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EP23 魔境大乱 キエル命とウマレル命①

何時も読んで頂きありがとうございます。

PVやブックマーク数が増えるのを見てニマニマしています。


「美味しくなーれ、もえもえきゅ~ん」


今日も今日とてレグニルスの姿はダンジョン内のメイドカフェにあった。

何も毎日通っている訳ではないが、顧客が少ないので1週間に1回の入店でもレグニルスは立派な常連客だった。


「もー、最近来てくれないから寂しかったですよ」

「ホントですよ。なんで来てくれなかったんです?」


メイドカフェお約束の魔法が終わり、料理に魔法をかけた犬耳メイドさんのちょこと横で見ていたキツネ耳メイドさんのあんずが話しかけてくる。

二人の言葉の半分は営業トークだが、立地の問題で客が来ない店なのでもう半分は本音である。


なにしろ、レグニルスが来店しないとメイドさんの仕事は掃除しか無いのだ。

最近は同じダンジョンで働くホムンクルスも来店するが、メイドカフェという特殊な店に訪れる同胞は少ない。


それなのに、ほぼ唯一の固定客であるレグニルスはここ数週間店を訪れていなかった。

結果、この店のメイドさんは接客もせずに無意味に掃除のみを続けていたのだ。

神製ホムンクルスとして高いストレス耐性や精神力を誇る彼女達だが、流石に心に訴えるモノがある数週間だった。


「人見知りのあんずが自分から寄ってくるんですから、よっぽどですよ」

「ホント、お久しぶりです」


クールなキツネ耳メイドさんのあんずは人見知りだ。

という設定だが、素でも人付き合いが得意な方ではない。

単純にめんどくさがりな性格なので、あんずはあまり他人と接する事が無い。


そんなキツネ耳メイドさんのあんずが自分からご主人様に近寄ってくる。

犬耳メイドさんのちょこの言葉もあり、普通の接客なのだが嬉しく思ってしまうレグニルス。

ちょろい客であった。


「ごめん、ちょっと忙しくて」

「お仕事ですか?」

「なら仕方ないですね」

「ははは」


気まずそうに話すレグニルスに、仕事なら仕方ないと寂しげな表情をするメイドさん二人。

そんなメイドさんの寂しげな顔を見ると、レグニルスとしても罪悪感が出てきてしまう。


なにしろ、彼の仕事は9時18時の定時上がり、通勤時間徒歩1分が基本だ。

これはダンジョン攻略者が来ていても変わらない。


では、何故そんなレグニルスが忙しかったのかと言えば、好きなゲームの続編が発売されたからだった。

ゲームをする為に家に真っ直ぐ帰る様になり、自然とメイドカフェから足が遠のいていた。


「で、でも忙しいの終わったし、また定期的に来るよ」


また来るとレグニルスは太鼓判を押すが、これはずっとプレイしていたゲームをクリアしたので決して安請け合いでは無い。

今までと同じ頻度で顔を出す時間的余裕も、金銭的余裕もレグニルスは今日から持ち合わせているのだ。


「本当ですか! 嬉しいです」

「でも、無理はダメです」

「大丈夫です、仕事で無理して体壊すなんて馬鹿な真似はしません」


むしろ体の壊しようがなかった。

9時から18時(昼1時間休憩)のダンジョンマスターとしての仕事も、基本はコーチとの訓練だ。

こちらはコーチが厳格にレグニルスの体調を管理しているので、まず体を壊す心配は無い。


なにしろ、管理しているのは武神としても活躍した神製ホムンクルス。

人間の医者やスポーツのコーチ、トレーナーよりも素早く正確に生徒の状態を把握出来た。


そしてレグニルス本来の業務であるダンジョンマスターについても、配下のいないレグニルスには日常的な仕事は無い。


攻略者がやって来たとしても、全て全自動で攻略者を迎え撃つようダンジョンは設計されている。

その為、先日の攻略者のUFOキャッチャーをやっている様子や、MMORPGをやっている様子を監視用のモニターで覗く以外にやる事は無いのだ。


「ゲームやってる所を見てるだけだから良いけど、センター試験とハノイの塔を実装したら地獄だな」

「・・・? お仕事の話?」

「家では仕事禁止」

「あ、すいません」


予算の関係でまだ未実装だが、レグニルスはダンジョン攻略の為の試練として、センター試験とハノイの塔の実装を計画している。

どちらも時間稼ぎを目的としているが、絵面は凄く地味だろう。


なにしろ、センター試験は二日間も攻略者が試験問題とマークシート用紙に向き合っているだけだし、ハノイの塔も円盤を移動させているのを延々と見ているだけなのだ。

