EP25 魔境大乱 キエル命とウマレル命③
先手必勝。
相手より先に攻撃を仕掛けければ、必ず勝てるということ。
色々なスポーツ、ゲームなどで先手必勝が論じられるが、同じように後手必勝という理論ももてはやされている。
先に仕掛けた方が有利なのか、相手の動きを見て最善の行動をする方が有利なのか。
どちらが正しいのか、それはレグニルスにも分からない。
しかし、こと命のやり取りでは先手必勝は正しいと戦闘素人のレグニルスは最近感じ始めている。
それはコーチとの訓練において、怪我による行動の阻害という物を身をもって学んだからだ。
ゲームでは敵の攻撃を受けてもHPが減るだけであったが、現実では痛みがあり、傷という物理的な影響を残す。
打撲などなら痛みを誤魔化して戦闘を続行出来るが、筋肉や腱、靱帯を斬られれば十全に身体能力を発揮できなくなる。
つまり、先にそういった傷を相手に与えれば、それだけ相手より有利な立場に立てるという事だ。
よって、レグニルスは命のやり取りでは先手必勝の論理を信じている。
信じているレグニルスの先手は、当然の如く奇襲。
それもタダの奇襲では無く、転移移動を利用した奇襲だ。
「#MeToo!」
オークが既にダンジョン内、前庭に侵入していた事を利用し、レグニルスはオークの背面に転移。
そのまま背後からオークの背中を袈裟斬りにする。
「ぐもぉぉぉ」
背中を深く斬り裂かれたオークから苦悶の声が響く。
しかし、レグニルスの一撃は『会心の一撃』ではあったが、オークの命を奪うまでには至っていない。
奇襲による無警戒の背後からの一撃であったが、オークの生命力と脂肪の鎧が致命傷を避けさせていた。
そして、必殺を狙ったレグニルスは無防備な状態を晒すこととなった。
もし、オークが直ぐさま反撃に移れば、レグニルスの命は危うかっただろう。
だが、斬られたオークもその仲間のオークも直ぐには事態を飲み込めてはいなかった。
突然背中を斬られた、隣の仲間が斬られている。
その事実を受け入れるのに、彼等はわずかばかりの時間が必要だったのだ。
しかし、レグニルスの奇襲に反応した者が1人、いや、1羽いた。
身重の狼の前に立ち、オークから守っていた1羽のウサギ。
ウサギはレグニルスの奇襲に勝機を見出し、仲間が奇襲を受けた事実を飲み込めていないオークを放置、背中を斬られたオークに意識を集中して突撃をかけた。
レグニルスが奇襲をかけ、ウサギが突撃するまでの時間は僅か数秒。
脳で事態を把握するより先に、本能が今こそが勝機だと判断させたのだ。
その判断の早さは、オークを奇襲したレグニルスをも驚かせる早さだった。
「ッ!」
「なんだ!?」
間合いを一瞬で詰めたウサギはオークの身体を駆けのぼり、その勢いのまま首の動脈を斬り裂く。
そしてオークの後ろにいたレグニルスの頭に着地、そのまま元の位置に戻るようレグニルスの頭をジャンプする為の土台にしてしまう。
「ランクDだからまさかと思ったけど、やっぱりこの間のウサギと同じ種族か」
頭を土台にされたとはいえ、相手は小動物。
精神的ダメージはあるが、レグニルスの肉体的ダメージは小さい。
頭が少々揺れたが、幸いこの場にレグニルスの隙を攻撃する余裕がある者はいない。
狼は身重で動けず、レグニルスを踏み台にしたウサギは狼を守る為にレグニルスから離れ、レグニルスの一番近くにいるオークは仲間が殺されたという事実を受けいられずにいた。
しかし、オークは鈍重とは言え、この場の強者である事に変わりはない。
身体能力的な速さ、思考の早さではレグニルスとウサギに軍配が上がるだろうが、純粋なパワーや防御力などは種族的に格上のオークが圧倒していた。
種族ランクによる格差とは、それほど圧倒的なモノなのだ。
「ぶもぉぉぉ!」
仲間を殺されたと理解したオークは、その矛先を背後にいるレグニルスに向けた。
最後のトドメこそウサギによるモノだったが、直接の原因はレグニルスの背後からの奇襲だったからだ。
……単純にレグニルスが一番近くにいるから、という理由もあるかもしれないが。
「俺かよ!」
しかし、硬直していたオークから突然攻撃されたレグニルスとしてはたまった物ではない。
オークのパワーを活かした、力任せの一撃。
武器はただの木の棍棒だが、力自慢のオークが全力で振るえば大抵の同格以下の生物はミンチとなるだろう。
大砲のような一撃を何とか避け、なりふり構わない全力の一撃を放った事で体勢が崩れたオークの横を駆け抜けるレグニルス。
