テストを目前に。誕生日サプライズ その2
突然催されることとなった誕生日パーティーに迎え入れられ、俺は思わず照れ笑いしてしまう。
最近妙によそよそしいと思っていたら、こんなことを企んでいたのか。
皆も勉強で忙しいだろうに。それでも設けてくれるなんて申し訳ないくらいだ。
「アルくん驚いた?」
「それはもうビックリだよ」
「アル、フ、サプライズ」
「ありがとうね、本当に」
ほどなくしてオードブルやピザに飲み物などが運ばれてくる。本来のメニューに載っていないのだが、今回は特別なのだろう。粋な計らいだ。
そこでふと気になる点に気付く。
「あれ?」
「んふふふ、分かる分かる。ケーキがない、ってことだよねぇ」
「実はそちらの完成がギリギリとなっておりまして、このお店に直接配達をお任せしているんです」
「もう少し、届く」
それから彼女達からプレゼントの受け渡しが始まった。大小様々にラッピングされた箱が押し寄せる。
なるほど、ダリオが先に渡してきたのはサプライズがないと油断させる為だったのか。
一番手はアリス。
「色々考えたけど実用性を考えて私からはレザーの折財布。それ、もう買い替えた方が良いでしょ?」
「あ、ちょうど破けてきたんだ。よく分かったね」
「この前硬貨を出す時、チラっと見えたから」
そう言って妹は微笑を浮かべた。どうやら以前のお返しも意図に含んでいるらしい。
「じゃ、次はあたしー。アリスのお兄さんはあたしと同じでよく運動するからハンドタオルねー。これ汗の吸収がよくてオススメなんだ」
「良く使うから助かるよ、おしゃれな柄だね」
「私はドリップコーヒーパックです。先輩のお口に合えばいいんですが」
「うん、コーヒー好きなんだ。ロベルタもありがとう」
女生徒達が終わるなり次は狼少女が前に来た。紙袋を差し出す。
「はいアル、フ。これ履いて」
開くと入っていたのは何足か束ねられた靴下だった。無数の肉球やほねっこといった可愛らしいデザインが小さくプリントされている。
学校や職場で履いて行ったら目立ちそうな柄だ。女性ならアリかもしれない。
「あ、ありがとね。大切にするよ」
ちょっぴり苦笑しながら受け取る。彼女の誠意を無碍には出来ない。真噛は満足そうに鼻を鳴らして元いた席に戻って行く。
「さぁアルフさん。わたくしからはこちらを」
そして、遂に本命がやってくる。立ち上がった白鷺がプレゼントを持ち出したのを皮切りに、周囲のほんわかした雰囲気が引き締まった気がした。
もはや、ゴゴゴゴゴゴ──という地鳴りがしていると錯覚するくらいに。
それは指輪や宝石とか入っていそうなブランド用の黒く小さな正方箱。絶対安物じゃない。
恐らくこれの後に出すとハードルが高くなるのが分かりきっていたから先に皆は渡したのだろう。
この場で逆プロポーズでもされるんじゃないかといわんばかりの品物を恐る恐る受け取る。カバーを外し、ゆっくりと開く。皆も中身を知らないのか、固唾を呑んで見ていた。
「……腕時計」
「はい♡」
「うわぁ高そー」と、レイチェルが率直にコメントした。言わないでほしかった。
シルバーと黒を基調にした腕時計である。アラビア数字インデックスの丸い文字盤に、二個のサブタイヤルが付いている。額については聞くに聞けない。
「こちらはフレームとベルト、裏蓋もチタン素材で出来ていましてとても軽く錆びにくいんです。やはり自動巻きの方が使い勝手がいいですよね」
「定期的にお手入れが、必要になりそうですね……」
「その点ならお任せください。万が一壊れるようなことがありましたらお預かりして専門の修理に頼みますから」
ニッコリとアフターケアまで宣誓する『北斗』の社長に、周囲はただただ気圧されていた。
ちなみに「絶対、『北斗』入ろう」「うん」と妹の友人達による小声が聞こえたような気がしたが、触れないようにした。
「さぁて、そろそろ私の番かなぁ」
「鈴狐も用意してくれたの?」
「もっちろん! とびきりのサプライズ、驚くぞぉ」
小狐がカウンターにあったベルを鳴らす。その合図を皮切りに、消灯されて店内が真っ暗になる。
それから、入店を知らせる扉の鈴の音がした。
白いエプロン人影が蝋燭に火の灯ったケーキを手に、こちらの席へとやってくる。
「ハッピーバースデ~トゥーユ~」
酷く棒読みで野太い男性の歌声が響き渡る。聞き覚えがあった。
凄く嫌な予感がする。いや、ありえない。奴がヘンテコに歌って誕生日ケーキを運ぶなんてことはあってはならないと、頭が理解を拒む。
だが唖然とした俺をよそにその人物はもう目の前にまで到達する。
「ハッピーバースデ~トゥーユ~」
屈んでテーブルに降ろした時に、彫りの深い顔がゆらめく火に照らされた。
ゼムナス・シェークリアが仏頂面で目の前にいたかと思うと、そのまま素早く離れて店外へと走り出した。
「よし終わった、出せ」
車の中に駆け込み、急発進しようとしているところで硬直の解けた俺は席を立った。
「ちょ、ちょちょちょっと待てェこの野郎ォおおおおお!」
ものの十数秒しか滞在しなかったサプライズゲストを追い掛けようにも、入り口に出た時には既に市街へと走り去る。
文句のひとつも言わせぬまま奴はケーキを置いていった。粋ではあるが何て酷過ぎるサプライズだ。まんまと以前の借りに対する意趣返しをされたのが悔しい。
全く、柄にもなさすぎる。そういうキャラじゃないだろう。
このまま本気で追い掛けてやろうか、諦めて店内に引き返すべきかと葛藤していると、開け開かれた扉の前で目を白黒させたベル先輩がいた。
「あ、先輩」
「お、遅くなってごめんよ。これは何の騒ぎ?」
「……あはは、お見苦しいところを」
冷静になって俺は自分の暴走を恥じた。ケーキ自体に罪はなく、せっかくの祝いの席を壊したら元も子もない。
「今のまさか、お父さんかい?」
「ええ、あのクソ親父です。ケーキ置いてすぐさま逃げやがりまして」
「ボクが知っているのはあの時以来だけど……随分変わったようだね」
「そうですか? さっさと忘れて中に入りましょう。寒いですから」
「その前に、これ。皆はもう渡し終わっただろうから」
言って彼女はバッグから小さな包みを俺に手渡した。
「ハッピーバースデー、だね」
「ありがとうございます。これは?」
中身は綺麗なハンカチだった。そう高くはないのだろうが、センスのよさが伺える。
「皆が出したプレゼントと比べたら、きっとつまらないものさ」
「そんなことありませんよ。先輩がきちんと選んだのなら、何だって素敵な物になります」
「どういう理屈だいそれは」
そう照れくさそうに彼女ははにかむ。その笑顔は、暗い夜なのに眩しい。
ベル・カーデナルの参加が、心なしか一際素敵な夜に変わった気がした。
そういった出来事が、この日付が悲しい日であったことを塗り潰していることに俺はまだ自覚出来ずにいる。