もし最初から最後まで監視できるダンジョンマスターがいるとすれば、その精神力は魔王と呼ばれるに値するだろう。


「それじゃ、仕事忘れて楽しみますね」

「それが一番ですよ」

「お茶も淹れてくる」

「いや、注文してないんですが」

「大丈夫。一番高いのにするから」


キツネ耳メイドさんのあんずは無表情の中に笑みを隠しながら、お茶を淹れにキッチンに向かってしまう。

一言も無料、奢りなどの文言を口にしていないのがポイントだ。


「せめて安いお茶にしてください。今月厳しいんで」

「かしこまりました~。 あんずちゃん、ご主人様ロンネフェルトの良い奴が良いって」

「いや、それ高いヤツですよね」


と、レグニルスが楽しい一夜を過ごしている頃、それとは対照的に命の危機に瀕している者達がいた。



▼△▼△▼△▼△▼△


「もうよい、お主は逃げよ」

「ふん、この状況で逃げられる程王族の名は軽くない」


傷ついた狼とウサギ。

普通であれば捕食者と被食者であり、けして並び立つ関係では無い。


しかし、切羽詰まった状況が彼等を横に並び立つ関係へと変化させていた。

もっとも、両者ともこの魔境では弱者を狩るハンターなのだが。


「どうせこの傷だ。逃げたとしても長くは生きられん」


そう語る狼の後ろ足には大きな裂傷があり、その怪我が彼の移動を阻害していた。

また、胴体にも無数の傷があり、その全身は血で赤く染まっている。


狼自身が言うように仮にこの場を逃げ延びたとしても、深く傷つた足では狩りは難しく、そう遠くないうちに餓死する可能性が高かった。


「産まれてくる我が子を見ずに死ぬつもりか?」


傷ついた狼を庇うように立つアサシンラビットの姫。

怪我は無いようだか、その耳は血と脂により赤く染まっていた。


狼とウサギが共闘している理由は単純。

そうする必要があったから。

ただ、それだけだった。


昨日、修練中オークと遭遇したアサシンラビットの姫。

相手は種族としては格上の存在ではあったが、種族の格差がそのまま個人の格差と一致する訳では無い。

まして、アサシンラビットは一対一の殺し合いに特化した種族。


たまたま乱入してきたオークとの闘いは瞬殺だった。

オークがアサシンラビットの姫を認識する一瞬の間に間合いを詰め、オークがアサシンラビットを認識した瞬間に彼女はその首を落とした。


瞬殺だった事もあり、アサシンラビットの姫は翌日も村から離れ修練を続けた。

オークを侮ったと言えばそれまでだが、彼女にはオークを殺せる自信があった。

その自信は決して慢心ではなく、確かに彼女はオークに勝る実力を持っている。


しかし、それはオークと一対一という前提の上に立つ事実だった。


昨日に続き彼女の修練に乱入したオーク。

違うのは、乱入したオークが10体だったこと。


「姫、ここは撤退しましょう! 逃げるのは恥と思いでしょうが」

「爺、お前は私を脳筋と思っているのか? 危うくなれば逃げる発想くらい持ち合わせている」


オーク10体を前に慌てる年老いたアサシンラビット。

戦闘狂と認識している姫を諫めようとするが、姫はすぐさま撤退を決断した。


確かに彼女は戦闘狂ではあるが、勝てない勝負を挑むほど無謀では無い。

仮にも一族を率いる姫としての教育も受けているのだ、勝負に拘る戦士の顔以外にも為政者として大局を見る能力も一応は秘めているのだった。


「お主等、殿は任せたぞ」

「っは!」


姫の撤退の意思を確認した爺は、念の為に連れて来た若いアサシンラビット2羽に殿を命じる。

護衛として共に逃げる事も検討したが、まずは逃げる時間を稼ぐ事を優先する事にした。


「殿など不要だ。機動力では我等の方が上なのだ」

「しかし、姫」

「問答無用、行くぞ!」


アサシンラビットは種族としてオークより格下だ。

しかし、全ての面でオークに負けている訳では無い。


機動力、素早さなどの面では種族的には格下のアサシンラビットの方が、オークよりも優れていた。

その為、彼等が全力で走れば鈍重なオークに追い付かれる事はないだろう。


その為、アサシンラビットの姫は殿を不要と判断した。

しかし、これはオークが弓などの遠距離攻撃武器を持っていない事が前提になっている。


もしオークに遠距離攻撃を可能とする武器があれば、逃げるアサシンラビットに攻撃を遮る手段はなく、撤退するアサシンラビットは常に攻撃にさらされるリスクを負う事になる。