「F〇teでバーサー〇ーと対峙したセ〇バーの気分だ」
レグニルスは駆け抜けながら、前世で好きだったゲーム(のちにアニメ化)と似たシチュエーションである事を連想し、危機的状況が少しだけ楽しく感じるのだった。
もっともオークにしろ、レグニルスにしろ、伝説の英雄に例えるにはどちらも力不足は否めないが。
「悪いけど、共闘させてもらうよ」
オークの横を駆け抜けたレグニルスは、狼とそれを庇うウサギと合流した。
格上のオークを相手にするのに1人では心細かったというのが合流した理由だ。
なにしろ種族ランクCのオークは、種族ランクDの人間であるレグニルスの5倍強いのだ。
ガン〇ムとジ〇が戦うようなものだ。
レグニルスもチートにより強化されているが、それはジ〇にミサイルやら外部装甲を追加してフルアーマー化したような強化である。
中身は所詮ジ〇であるので、ガンダムに勝てるかは未知数だ。
「……」
「……」
「…なんか反応が欲しいんですけど」
しかし、レグニルスと無理矢理に合流させられた狼とウサギの視線は冷たい。
レグニルスの問いかけに答えず、ジッとレグニルスの様子を観察していた。
「いや、確かに味方じゃないけど、ここは共通の敵に対して共闘する場面でしょ」
ここまでレグニルスが共闘に固執するには理由がある。
それはレグニルス単体では勝機が低いからだ。
現在のレグニルスのステータスはこのようになっている。
-----------------------------------------------
基本情報
名前:レグニルス・レイル・レナグレイルス
種族:人間
性別:男
年齢:18
階級:男爵
合計レベル:22
種族レベル:5
職業:【剣士】レベル5、【司祭】レベル3
未装備:【槍士】レベル1
特別職:【ダンジョンマスター】レベル3、【貴族】レベル2、【聖人】レベル2、【引き籠り】レベル2
保有スキル
基本スキル:
【剣術】レベル3
【身体能力強化】レベル2
【魔力操作】レベル1
【肉体強化魔法】レベル1
【回復魔法】レベル2
【足裁き】レベル1
固有スキル
【不老】レベル1
【ダンジョンコア操作権限】レベル3
【貴族の誇り】レベル2
【カリスマ(クラスC)】レベル1
【神の祝福】レベル2
【精神攻撃耐性】レベル2 (※領域内でのみ有効)
ユニークスキル
なし
剣士スキルポイント : 15
司祭スキルポイント : 9
返済状況
借金残高1985万円
ダンジョン収入
25万1千500円/月
所持金
44万円
------------------------------------------------
素早くステータスを確認すれば、共同とはいえ格上のオークを倒した事でレグニルスのレベルは昨日確認した時よりも種族レベルが1、【剣士】のレベルが1上がっていた。
しかし、それでも現在のレグニルスの合計レベルは22。
オークの種族ランクはCなので係数は5、オークの種族レベルが4なら合計レベル20で互角に戦える。
しかし、この世界の種族は成人するまでの経験で種族レベル4~5までは上げているのが普通であり、戦士階級であれば種族レベル8~9までは平凡な才能でも上げる事が出来る。
目の前のオークが下っ端であれば互角の相手か、少し強い程度の相手。
だが、戦士階級として経験を積んだ存在であれば、合計レベル40~45と圧倒的格上の相手となってしまう。
「お前等もここで死ねないだろ。俺もそうだ。だから手を貸してくれ」
狼とウサギには死ねない理由があり、レグニルスにも死ねない理由があった。
狼はこれから産まれる我が子の為、ウサギは忠誠を誓う姫の命を守る為、そしてレグニルスは借金の為。
それぞれが、それぞれの負けない理由を持っている。
それ故に、その結果は当然だったのかもしれない。
♪♪♪~
軽快な音楽が鳴り響き、レグニルスのスマホがメールの受信を知らせた。
戦闘中だがレグニルスにメールを送る相手はダンジョンコアからの、アラートメールかイベント通知しかないので直ぐに確認する。
『フォレストウルフとアサシンラビットが仲間になりたそうにこっちを見ています』
スマホを確認すれば、そこにはゲームでお馴染みの文言が。
「共闘してくれるのか?」
「ワゥ!」
「……」
スマホを確認したレグニルスはスマホから狼とウサギに視線を移し、両者に共闘の意思を確認した。
そんなレグニルスの問いに対して狼は短く吠える事で答え、ウサギは沈黙で答えを返した。
