乙女達の茶会。秘密の会議
「と、いうわけで。お集まりいただいたわけなのさ」
「勉強シーズンに二人とも申し訳ありません」
喫茶店のテラス席。丸く白いテーブルに乗ったマスコット形態の鈴狐と白鷺が、そう説明を締めくくった。
他にも卓上には焼きたての林檎パイやシナモンロール、湯気のそそり立つ紅茶が用意されている。
椅子につくのは、狼少女の真噛と彼の妹である赤髪のポニーテールがチャームポイントのアリス、そして男子制服を着た銀色に煌めくショートボブヘアの女生徒、ベル・カーデナルだ。
それは紛れもなくアルフ・オーランには内緒の会議である。そうでなくては意味がないからだ。
「つまり、アルフ兄さんに誕生日サプライズするというわけですね」
「それは別に構わないんだが、ボクまで混ざっていいのかい?」
彼女は遠慮がちに言った。ほぼ身内の会議になっていて気後れしているらしい。
「勿論だよ! ベルくんもアルくんの秘密を共有する仲だもん」
「へぇ。先輩も知っていたんですね、兄が例の退魔士だと。どのような経緯で?」
「ま、まぁ色々あってね……」
そう言葉を濁すベル。なんせアリスは彼女側の秘密を知らない。
しかしその前提はたちまち瓦解する。
「知ったの一緒。ベル、パピリアだから──」両腕をつき頬杖を突く狼少女。
「おわぁああ!? 真噛それは内緒──」思わず席を立つ先輩。
「え? パピリアってあの蝶姫──ぇえええええええええ!?」一驚の声をあげるアリス。
狼少女の暴露は、しばらく話を脱線させた。
少し落ち着いた後、あらためて本題に戻る。
「それでなんですけど、アルフに何かを贈ろうと検討していて、御名案があればと思いまして。ちなみにわたくしは……」
言い出した小鳩から、提案を始める。
「以前彼が『海でボートの中に寝泊まりするのって一回やってみたいなぁ』とおっしゃっていたので、ちょっとしたクルーザーを一台買うのは如何かと思いまして」
「それ多分貰っても手に余ると思いますよ白鷺さん」
というか免許が……とツッコミを入れるベル。
「アリスちゃんは何かある? 私は食べ物の好みなら幾つか分かるけど、それ以外はいまいち自信がないなぁ」
「兄が好きな物と言ったら、えーと……」
視線を虚空に彷徨わせ、苦しむこと十秒。アリスは考えを絞り出す。
「……私に思いつくのはブランドバッグとかホテルビュッフェの招待くらいで……あ、ルームランナーとか送るのはどうでしょう。兄さん運動好きそうだから」
「あっ、それなら先月電動式を買いました。自走式じゃ物足りなさそうだったので」
「て、手が早いですねぇ白鷺さん。だったら……ほら、あの後ろにある重りを持ち上げるやつとか」
「ウエイトスタックですね。ごめんなさい。それも既に」
「……うー、敵わない」
「今更だけど、どうしてもブルジョワ路線に行くね……」
と漏らすベル・カーデナルは自身も一応豪邸暮らしであることを失念していた。
「じゃあお肉?」
「それだとマカミの好物でしょ? でも、食べ物が無難なのかなぁやっぱり」
うーんと、一同は悩みに悩んだ。
しかし腕を組んで悶々していた小狐は頭に豆電球を浮かべる。
そして破天荒なことを口走った。
「誕生日サプライズで箱から『自分をプレゼント!』って全身リボン巻いた格好で飛び出すのなんてどう!? ベルくんよろしく!」
「ハァ!?」
「あっ、チョコレートでもいいかも。自分を召し上がれーって♡」
「ちょちょちょ、何でボク、いや何でボク!?」
あまりに恥ずかしい提案にベルはどもり出す。
脳裏によぎる自分のあられもない姿。白い頬がたちまち赤く染まった。
「だって私達がやってもあんまり驚き少なそうだしー。意外な人がやると効果ありそうでしょ? アルくん喜ぶよきっと」
「「なるほどー」」
「そこの精霊獣達感心しない! そんな真似する筈ないだろう!」
「先輩、兄さんとは実際……」
「ああハイやめやめ! 話は分かった、ボクは一人で考えることにするよ! そろそろ勉強もあるからじゃあまた明日!」
旗色が悪いと踏んでか彼女は慌てて席を立った。そのまま繁華街へ足早に去っていく。
「怒らせて、しまったでしょうか?」
「大丈夫だよハクロ。アレ、照れ隠しだから」
「でもあるじの誕生日、どうしよう?」
「とりあえず、私もレイチェルやロベルタにも後で意見を聞いておきますね」
協議の結果、それぞれが一度考えてからまた話し合うということでその集いは解散となった。しっかりスイーツをいただいて。
「ハァ」
いくつものショップを見て回り、とうとうベルの口からため息が出た。小物からちょっとしたインテリアなど。選んでいてどれもしっくりくるものが見当たらない。
「何をやっているんだろう、ボクは」
別に、彼女達の贈り物への意欲に刺激されたわけではない。そんな大層な物を誕生日プレゼントだと贈ってしまえば、あの後輩の友人が困った顔をするのが目に見えている。
だからあってもなくても良い物くらいで自分は十分だ、と高を括っていた筈なのにどうも踏ん切りがつかなかった。
彼の妹に問われた言葉に、いてもたってもいられなかった。アレでは友情以外にも意識している部分があると思われてしまう。
あくまで彼とは友人であり、お互い大きな秘密を知るだけの親密さがあるだけ。それで十分だ。
自分は彼との相関図によって家族以外の繋がりを広げた。
そのお陰で出来た今の関係が自分でもとても気に入っている。
むしろそういう余計なことで壊れてしまうのを恐れている節すらある。以前は一人でも全然構わなかったのに、一度親しい相手が出来てしまえば元のようには戻れない。戻りたくない。
──でも男女の友人関係ってずっとは成り立たないと思うの。
というお母様の余計な一言がふと蘇る。思わず店内の壁に頭突きしそうになった。
備え付けの鏡に自分が映る。男子生徒用のズボンとブレザー。頑なに長くしてこなかった銀色のショートボブ。そこには乙女な部分とは離縁の姿があった。
女の子らしくないことは自分の本意でもある。態度や言動、自分の呼び方すらも意識して変えてきた。けれど性別までは変わることはない。
もしもの話だが、そんな成りでアルフ・オーランを異性として意識しているのであればそれはあまりにもちぐはぐした状態だろう。
あらためてそんな己の成りを見て、悶々とする考えは消え失せる。そして、自嘲が漏れた。所詮気の迷いである。何を求めているのだろうか。
そうして一通り見て回っていた商品棚からちょっとお洒落なハンカチを選んだ。これなら嵩張らず、使い勝手も悪くない。あってもなくても変わらないような、自分が送るに丁度いい品物だ。
そうしてカウンターに持って行こうとした時、運命の刻が訪れる。
「──おい、お前、ベルじゃないか?」
そう背後から呼ばれてふと振り返った途端、彼女の顔は瞬間的に凍り付いた。




