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EP24 魔境大乱 キエル命とウマレル命②

ブクマ100、PV20,000ありがとうございます!


「産まれてくる我が子を見ずに死ぬつもりか?」


傷ついたフォレストウルフを庇うように立つアサシンラビットの姫。

怪我は無いようだか、その耳は血と脂により赤く染まっていた。


「一目我が子を見たい欲はあるが、お主を死なせては我が子に見せる顔がない。知らぬかもしれぬが、我が一族は義理堅いのだ」

「ふん、知っているさ。森一番の頑固者だとな」


フォレストウルフは群れで生活する種類のモンスターだ。

群れの絆は強く、群れの仲間が受けた傷は決して忘れず、何時か必ず相手に復讐する事で知られている。

そして仲間の恨みは決して忘れないように、受けた恩も忘れない種族でもある。


この習性の為、特に魔獣を使役するテイマーにとっては扱いやすい種族であり、生息域も広く個体数も多いので登竜門的な扱いをうけている。


「お主には妻と子を救ってもらった。この恩、お主が逃げる時間を稼ぐ事で返そう」

「まだ妻と子が助かったと決まっていないのに、大盤振る舞いだな」

「なに、我が妻なら生き延びよう。あれはそういう女だ」


フォレストウルフは傷ついた足を引きずりながらアサシンラビットの姫の前に出る。

傷ついた体を低くし、足に力を籠める。牙をむき出しにし、オークを威嚇する。


しかし、囲むオークに緊張の色は見えない。

手負いの獣が威嚇した所で、既に結果は見えているからだ。


「行け」


フォレストウルフは短くそう告げると、目の前のオークに飛び掛かる。

足の怪我を感じさせず、その姿は放たれた矢の如く真っ直ぐに突き進む。


既に自分達の勝利を確信していたオーク達は完全に虚をつかれ、正気に戻ったのは仲間のオークの首にフォレストウルフが牙を立てた時だった。


「すまん」


仲間の首に噛みつくフォレストウルフにオーク達の意識が集中した瞬間、アサシンラビットの姫もその一瞬の隙を見逃さずにその場を離脱する。

近くの木に一瞬で駆けのぼり、勢いそのままに隣の木へ飛び移る。


それを繰り返す事で、瞬く間にアサシンラビットの姫はオーク達の視界から姿を消すのだった。


「ぐるる」


オーク達もアサシンラビットの姫が逃げた事には直ぐに気が付いた。

しかし、追いかける事はしない。

それは仲間がフォレストウルフに噛みつかれており、それを助ける事を優先した訳では無い。


魔境に住むオークにとって、アサシンラビットという種族が苦手な相手だという事を知っているからだ。


彼等は自分達オークよりも素早く、木の上を駆ける彼等を鈍重な自分達が捉える事は出来ない。

仮に出来たとしても多大な労力を必要とするし、なりより小柄なウサギでは彼等の腹を満たす量の肉は取れない。


そう本能で判断したオークは、仲間の首に噛みついているフォレストウルフの頭部に棍棒を振り下ろす。

仲間を助ける意味もあるが、獲物を確実に手に入れる為の行動でもあった。


噛みつかれている仲間をまったく気遣わない一撃は、フォレストウルフの頭部を直撃した。


しかし、フォレストウルフは離さない。

オークの首に突き立てた牙を緩めず、逆にさらに深く牙を突き立てた。


(無事に育ってくれれば良いが)


牙を突き立てながらフォレストウルフが考えた事は、産まれてくる我が子の事だった。

身重の妻が無事に逃げられたかは分からない。

しかし、フォレストウルフは妻が無事だと確信があった。


(あの小さき者も無事に逃げたであろうか?)


