートロック? 城門か何かか?」
「しかし、ダンジョンマスター殿。この塔は巨大ですが、とても城門があるようには見えませんぞ」
「ま、そこは神様チートだから」
「?」
レグニルスも理屈は完全に理解はしていないが、ダンジョンは神様の力で保護されているので破壊される事はない。
ただし、保護している神様以上の力の持ち主以外からは、と但し書きがつくが。
そしてダンジョンは門や壁で固めば、そこは絶対不可侵の聖域となる。
なるのだが、ダンジョンは物理的に侵入出来ない仕掛けを許さない。
それはいかな理由か知るモノはいないが、そういうものだと人々の常識となっている。
「鍵を手に入れれば簡単に開く門だけど、手に入れるのに最低三時間かかるから」
「三時間というのがどれ程の時か分からぬが、ある程度の時間は稼げるのだな?」
「それは保障するよ。それにオークに僕のダンジョンは突破出来ないよ」
仮にオートロックを突破したとしても、オークにUFOキャッチャーが出来るとは思えない。
オークより知能が高い人間ですら突破出来ない試練に、パワー型、悪い言い方をすれば脳筋のオークが突破出来る道理は無い。
「大した自信だな」
「後で家のダンジョンの試練の内容を教えるよ」
「我等が裏切るとは思わぬのか?」
「情報を持ってたとしても、家のダンジョンは攻略出来ないさ」
なにしろ、UFOキャッチャーにTVゲームにMMORPG、挑戦するだけで500万円必要なパチンコ。
初見よりは条件は良いだろうが、攻略難易度はそう変わらない。
「なるほど、今はその自信を信じて群れの安全を託すとしよう」
試練の情報を簡単に話そうとするレグニルスの態度を見て、アサシンラビットの姫は群れの未来をレグニルスに託すことにした。
本来は一時的に見を隠す程度の考えだったが、場合によっては長期滞在も視野に入れようと考え始めていた。
なにしろ彼女が率いる群れは非戦闘員が大半で、その者達はここまでの逃避行で体力を消耗していた。
これ以上オークから逃げる事は難しく、ダンジョンに一時的に見を隠して体力回復に努める予定だったのだ。
しかし、彼女達に行く当ては無い。
王たる彼女の父親ともはぐれ、文字通りの孤立無援。
「食糧もあるし、心配しなくても大丈夫だよ」
「かたじけない」
「ま、貸し一つだからね」
命の危機を救ってもらったとは言え、重い出費になりそうだと心の中で泣くレグニルス。
もちろん、そんな事は顔には出さずイケメンヒーローの如く余裕の笑みを浮かべるのだった。
(・・・コヤツ、大分無理してるな)
そんなレグニルスのやせ我慢も、アサシンラビットの姫にはお見通しだったが。
そんなこんなでアサシンラビットの群れを受け入れて二日後、レグニルスの自室のルーフバルコニーにて新たな命が産まれようとしていた。
身重だったフォレストウルフの出産が始まったのだ。
「だ、大丈夫かな? なんか辛そうだけど」
「たわけ、男に出来る事など無い。邪魔だから部屋で寝ていろ」
ルーフバルコニーで心配そうにウロウロするレグニルスを一喝するアサシンラビットの姫。
立場としてはダンジョンマスターのレグニルスの方が上なのだが、群れを受け入れた翌日にはレグニルスは尻にしかれていた。
「いや、でも」
「もう一度言う、邪魔じゃ」
「はい、スイマセン」
低くドスの効いた声で怒られ、すごすごと部屋に戻っていくレグニルス。
そんなレグニルスを同情する、アサシンラビットのオスたち。
しかし、直接レグニルスに優しい声をかける事はない。
優しい声の一つでもかけようものなら、姫の怒りの矛先が自身に変わってしまうかもしれないからだ。
「・・・本当に俺って必要ない?」
「必要ない」
未練がましくレグニルスは質問するが、姫は真っ向から否定する。
彼女の言葉が正しいと証明するように、この後レグニルス抜きでフォレストウルフの出産は無事に終わるのだった。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
森をオークが駆ける。
数は三匹。全員が棍棒などの簡易な武器を持ち、背には食糧などが入った革袋を下げていた。
「本当にいいのかよ、群れを抜け出して!」
「良いんだよ!あそこにいたら、あの化け物に殺されちまう!」
「お前はあの化け物を見てないからな。ここは俺達を信じろ」
兄弟同然に育った三匹。
彼等は恐怖から逃げ出す為、オークの群れを抜け出していた。
「でも、やっとアサシンラビットの村を手に入れたんだぞ。今更何処に逃げるって言うんだよ」
「もっと遠く、あの化け物が来ない場所までだよ」
彼等は逃げる。
種族ランクCという魔境では中の上の実力を持つオークであったが、その力は彼等が遭遇した化け物には意味が無かった。
だから彼等は逃げるのだ。
「でも、十分逃げたじゃないか!」
「あんな距離なんて逃げたうちに入らん!」
化け物の恐怖を知ったオークは逃げ続ける。
そう、魔境の大乱はまだ始まったばかり。
読んでくれた読者の皆様に感謝を。
恐らくこれが2018年最後の更新です。
投稿を始めて4ヶ月。
ストーリーはこの先まで考えていますが、正直ここまで投稿が続くとは思っていませんでした。
これもひとえに読んでくらる皆様のおかげです。
来年も宜しくお願い致します。




