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EP12 自宅警備員の矜持


本当に自分は強くなっているのか?

再び奮起してから5日。毎日素振りを続けていたが、自分が強くなっている実感は無い。

実感を得る為にレグニルスは頻繁にステータスを確認しているが、無常にもステータスに変化は無い。


「余計な事を考えない」

「すいません!」


トレーニングスーツのお蔭で無駄の無い教科書のような素振りが出来ているが、コーチはレグニルスの雑念を正確に感じ取れた。

その為、レグニルスが訓練以外の事を考えると直ぐに叱責が飛ぶ。


「…なんで考えてる事が分かるんだ」


コーチは何故自分が余計な事を考えているか分かるのか、レグニルスは常々不思議に思っている。


しかし、そこには理由がある。コーチは神製のホムンクルス。

その武は神話に登場する英雄に匹敵し、教育者としても数多の英雄達の師として語り継がれるレベル。


そんなコーチからすれば、レグニルスは論じるに値しないひよっこ。

まだまだ卵の殻がくっついたままの雛で、その心を読むことは造作も無い。


伊達に読心スキルや直感スキルを持っている訳では無いのだ。


「自身が強くなったかどうか悩むのは気が早すぎます。貴方は雛鳥、まずは生き抜く事だけを考えなさい」

「はい!」


一度逃げ出した身。

コーチからの追求は無かったものの、逃げた事はレグニルスの負い目となっている。

その為、コーチの指示に抗い難い何かを感じていた。


「これ以上悩むのであれば、帝国軍式訓練に切り替えても良いのですよ」

「帝国軍式ですか?」

「貴方の趣味を理解する為に幾つかアニメとやらを見ました。数が多いので転生物と呼ばれる物を中心としたのですが、その中に36時間砲兵隊と戯れるというモノがありまして」

「サラリーマンが幼女に転生して戦争するアレですか?」


レグニルスの脳裏に浮かぶのは、敵軍から悪魔と恐れられる金髪幼女。

彼女(彼?) の鬼畜な訓練が精鋭部隊を作ったとストーリーとしては理解しているが、それを自分がリアルに体験したいとは思えない。


「砲弾はありませんが、そこは私の魔法で代用できますしね」

「え?」

「他者を罵るのは趣味では無いのですが、アレは心技体のうち心を鍛えるのにうってつけです」

「へ?」

「勇気とは1分長く恐怖に耐えること、とも言いますし」

「ん?」

「技と体はレベルアップで幾らでも鍛えられますが、心は簡単に鍛えられませんし」

「・・・ホントにやるんです?」


楽しそうに語るコーチを見ていると、36時間耐久の砲弾パーティーが本当に開催されるような気配を感じ、どうしても及び腰になってしまうレグニルス。

気持ちは及び腰でも体は素振りを続けているので、レグニルスの顔を見なければパーティー参加を志願しているようにも見えた。


「やはり初心者は心を鍛えるのが大事と昨日悟りましたので」

「ホントにスイマセンでした!」


コーチはサボった事を怒っている。

レグニルスがそう確信し、気持ち気合を入れて素振りを繰り返す。

全自動だが。


しかし、コーチは怒っていなかった。

レグニルスの心を鍛える必要性は感じていたが、彼が訓練から逃げる事は想定済だったからだ。


元々スポーツもしていなければ、怠け癖があるレグニルスが逃げない方が可笑しい。

今は変なストレスも残さず、自発的に訓練を続ける事に意義があるとコーチは考えていた。


勿論、最終手段として36時間耐久の砲兵パーティーはアリだとも思っているのだが。


「・・・転生チートの選択をミスった気がする」

「何か言いました?」

「何も言ってないです!」

「でも、何か余計な事考えていますよね?」

「考えてないです! 絶大な魔力と魔法の全適正、チートなスマホを選べば良かったとか考えてないです!」


神様転生したアニメの代表格、スマホを片手に無双する主人公と自身を比較し、汗水流す自分を卑下してしまうレグニルス。

どうしても転生チートを選ぶ際、借金を恐れずにもっとチートらしいチートを転生特典に選ばなかったのかと後悔してしまう。


レグニルスのマンション型ダンジョンこそ、この世界ではチート・オブ・チートなのだが、レグニルス自身の能力は数十年に一人か二人は生まれるレベル。


何しろ、信心深い者であれば特別職【聖人】を取得する機会も増え、特別職【貴族】を持っている者も探せばそれなりに見つかるレベル。

一般人からすればチートだが、大国上層部から見れば特別職【聖人】と【貴族】の両方を取得している事は珍しいが特別な事では無い。


ちなみに特別職【ダンジョンマスター】は平均的にステータスを押し上げてくれるが、その効果は下位職業と比較しても雀の涙。

特別職【ダンジョンマスター】の真価は、ダンジョン運営に必要な不老性や軍団支配に特化しているのだ。


「借金にビビらずに、もっとチートなスキルを選んでいれば」


レグニルスがマンション型ダンジョン以外に選んだ転生特典は、特別職【貴族(男爵)】と【聖人】、下位職業の【剣士】、【槍士】、【司祭】、パッシブスキルは【身体能力強化】と【魔力操作】、魔法スキルとして【回復魔法】と【肉体強化魔法】をそれぞれレベル1で取得している。