先程まで共に戦っていたアサシンラビットを思う。

殆ど初対面なので妻程の信頼は無いが、それでも無事に逃げたと信じる事は出来る。

共に戦う中で見せた素早さを考慮すれば、それは当然の考えだった。


(問題は、あの者の群れが避難出来たかどうかだが)


戦闘の合間の僅かな会話だったが、フォレストウルフは共に戦ったウサギが群れを率いる立場にいる事はなんとなく理解していた。

そんな立場だからこそ、敗北が決まっている戦場に群れを逃がす時間を稼ぐ為に現れたのだと理解している。


だからこそ、フォレストウルフは共に戦ったウサギを逃がした。

彼女は死ぬまで戦うつもりだったのかもしれないが、恩人を時間を稼ぐという理由だけで死なせるのは種族の誇りが許さない。


己が命で、彼女が稼ぐはずだった時間を稼ぐ。

その一心で、フォレストウルフはオークに喰らい続けた。


(少しは恩が返せたのなら良いが)


遠くなる意識の中、フォレストウルフは妻と妻に寄り添う子狼の姿を見た。


(先に行く。そう寂しそうにするな、私は何時までもお前と……)


フォレストウルフは死しても突き立てた牙を抜かず、その意識は牙を突き立てたオークの命と共に静かに消えたのだった。




▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲




「お持ち帰りで牛丼並盛りお待ち~」


メイドカフェでの息抜きから一夜が過ぎ、今日もレグニルスはコーチとの訓練という名の業務を続けている。


「380円です」

「カードでお願いします」


とは言え、レグニルスも人間なので動けば腹が減る。

そこでレグニルスは昼休憩としてフードコート内にある牛丼チェーン店に足を運んでいた。


「一回払いで宜しいでしょうか?」

「一回払いでお願いします」


レグニルスはダンジョン限定のクレジットカードを店員さんに手渡し、牛丼の支払いを済ませる。

元々は現金払い中心だったのだが、異世界に転生してからレグニルスはカード払い中心の生活に変わっていた。


元々クレジットカードは借金という認識があったので、持っているが滅多に使うことは無かった。

しかし、借金持ちになった事と家計をきちんと管理するようになってから認識は変わった。


そして、小銭を持ち歩く手間が省けるというメリット、使用した記録が残るというメリットに魅せられて、レグニルスはカード払い信者に鞍替えしたのだった。


「レシートになります」

「ありがとう」


店員さんにお礼を言いつつ、レシートと牛丼弁当を手に取る。

牛丼屋のカウンターから踵を返しながら、レグニルスはレシートに記載されたポイント数を確認した。


380円なので記載されているポイントは3ポイント。ポイント還元率は1%だ。

もっとも、これはあくまで目安のポイントであり、正確なポイントは月額累計使用額に対して付くので80円も無駄になる訳では無い。


ちなみにダンジョン限定クレジットカードの発行元は神様だ。

つまり踏み倒すと死後強制徴収となるので、ご利用は計画的にする必要がある。


「ポイントでスキルとか特別職が手に入ったり、ダンジョン施設を購入出来たりするって話だけどポイント貯まらないなぁ」


ポイントで交換できる商品は複数あるが、基本的で一般的なスキルである【剣術】レベル1を購入するのに1,000ポイント必要になる。1ポイント100円なので、【剣術】レベル1を購入するのに100,000円(10万円)分の買い物が必要になる計算だ。


「10万円でスキルが手に入るなら安い買い物だけど、フードコートとかダンジョン内の店舗、ネットショップでの購入にしか使用出来ないのがデメリットだよな」


レグニルスが一番お金を使うのは、ダンジョン拡張を始めとしたダンジョンへの投資だ。

しかし、こちらはニコニコ現金払いオンリーとなっており、見た目は現代日本と同額だが実はぼったくり価格で売られている物を買う場合だけクレジットカードの使用が認められていた。


ポイントが付いてスキルが購入出来るのは、ぼったくり過ぎた神様の最後の良心なのかもしれない。

……なにしろダンジョン内で販売している商品の大半は原価?なにそれ?おいしいの?といった商品だ。


神様の部下達が魔力をちょちょいと操作して現代日本の商品をコピーして作成しているので、開発費も材料費も輸送費もかかっていない。

1万円の商品も、実はうまい棒以下の原価で作成されているのが現実なのだ。


「それとポイント商品の値段設定が鬼畜過ぎる。【剣術】レベル2が3,000ポイントで、【剣術】レベル3が6,000ポイント、【剣術】レベル4は10,000ポイントっていじめだろ。しかもレベル4からいきなり購入出来ないし」