そのリスクを考慮した爺だったが、姫はあえてリスクを取った。

それは殿に残すアサシンラビットを心配した面もあるが、戦士の血が絶えず降り注ぐ矢の中を逃げる状況を求めた、という側面もあった。


こうしてオークの集団から撤退を開始したアサシンラビット達だったが、撤退中にオークの集団と対峙する狼の番と出会う事となった。


狼は種族ランクDのフォレストウルフ。

森に生息する魔獣系モンスターの中では最もポピュラーなモンスターの中の一体だ。

狼の習性として群れで狩りをするモンスターの為、二匹で行動しているのは珍しい。


「フォレストウルフの番か」


アサシンラビットの姫が番と目の前のフォレストウルフを判断した理由は単純だった。

一匹のフォレストウルフがもう一匹を庇い、庇われているフォレストウルフの腹が膨れていたからだ。


「姫、あの者共を気にしている余裕は」

「いや、あの豚鬼共を見よ」


フォレストウルフを囲うように襲っているオークの数は約50体。

その全てがフォレストウルフを囲っている訳では無く、逆に武器を持つオークに守られている集団もいた。


「あの中心にいる豚鬼はどう見ても女子供だ。いや、豚鬼の雌雄の区別は分からんが、子供がいるのは私でもわかる」


アサシンラビットの姫の視線の先には、明らかに他のオークと比較して小柄なオークが何体も固まっていた。

その周りには武器を持たず、荷物を抱えたオーク達がいる。


「確かに。しかし、妙ですな」

「だろう。狩りに女子供を連れてくるなど普通はありえん。仮にあったとしても、それは狩りの練習くらいだろう」

「それであれば、あそこまで過保護に守るのも可笑しな話ですな」

「狩りの練習など実戦あるのみだからな」

「・・・それは姫様だけです。普通は狩りの雰囲気を学び、次に弱った獲物で練習を」

「爺、今はそなたの小言を聞いている場合ではない」


何時もの小言が始まった事を感じた姫は、即座に爺を現実に戻す。

彼等はフォレストウルフを囲うオークに見つかった訳では無いし、最初に遭遇した10体のオークから逃げおおせているので差し迫った脅威はいない。


しかし、アサシンラビットの姫は言い知れぬ危機感を抱いていた。


「非戦闘員の女子供を連れた集団となると、あの豚鬼共は食糧調達の為の遠征部隊では無いのかもしれん」

「では、まさか」

「巣別れ、移住先を求める集団だろうな」


オークも群れで生活するモンスターである。

ある程度の知能を有する彼等は村を造り、人口が増えれば巣別れを行って群れを分ける習性がある。


「しかし、あの傷に荷物の量」


通常の巣別れであれば、それまでの財産を持っての移動になる。

しかし、目の前のオークが持つ荷物の量は新天地に移住する群れにしては荷物が少ないように見える。

そして女子供を守る戦士、フォレストウルフを囲う戦士たちの鎧には無数の傷があった。


「いや、今は考えるべき事では無いか」


今、彼女が考えるべきは群れの安全だった。

数日前から聞こえ始めたオーク出没の報告。報告ではオークは単体であり、あのような群れの報告は一件も無かった。


「・・・斥候か」

「村の位置を知られましたかな」

「恐らくな。あの豚鬼共の進行方向、明らかに我等の村を目指している」


報告にあったオークは移住先や、群れの移動先に危険が無いか探る為の斥候だった。


姫と爺はそう結論付けた。

その証拠に、オークの女子供の集団が進む先の延長には、アサシンラビットの群れが暮らす村があるのだから。


「あの番は移動中の豚鬼共に不幸にも出会ったか。悪い事をしたな」


オークが持つ荷物の量から、彼等の食糧が豊富では無い事が容易に想像出来た。

それであれば、偶然に出会った獲物をオークが逃すはずが無い。

脂肪の鎧を持つ彼等の食欲は無尽蔵なのだから。


