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こぼれ話 神々の事情

中堅公務員 = 主人公の転生手続きを行った神

女神 = 中堅公務員の部下の神

侍 = 中堅公務員の部下の神


「それでは、いってきます」


レグニルスは家を出る気軽さで会議室を後にし、そのまま第二の人生の舞台に旅立っていった。


「・・・しかし、自分の名前をミドルネームにするなんて、よっぽど彼の事が気に入っていたんですね、レイル課長補佐殿」

「全くでござる」


そして、既にレグニルス・レイル・レナグレイルスが旅立ってから約一ヶ月。

女神と侍は事ある毎にレグニルスをネタに、上司の中堅公務員をからかっていた。


「…彼のバックにいるのが誰なのか、分かりやすい方が私の評価につながると判断しただけです」

「またまた、ツンデレなんだから」


何時も無愛想な上司を弄るネタを手に入れた二人は止まらない。


「あの者が転生した世界の創造神は課長補佐殿の姉上。創造神の弟の名前をミドルネームに、創造神と同じ家名を持つなど究極のコネでござる」

「一族期待の星で、初めての独立者。しかもブラコンの噂がある」

「数多ある世界から選んだ理由は何なのでござろう?」

「・・・それ以上言うなら、減俸にしますよ」


中堅公務員は神の一族。それも超がつく名門一族である。

現代日本で言えば、祖父の代から国政を支えてきた官僚一家。


一族皆がレグニルスのいた世界の運営に関わってきたが、神童と呼ばれた中堅公務員の姉はその能力を存分に振るう為に独立、新たな世界を創造して創造神の地位に就いた。


いわば、一部上場企業の重役の娘が起業したような物だ。


「姉も優秀とは言え、初めての世界運営。やはり、色々と便宜は必要でしょう」

「お姉さまは慕われていますからね」


中堅公務員の姉も、かつては中堅公務員の様に世界運営の補助をする立場だった。

それこそ何れは事務次官、場合によっては事務次官以上の地位を期待された女傑なのだ。


能力以外にも容姿と人格にも優れていた為、今も一部の女神達からはお姉さまと慕われている。

もっとも、弟の中堅公務員にいわせると少し潔癖すぎる欠点がある夢見る乙女なのだが。


「今回の転生事業も新興世界の援助が表向きの理由でござるが、女史への援助が最大の理由でござるからな」

「この世界に必要な事業である事は事実です」


中堅公務員は立場上公には認めていないが、内心では今回のレグニルスの転生が姉への支援である事は認めている。


そもそも転生先となる出稼ぎ世界は無数にあるのだ。

現にレグニルスの前の転生希望者は、中堅公務員の姉が管理する世界とは別の世界に転生している。

その中から姉が管理する世界を選ぶには、意図的な理由がなければ選ばれないだろう。


そもそも中堅公務員の姉は、この世界の創造神、この世界のトップ、と喧嘩別れして独立した訳では無い。

むしろ創造神に応援される形で独立しており、今も応援されている立場なのだ。


「でも、お姉さまに聞いたけど、まだ創造神様からお年玉貰っているんでしょ?」


子供を設けなかった創造神。

不老不死の神としては珍しくないケースだが、子供を可愛がる気持ちは持っていた。


そして、中堅公務員の祖父は創造神の右腕として世界の発展に最も貢献した人物。

中堅公務員の父は創造神に己の子供の様に可愛がられ、中堅公務員とその姉も孫の様に可愛がられている。

公の場では他の者と区別せずに平等に扱っているが、プライベートでは遠慮という言葉を捨て去って可愛がられていた。


「祖父に止めるよう伝えてもらっているのですが、老後の楽しみを奪うのかと創造神様に反発されているのです」

「あの容姿で老後の楽しみも無いであろうに」

「容姿以前に不老不死なんだから、老後って概念が無いでしょ」


この世界の創造神は子供の姿をしているので、業界では有名だった。


神も人間と同じように赤子として産まれ、人間と同じように成長していく。

大抵の場合は青年期に神としての能力が最大になり、それ以降の身体的な成長は止まる。

創造神は早熟で、早いうちに能力が最大になった為に子供の姿で成長が止まってしまっているのだった。


「創造神様の話は横に置いておいて、やはり拙者は今回の件は女史への援助だと思うのでござる」

「新興世界への人員派遣は必要な事です。この部署は人材派遣業を生業にしているので、今回の事も通常の業務です。不正などありませんよ」

「勘違いしないで、私達は不正を疑っている訳じゃないのよ」


転生希望者には決して見せない、人をからかうような笑みを隠さない女神。

誰から見ても、女神はこの状況を楽しんでいた。


「人々を転生させ、転生させた世界から対価を貰うのがこの部署の仕事。今回もスカウトの過程に不備があったとは言え、その後の対応に問題は無かったと拙者も確信しているでござる」