神様は商売に大変厳しいらしく、スキルはレベル1から順に獲得していく必要があるらしい。

【剣術】レベル1を習得していない者はレベル2を購入出来ず、まずはレベル1を購入して習得済みになって初めてレベル2を購入出来るようになる。


そしてレートも法則性があり下位レベルの販売額がプラスされているようで、レベル2ならレベル1の、レベル3ならレベル2とレベル1の販売価格がプラスされる超強気な価格設定となっていた。


ダンジョン内の商品の原価率、利益率を知る神製ホムンクルスはクレジットカードのポイント特典は一種の救済措置と聞いているが、ポイント交換比率を知ると本当に救済措置なのか、それとも単純にさらなる売上アップの為の撒き餌なのか判断に悩んでいる。


さらに言えば、このクレジットカードはレグニルスだけでなく、ダンジョン攻略者も所持する事が出来る。

つまり、一般のダンジョン攻略者もクレジット払いでポイントを貯めれば、レグニルスと同様にポイント特典と交換する事が出来た。

クレジットカードなので事前審査、支払いの為の日本円、日本円を獲得する為の魔核の入手とハードルは結構高いのだが。


「さて、部屋帰って卵かけて食べないと」


レグニルスは牛丼に生卵をかけて食べる事を好む。

なのに何故牛丼チェーン店で生卵を注文していないかと言えば、単純に自宅の冷蔵庫にスーパーで買った10個入り230円の卵が余っているからだ。


牛丼チェーン店で買えば60円だが、スーパーの卵は1個当たり23円。

家で余っている卵が勿体ないと心で言い訳するが、実質的にはお金の節約だった。


しかし、状況はレグニルスにゆっくり昼食を取る事を許さない。


「このタイミングで侵入者?」


レグニルスがエレベーターに乗ろうとしたタイミングで、彼のスマホがダンジョンコアからのアラートメールを受信した。

エレベーターに乗りたいが、まずはアラートメールの確認を優先する。

スマホの画面を見れば、アラート内容は侵入者警報。


「ダンジョン攻略者じゃなくて、モンスターの侵入者か」


ここ最近はダンジョン攻略者の侵入が多かったが、モンスターの侵入もゼロでは無かった。


「モンスターの侵入者は目的が無い分、滞在が長期化する場合があるからなぁ」


ダンジョン攻略者であればダンジョン攻略が目的なので、攻略が無理なら直ぐに撤退していく。

仮に滞在が長期化しても、彼等はお金を落としてくれるのでレグニルスの大事なお客様だ。


しかし、モンスターの侵入者は違う。

彼等に明確な目的が無く、直ぐに帰ってくれる場合もあるし、逆にダンジョンの前庭に住み着いてしまう場合もある。

そして一番重要な事だが、彼等はお金を落とさないのでレグニルスのお客様では無いという事だ。


「肉食系なら獲物がいないから帰ってくれるけど、草食系とか雑食系だと噴水に飲み水はあるし、食べられる草もあるから住み着くこと多いから面倒なんだよ」


草食系モンスターは人間を襲わないという認識は甘い。

当初、その認識を持ったレグニルスがエントランスから草食系モンスターが住み着いた前庭に足を延ばしたところ、縄張りを犯されたと草食系モンスターに襲われた事があった。


それ以来、レグニルスはモンスターの侵入には神経を尖らせている。


「さて、今回はどんなモンスターが来たんだ?」


スマホをポケットに入れ、リモート操作からダンジョンコアにアクセス。

ダンジョンのレーダー監視機能を呼び出して侵入者の詳細情報を確認する。


「ふむ、生命反応は5つ。全員が種族ランクDか」


種族ランクDのアサシンラビットと戦ってから数週間。

それなりの時間は経っているが、それでも同格の相手と戦う厄介さは身に染みて覚えていた。


「多数の同格の相手に戦う厳しさは学んだばかりだし、ここは自主的に帰ってもらうまで放置かな」


とりあえず様子を見ようと、レグニルスは追加で前庭に設置された監視カメラを呼び出す。

そして実際に映像を見てみると、レーダーで確認した情報との齟齬に気が付いた。


監視カメラに映るのは、狼とウサギのみ。

他の存在はカメラに映っていない。


