番外編。ゼムナスのサプライズに至るまで
室内に響き渡る電話の着信コール。程なくして、受話器が取られた。
「もしもし」
『ゼムナスさん、わたくし「北斗」の白鷺と申します』
「ああ、貴女でしたか。その節はどうもお世話になりました。おかげさまで事なきを得ております」
『いえいえ、その後の調子は如何でしょうか』
「退院後も後遺症もなく無事過ごせております。この度の御礼もかねて、後日あらためてそちらにご挨拶へあがろうかと」
『そんな、お気遣いなく。当たり前のことをしただけです』
互いの社交辞令を済まし、ゼムナス・シェークリアは本題を切り出した。
「ところで本日は一体どのような御用件で?」
『はい。実は今回こちらで企画を立てておりまして、貴方を見込んで是非頼みたいことがあるんです』
「そちらの企画、ですか。私に出来ることがあるのなら、喜んで協力させていただきたい。して、一体どのようなご企画で?」
『そう、ですね……ところでゼムナスさん、近日中に何か心当たりになる出来事はございませんか?』
「心当たり? はて、どういう意味ですかな」
唐突な問い掛けに意図が分からず、彼は小首を傾げた。だが、自分に関わる頼みごとがあるということだろう。
『思い返してください。貴方にとっても重要な日付が差し迫っている筈ですよ』
「重要、か……」
天使の強い後押しに、自嘲が零れた。それはもう答えを言っているようなものではないか。
そう、彼女の契約相手であり自身と血の繋がった相手が間もなく誕生日を迎える。
しかしそれは己の手で決別を行い、どん底にまで突き落とした日だ。
祝える筈もない。筋合いどころか、そんな資格もない。
「誕生日の企画ということでしたら、返礼がてらにその費用をこちらが負担しましょう。必要とあらば手頃な会場の席を設けられるよう融通致します」
『いえ、それよりもご参加の方を検討していただければ……』
「それは不要でしょうな」
『どうして?』
「アレが私の参入を快くは思わないからです。身の周りで慕う者達だけでも十二分に祝えるかと」
アルフのこととなると、にべもなく断る姿勢を見せるゼムナス。
だが、天上位の精霊獣こと白鷺はそう簡単に引き下がらなかった。
『十二分だなんて、寂しいこと言わないでください。家族にこそ喜ばれたい筈です』
「家族に含めるのは、あちらの本意にはならないかと」
『どうしても、参加してくれないんですか?』
「どうしてもですよ、ミズ白鷺」
『そうですか……それではこう致しましょう』
両者の意見をすり合わせようとした末、天使は提案する。
『サプライズゲストとして僅かな時間だけ訪れるというのは如何でしょう?』
「はい? あの、私は」
『そうです! バースデーケーキの運搬役などはどうでしょう? リンコが抜擢役を探していましたし、とても驚きますよ、まさに鳩が豆鉄砲を食ったように!』
「あの、ですから……」
『駄目なんですか?』
電話口の向こうで一人盛り上がっている彼女に、ゼムナスは困惑を隠せず動揺する。
それには彼女が捲し立てる言動だけでなく、目には見えない圧力を感じていたことも一因した。自分が気付かない内に承諾への結論に押し込まれている気がしていた。
『絶対に外せない日なんです。わたくしの契約主になってくださったからというだけでなく、「北斗」の代表として妥協した祝福を送るなんて出来ません。貴方であっても同じでしょう。妥協した返礼を誇り高きシェークリア家が送るなんて許せない筈です』
「しかし、そのような形をあやつが望むなどとは……」
『思い通りにさせないからこそ、サプライズになり得るんですよ? 貴方としてもご本意なのでは』
「ですが……」
『駄目なんですか?』
「……お受けしましょう」
押し問答に参った様子でゼムナス・シェークリアは白旗をあげる。
アレも将来尻に敷かれそうだと思いながら。