「なら、何が問題なのです」


自身の対応は完璧だったと、中堅公務員は確信している。

職業規定にも違反していないし、他者から責められる材料は思い至らない。


「いやいや、麗しい姉弟愛だと思っただけでござる」

「優秀な人材を姉の世界に派遣する。まさに愛ですね」

「彼は転生者としては平凡な能力だったはずですが」


レグニルスはダンジョンマスターとして転生したが、その能力は転生先の世界で特に優れている訳では無い。

成長すれば化ける可能性こそ持っているが、特典に金をかけていないので現状では相応の能力しか持っていない。


「創造神の弟が、創造神の家名を授けた。あの子が世界から創造神の一族と認識され、色々とバックアップされると思うけど」

「最初は効果の無い恩恵だとしても、あの者が世界に名を知られれば知られる程に恩恵は強くなるでござろう」

「私はスキル【神性】を獲得しても驚かないわよ」


スキル【神性】、それは神あらざる者に神の力を宿すスキル。

スキル効果が極上の為、滅多に習得する者のいないレアスキルだ。


「神として産まれた拙者達には意味の無いスキルでござるが、人間であるあの者には違う意味を持つスキルでござる」

「上手く育てば、神への階梯を上る事になるわね」

「聞いた話では、女史は人手不足に悩んでいるようでござるな」

「世界運営には、神である事が最低条件になるわよね」


中堅公務員の対応に不備や不正は無い。

特別やった事と言えば自分の名前をミドルネームにし、自分と同じ家名にして転生させた事だけだ。


しかし、関係者から見ると違う見方も出来た。

一流私立大学の理事長と同じ苗字にし、大学関係者に関係を匂わせる。

そして一流私立大学への入学がコネで容易になる様にしておき、入社条件が一流大学卒という条件が設けられている姉の会社に就職しやすいようにする。


これが中堅公務員の計画。

姉の会社(世界)に派遣するなら、少しでも能力のある者を派遣したい。

正社員が少なく人手不足に悩む姉の為に、正社員となれる可能性を高めてから派遣した。

やった事はこれだけである。


勿論、男の能力が相応に求められる計画である。


「仮にスキル【神性】を獲得したとしても、神になるまで進化する可能性は限りなく低いと思いますがね」

「それでも可能性は零では無いでござる」

「顔に似合わずお姉さん思いなんですね」


ニマニマした顔で上司に言葉をかける侍と女神。


「苦労する姉を助ける為、陰ながら助ける弟」

「健気過ぎて泣いてしまいます」

「然り、課長補佐殿も仕事以外の事も考えておるとは驚きでござる」

「本当に弟の鑑です」


中堅公務員は髪を七三に分け、服装も常にシワの無いスーツ。

話す話題も仕事の事のみで、特にプライベートを話題にした雑談も無い。

職場以外で中堅公務員に会った事のない女神と侍にとって、上司である中堅公務員はまさに仕事以外は考えない堅物だった。


そんな堅物が見せた隙。

それを見逃す事など出来るはずが無い。


「ちょっと待ってください、何か私を馬鹿にしていませんか?」

「いえいえ、シスコンだなんて思っていませんよ」

「あの姉にしてこの弟あり、でござるな」

「ちょっと、それだとシスコン認定しているってバレちゃうじゃない」


中堅公務員の姉は才女で有名であったが、同時に弟を溺愛している事でも有名であった。


「しかし、公然の秘密でござろう」