「あれ、狼1匹とウサギ1羽しかいない。生命反応は5つあるんだけど?」


目には見えないモンスター、ゴーストやレイスなど、が侵入したのかとレグニルスは確認できる情報を再確認してみる。

そして、生命反応を捉えるレーダーをマップ上で見てみると、生命反応が4つ重なっている事に気が付いた。


「あの狼、もしかして妊婦さん?」


監視カメラの画像をよく確認して見れば、心なしか腹部がふっくらと膨らんで見える。


「…侵入者は妊婦さんか」


現代日本、マタハラに煩い社会で生きて来たレグニルスにとって非常に相手にしにくい敵であった。


「ん? また侵入者?」


レーダーを確認して見れば、新たにダンジョンに侵入してきた生物が2体。

監視カメラを向けてみれば、そこには大柄で2足歩行する豚顔のモンスターが映る。


「あの腹の脂肪、太い腕に棍棒、豚の頭部。ファンタジー世界でお馴染みのオークかな?」


前庭に侵入してきた2体のオークに対し、先に侵入してきた狼とウサギは威嚇し始める。

そしてウサギが狼の前に出て、オークから狼を守る態勢を取った。


「あのウサギ、妊婦の狼を守るつもりか。種族違うのに」


その姿に、なんとなく感じるモノがあった。

マタハラというワード以外にも、やはり妊婦さんには優しくしたいという気持ちがレグニルスにはあった。


「あのオークの雰囲気、好きな女の子をいじめるって感じじゃなくて、普通にサバンナ的な弱肉強食のアレだよな」


棍棒を構え、じりじりと狼とウサギとの距離を詰めていく。

ダンジョンコアで確認した情報を見れば、対峙するオークは種族ランクC。

状況は2対2だが、片方は身重なので実質的に1対2となっている。

さらに悪い事に狼とウサギは共に種族ランクDとオークよりも格下だ。


レグニルスが援軍に出れば、2対2になる可能性もあるし、1対2対1という三つ巴になる可能性もあった。

どのような形になろうと、格上のオークが優勢なのは変わらないだろう。


「……犬好きとしては、行くしか無いよな」


状況は一刻を争う。

自室に戻る事を諦め、エレベーターホールの横にテイクアウトしてきた牛丼弁当をそっと置くレグニルス。

素振りの為に持っている愛剣を鞘から引き抜き、ダンジョンコアの機能から転送機能を呼び出す。


「異世界の豚に現代日本で、いやグローバルで恐れられる#MeTooの怖さを思い知らせてやるか」


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


帝国初代皇帝として知られるレグニルス・レイル・レナグレイルス。

彼は歴史上最も強大な帝国を築いた専制君主であったが、同時に歴史上最も偉大な政治的・精神的指導者のひとりとして広く称賛されている。

種族間の融和、女性の権利拡大、宗教間の和解、少数派への理解と配慮、貧困の緩和などを実現させたからだ。


帝国が誕生するまで、国家は単一種族で構成される事が一般的であり、複数の種族で構成される場合も魔王国の例を除き人種が中心となるケースが多かった。

しかし帝国は所謂モンスターと呼ばれた種族にも市民権を与え、人種とモンスターの両方を国民として扱った史上初めての国家となる。


また、皇帝レグニルスは女性への尊敬を忘れず、男女平等を謳った指導者としても知られる。

女神ミートゥーと契約して力を手に入れた為、女神と同じ性別の女性を恐れ敬ったという説を唱える者もいる。

しかし、どの宗教の聖典にも女神ミートゥーの存在は記されておらず、皇帝が目指した聖地オオアライとの関連が指摘されている。


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



皆様も女神ミートゥーの勘気を受けないよう、十分に気をつけてくださいね。

戦闘シーンも増えてきたので、R15タグを追加しました。


2019はブクマ1,000を目標に頑張ります!

その前に総合評価500ptかな?



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