永続的にステータスが向上する【身体能力強化】、魔法の威力向上やキャストタイム、クールタイム軽減、消費魔力削減の効果がある【魔力操作】、ヒーラーとしての【回復魔法】とステータスを一時的に強化するバフ魔法として【肉体強化魔法】。

選んだレグニルスとしても無難で穴の無い構成だとは思うのだが、チートなスマホを持っている主人公と比較すると突き抜けた何かが足りていない気がしてしまう。


「ヒロインもいないし」


乙女系アニメならイケメンなコーチがヒロイン枠でもアリだとレグニルスは認めるが、健全な自分には女の子のヒロインが必要だと確信していた。

いくらコーチがテニスな王子様に出ていても可笑しくない容姿とは言え、ノーマルなレグニルスとしては何時までもコーチと生徒の関係でいたかった。


そんな生徒の悩みをよそに、コーチは待ちに待ったお客様が訪れた事を察知した。

お客様が訪れている事は昨日から察知していたが、その臆病さと慎重さがダンジョンへの侵入をたった今まで遅らせていたのだ。


マンション型ダンジョンの初めての侵入者。

それは種族ランクEと、この世界では最低ランクに属する種族の内の一つ、コボルトだった。


亜人系モンスターの一角、種族ランクEの中では高い知性を持っているが反比例して身体能力は低い。

種族ランクDの中では、最高峰の知性と最底辺の身体能力を持つ人間の下位互換と呼ばれる種族だった。


「これがゴブリンなら直ぐに侵入したのでしょうが、ようやく侵入してくれましたか」


武闘派神製ホムンクルスとして、マンション型ダンジョンの周辺の状況は手に取る様に把握しているコーチ。

そんな彼は昨晩から前庭の門周辺をうろつくコボルト4匹を捕捉していた。


そろそろ生徒に実戦を経験させたいコーチとしては門を開き歓迎したかったが、教導の為とは言え侵入者をダンジョン内に招くわけにはいかず、ずっと侵入するのを待っていたのだった。


これが知性は低く、蛮勇と呼ばれる程の行動力を持つゴブリンであれば、コーチもここまで待つ必要は無かったかもしれない。

知性の低さから、門を開ける事が出来る保障は無いが。


「どうしたんです?」

「いえ、待ちに待ったお客様がいらっしゃったようですので」

「お客様?」


人類が足を踏む入れない辺境の地。

そんな辺境の中の辺境にある、マンション型ダンジョン。

そこを訪れるお客様など、レグニルスには想像も出来ない。


「もしかしてダンジョン攻略者ですか?」


アニメ漬けで平和ボケした頭を動かし、やっとダンジョン攻略者と言う存在を思い出した。

レグニルスが住むマンションは異世界にあるダンジョンで、現代日本と違って押し入り強盗が推奨されている世界なのだ。


「いや、ただの侵入者だよ。彼等の縄張り近くだから気になったようだ」

「縄張りって事はモンスターですか?」


異世界に転生してから半月以上経つが、レグニルスはマンションから一歩も外に出ていない。


知識としてはモンスターが跋扈する世界だと理解はしていた。

だが、実際にモンスターが侵入して来たと耳にすると、どうしてもレグニルスは足が震えてしまう。


「種族ランクEのコボルトが四体。初戦の相手には丁度いいですね」


レグニルスは、何気なく振っていた剣が重く感じていた。

勿論、剣の重量に変化は無い。

彼が感じている心理的重圧が、剣の重さにプラスされているのだ。


「貴方の心を軽くする為に言いますが、これは神が望まれる行為です」

「過剰魔力の回収と、枯渇する魔力の供給」


そしてレグニルスは回収する魔力を日々の糧としている。

まさにWin-Winの関係。

問題があるとすれば、それは実務担当者であるレグニルスの能力。


「コボルトと戦う技と能力を貴方が備えている事は保障します」

「コーチが良く言う心技体の内、技と体は十分って事ですよね」


現代日本に生きてきたレグニルスにとって、命のやり取りは初めての経験だった。

今感じている重圧、緊張も生き物を殺す事に対してなのか、戦闘という初めての経験だからこその緊張なのか判断する事は出来ない。


しかし、一つだけレグニルスに分かっている事がある。


「自宅の安全を守るのが、自宅警備員の仕事ですからね。自宅の安全を確保してきますよ」


レグニルスの収入はダンジョンに依存している以上、その防衛は必須。

ダンジョンの防衛は非殺傷を重視しているが、それでも必要なら殺傷を避けて通ろうとは思ってはいない。


「レベルアップして強くなれば安全性も上がりますし、収入も増えますからね」


一度逃げ出したレグニルスは確信している。

ここで逃げれば、自身は二度と戦わないだろうと。


逃げても、レグニルスは生きていける。

マンション型ダンジョンには生きていく為の設備は整っており、それを活用する為の収入も保障されている。


しかし、それは引き籠りニートと変わらない生き方だ。

引き籠りニートという怠惰な生活に憧れがあるが、何をする事も無く生きる生活は嫌悪する。

立ち止まっても、遠回りしたとして、牛歩だとしても、レグニルスは前に進む事を望むのだ。




次回更新は9/24 15時予定です

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