「爺、あのメスを連れて逃げろ。お前たちは豚鬼共の事を村に知られよ」

「姫様! 姫様が村に逃げてくだされ!」


同じ女として巻き込まれた身重のフォレストウルフを助けたいという意思と、オークに渡す食糧を少なくしたいという冷徹な為政者の意思。

二つの意思が一致した結果、アサシンラビットの姫は身重のフォレストウルフを逃がす事にした。


そして彼女は事態を冷静に考え、この場に残る選択をした。


「爺、よく考えろ。ここは我等の村に近い、ここまで豚鬼共が近づけば警護の者共が迎撃に来てるはずだ」

「・・・そういえば、迎撃の者がいない?」


オークの移動速度を考えれば、すぐさまアサシンラビットの村が襲われる事はない。

しかし、軍事的に考えれば既にオーク達は危険域まで進攻していた。


「目の前の豚鬼共が本隊、我らを襲った豚鬼共が別働隊と考えれば、他にも別動隊がいても可笑しくは無い」

「陽動!」

「豚鬼共が10体程別方向から先に進軍すれば、村は大騒ぎだろうな」


それ程までにオーク10体とは、アサシンラビットの群れにとって重大な脅威なのだ。

陽動作戦に引っかかり、こちら側が手薄になっていても仕方ない。


そして、手薄の村はオークの本隊に瞬く間に制圧されるだろう。

そうなればアサシンラビットに打つ手は無い。


「一度村が制圧されれば、豚鬼共の防御力と我等の攻撃力。どう考えても軍配が上がるのは豚鬼共だ」

「一対多、或は女子供への暗殺で戦意を挫くことは可能でしょうが、あそこまで守りを固められれば」

「豚鬼共の脂肪の鎧による、肉の城壁。まさに攻城戦だが、我等は種族的に暗殺は得意だか、攻城戦は不得手だ」


このままでは、アサシンラビットの村が陥落するのは確実。

それも、村に残ったアサシンラビットの女子供が犠牲になったうえでの敗北だ。


姫として、それだけは許容する事は出来ない。


「だから私が時間を稼ぐ間に、村の女子供を逃がせ」

「姫が村に戻り、援軍を率いてくだされば逆転の目もあります!」

「どこに援軍がいるというのだ。陽動に引っ掛かっていれば村は手薄、仮に陽動に引っかかっていなくとも、我等にあの集団を押し返すだけの力はない」


仮にアサシンラビットに勝機があるとすれば、それはゲリラ戦。

しかし、それは正面からの決戦では勝てないという事でもある。


「それに、そこの若造では対して時間を稼げまい」

「しかし、姫様。姫様の御身が」

「確かに私は姫だ。普段であれば、私の安全が優先されるのだろう。しかし、今は群れの非常時だ」


そう言い残すとアサシンラビットの姫は木から飛び降り、フォレストウルフを囲むオーク一体の首を断つ。


確かに彼女は群れの貴種だが、群れ全体の危機となれば優先順位は変わる。

彼女の父、群れの長は健在であり彼女には弟も妹もいた。

仮にここで彼女が倒れても、彼女の代わりはいるのだ。


冷静に優先順位を考え、彼女は群れの女子供を逃がす時間を稼ぐ事にしたのだった。


「お主等、姫の言葉を聞いたな」

「っは」

「では行けい!」


こうして、アサシンラビットの姫とフォレストウルフは勝ち目のない戦いを開始したのだった。


産まれる子の為、同胞の為。

お互い守るべき対象は異なり、種族も異なる。

しかし、己の敗北が確定した戦場に身を置く2人は戦友だった。


結果、フォレストウルフは後ろ足に重傷を、全身に無数の裂傷を負う事となる。



長くなったので分割しました。

一万文字近く書いても終わらんとは。


とりあえず主人公の活躍は次回。


Q 何故ウサギが活躍しているの?

A 昨日(12/4)チノちゃんの誕生日だったから

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