しかし、どちらも拒絶の意思はないようで、レグニルスを真っ直ぐ見つめている。
『フォレストウルフとアサシンラビットが仲間になりたそうにこっちを見ています』
『仲間にしますか? Yes or No』
両者の意思を確認したレグニルスは、迷わずにYesを選択する。
『フォレストウルフとアサシンラビットが仲間になりました。モンスターを配下又は仲間にした事でスキル【魔物言語】を獲得しました』
スマホに表示されていたメッセージが切り替わった。
そこには狼とウサギが仲間になった事、初めて配下を得た事で新たなスキルを獲得した事を知らせるメッセージが。
異世界に転生してから初めての配下で仲間。
ある意味ぼっちだったレグニルスにはありがたい知らせであった。
ちなみに、この前庭にはオートロックのキーを守護するアイアンゴーレムが二体いるが、彼等はダンジョンの罠の一部、神様チートで撃破されてもノーコストで再生する備品の一部なのでレグニルスの配下では無い。
「これで言葉が理解出来るようになるのか?」
「ふむ、やはりお主はダンジョンマスターであったか」
「お、本当に言葉が分かる。ウサギと話せるとか、ごち〇さ民に自慢出来そう」
スキル獲得後、早速レグニルスは狼とウサギに話しかけてみる。
すると今まで沈黙しているウサギが口を開き、何やら一人で納得している様子だった。
彼はアサシンラビットとしては高齢で、それなりにウサギ生経験がある。
だからこそ、彼はレグニルスがダンジョンマスターなのではと疑いを持っていた。
こんな辺境に14階建てマンション、当然ウサギにはマンションという知識は無いが巨大な建造物だという事は理解出来る、などダンジョンマスターでも無ければ造れないという考えだった。
これで多少は勝率が上がったと胸をなでおろすウサギとは対照的に、レグニルスはウサギと会話が出来たと単純に喜んでいた。
「ごち〇さ民? お主は何を言っておるのだ?」
「いや、こっちの話」
ウサギと会話が出来たと喜ぶレグニルスだが、喜び方が独特なのでウサギには理解出来なかったようだ。
恐らく、このレグニルスの喜びはこの世界の住民には理解出来ないだろう。
「何を遊んでいるのです、戦闘中ですよ」
「…すまぬ」
「スイマセン」
戦闘中なのに気の抜けた会話をする男共を身重の狼が一喝する。
その迫力が自身の母を連想させ、無意識に謝罪してしまう二人。
この間、オークが何をしているのかと言えば、ただ棒立ちしているだけだった。
別にレグニルス達の準備が終わるのを待っていた訳では無い。
全力攻撃で体勢が崩れはしたが、それは数秒程度の隙でしかない。
しかし、オークは次の行動に移らなかった。
それは強者の余裕では無く、悩みから行動に移せないでいたのだった。
そもそも狼とウサギを追ってきたオークは戦士階級ではあったが、まだまだ若いオークであった。
だからこそ、逃げる狼とウサギを気の合う二人で抜け駆けする形で追ってきたのだ。
それは若さからくる勢いであったが、気の合う仲間が息絶えた事で当初の勢いを失ってしまっていた。
仲間の仇をここで討つのか、それとも群れに知らせに戻るのか、勢いと仲間を失ったオークの思考は定まらない。
「さて、ここからは真面目に戦うとしよう」
「そうですね」
ウサギ生の長さからか、ウサギの言葉は妙な貫禄があった。
その貫禄は、仲間にしたはずのレグニルスに敬語を使わせるレベルだ。
「幸いダンジョンマスターの仲間になった事で、多少ではあるが力が増しておる。先程よりはマシに戦えるであろう」
「仲間になると力が上がるんですか?」
「ステータスを確認してみよ。ダンジョンマスターであれば影響下にあるモノのステータスも見れるはずだ」
ウサギに言われ、レグニルスはウサギのステータスを確認してみる。
やり方は不明だったが、ダンジョン関係であればダンジョンコアだろうと、リモート操作でダンジョンコアにアクセスしてみる。
すると予想通り、ダンジョンコアのメニューが増えていた。
「オークも動かないし、ちょっと確認してみるか」
オークが動かない事を良い事に、レグニルスは増えたメニューから早速ウサギのステータスを確認してみる。
-----------------------------------------------
基本情報
名前:(未設定)
種族:アサシンラビット
性別:男
年齢:63
階級:騎士
合計レベル:26