「まあ、課長補佐の髪型だって悪い虫が付かないようにって、お姉さまが指示したって一部では有名な話だしね」

「・・・結局、何が言いたいんです」


中堅公務員は自身が弄られている事は理解していた。

理解していたが、だからといって部下に弄られるのを許容した訳では無い。

しかし、これからの部下との関係を考えると頭ごなしに止める事も出来なかった。


「課長補佐の姉を思う気持ちに感じ入っただけでござる」

「そうそう。だからこそ、私達も餞別を渡した訳だし」

「あれを上手く使えば、課長補佐の思惑の一助になろう」


レグニルスが転生する際、中堅公務員が名前を贈ったように女神と侍もプレゼントを贈っていた。

もちろん大した額のプレゼントでは無い。仮に監査があったとしても問題にならない額のプレゼントだ。


「一応言っておくけど、けして賄賂じゃないのよ」

「課長補佐の思惑が上手く言ったら、拙者達の人事考課に色を付けてくれとは言わないでござる」

「・・・いや、それは言っているのでは?」


中堅公務員の思惑は、人手不足に悩む姉に人材を送る事。

しかし、送る人材には【神性】という特殊資格が必要だった。


そこで中堅公務員はレグニルスが【神性】を得られるよう最低限の環境を整えた。

整えたが、普通に考えてレグニルスが【神性】を得られるまで成長する確率は限りなく少ない。

その確率は、現代日本でオリンピックの金メダリストを育てる方が確率は高いだろう。


とりあえず宝くじを買わなければ、宝くじの一等に当たらない。

だから宝くじを買う。


そんな心境で中堅公務員はレグニルスを姉の世界に送った。

そんな中堅公務員の事情を察した女神と侍は、レグニルスが少しでも【神性】を獲得する確率が上がる様にそれぞれプレゼントを贈ったのだ。


「でも、まだ使ってないみたいですが」

「・・・あの子、都会っ子だからね」

「嘆かわしいでござる」


レグニルスは女神と侍から貰ったプレゼント、チートアイテムを使っていなかった。

異世界での生活を始めて約一ヶ月が過ぎたが、使おうとすらしていなかった。


「畑と水ですからね、スーパーで食料を調達する彼には不要でしょう」

「意外な盲点だったわ」

「・・・日本人は何時から百姓魂を捨てたのか」


女神が贈ったチートアイテムは、無限に水が湧き出る泉。

湧き出る水量は1時間当たり10リットル程度だが、湧き出る水には微量の魔力が宿っていた。


侍が贈ったチートアイテムは、作物の成長を早める効果を持つ畑だった。

畳一畳程の畑を4つ、計4畳程の畑になる。

この畑に作物を植えれば通常の1/10の期間での収穫が可能で、収穫物も栄養素満点になる効果があった。


この二つのチートアイテムを組み合わせて使えば、微増ではあるがステータスアップの効果も期待出来る。

不老であるレグニルスが毎日食べ続ければ、塵も積もれば山となる理論により、もしかしたら何れ【神性】を獲得するかもしれない。


「一応はルーフバルコニーに設置していますが、作物を育てる気は無さそうです」

「こうなったら夢枕に立って」

「・・・こちらからの過度の接触は厳禁ですよ」


女神と侍の贈ったチートアイテムが使われる日が来るのか?

それは神である彼等にも分からなかった。



なんとか間に合いました。

今回は主人公を転生させた神様の話。

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