種族レベル:12
職業:なし
特別職:【近衛兵】レベル10、【執事】レベル3、【ダンジョンモンスター】レベル1
保有スキル
基本スキル:なし
固有スキル:
【高速機動】レベル5
【身体能力強化】レベル3
【斬撃強化】レベル3
【老齢】レベル2
【礼儀作法】レベル1
【迷宮加護】レベル1
-----------------------------------------------
コーチの講習通り、ウサギに職業は無かった。
【職業】は人種が魔核と引き換えに【職業を司る神】イケイオスから得た祝福なので、魔核を保持するモンスターは【職業】の恩恵を得る事は出来ない。
しかし、モンスターも【特別職】は獲得出来る。
これは万人が共通の条件をクリアすれば獲得出来る【職業】と、特定の条件をクリアして神という上位存在からの審査が必要な【特別職】の違いだ。
そもそも、人種が【職業】の祝福を得るまでは、【特別職】こそが【職業】だったのだ。
人種が容易に強くなれる【職業】という祝福を得た事で、現在では呼び名が変わってしまったのだ。
「…普通に俺より強い」
「それなりに生きておるのでな。最も、生き永らえた為に【老齢】などというスキルも獲得してしまったが」
「名前からしてよくないスキルですね」
「スキルレベルに合わせて身体能力が落ち、代わりに判断力などが向上する」
若かりし頃は兵士として前線で戦っていたウサギだが、身体能力の低下共に後方に下がり今はアサシンラビットの姫の従者をしている。
従者なので身体能力の衰えを意識しなかったが、身重の狼を庇いながらの逃走劇では身体能力の衰えを実感していた。
戦場を駆けたあの頃の様に動けない、と。
「まあ、お主のおかげで新たな力を得た。多少はマシに動けるはずじゃ」
「……はず、なんですか?」
「初めてなんじゃから分かる訳あるまい」
狼とウサギはレグニルスの仲間、配下モンスターとしてダンジョンの影響を受けるようになった。
それが特別職【ダンジョンモンスター】と、スキル【迷宮加護】である。
しかし、ウサギ生が長い彼でも、流石にダンジョンマスターの配下になった経験は無い。
したがって効果も分からない。
「なに、何かしらプラスの効果があるじゃろ。それより、オークが動くようじゃ」
ここまで追撃してきた獲物を1人で狩るのか、群れに報告へ戻るのか。
判断に迷っていたオークがついに結論を出した。
その決断とは…
「やる気みたいですね」
「そのようじゃな。そなたは下がっておれ」
「…そうさせて頂くわ」
オークは再び棍棒を構え、慎重に、しかし恐れることなくジリジリとレグニルス達との間合いを詰める。
オークは自身がこの場での強者である事を思い出し、レグニルス達を狩り、狩りの成果を持参して群れに戻る事にしたのだった。
そんなオークの様子を確認し、レグニルスは愛剣を構えた。
同じようにウサギは姿勢を低くし、背後に守る狼を気遣い、守られる狼も自身が戦える状態でない事は誰よりも知っているので、大人しくウサギの陰に隠れるのだった。
「儂が先に切り込む。お主は隙を見てオークに止めを」
「さっきみたいに爺さんが隙を見て攻撃した方が良いんじゃ」
迫りくるオークの迫力に押されながらも、レグニルスは勝機を見出そうとしていた。
だからこそ、ウサギの提案を承知する事が出来ない。
彼の一撃では、オークを倒せていないからだ。
「先程の一撃で利き耳が脂でベトベトでの。オークの脂肪ごと動脈を断てそうない」
「利き耳じゃない方では無理なんですか?」
「若い頃なら断てた可能性もあるのじゃが、歳は取りたくないの」
ウサギの耳は二つあるのだが、そこには得意な利き耳という物がある。
利き耳であれば最高の一撃を放てるが、逆の耳ではそれに劣る一撃しか放てない。
「別に一撃に拘らなくても」
「儂らは種族的に長期戦が苦手での。それにオークの力を前に長期戦は不利じゃ」
「確かにオークの一撃を貰ったら即死でしょうからね」
「攻撃される前にヤル、それが最善じゃ」
こうして、ウサギを仲間にしたレグニルスのオーク戦第二ラウンドが幕を開けた。
ようやくファンタジー小説らしい雰囲気になった気がします。
そして、自分のミスに気付きました。
スキルレベルの上限、はっきり書いてませんが当初はレベル5を上限にしていたのに、今ではレベル10を上限にして書いていました。
今年中には修正します。
しかし、主人公が背後から奇襲は許されるのだろうか?




