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忘れられた茨姫【後編】

あれほどの人だかりにいた王子がオリヴィアの元へ一直線にやってきた。

その後オリヴィアは腕をつかまれテラスへと連れてこられた。腕をつかまれた際に心臓が跳ねた。

これはただいきなりのことで驚いただけ。深い意味はないわ。

テラスはパティーとは切り離された世界のようだった。ここなら誰にも邪魔されずに魔法をかけられる。オリヴィアはそれまで感じた気持ちを振り払うように魔法のことだけに集中した。


「知っているかもしれないが俺はレオドール。この国の王子だ。あなたは?」


意味がわからない。この王子は何がしたいのだろうか。


「ああ悪い。いきなりのことで混乱しているのか?俺はただ貴方に名前を教えて欲しいだけなんだ」


オリヴィアの黙りをただ混乱したと受け取った王子がもう一度名を訪ねてきた。名くらいは教えてやってもいいだろう。魔法をかける前に名だけでも。戸惑ってなんかいない。


「オリヴィアよ。王子様」

「どうかレオと呼んで欲しい。貴方ほど美しい人は見たことがない。どこの者だろうか?」


これ以上は話す必要はない。後は魔法を掛けるだけ。それだけ。罪悪感なんてこれっぽっちもあるはずない。

オリヴィアはついに魔法をかけた。それまで感じた罪悪感や戸惑いを無視して。



ついに魔法はかかった。だがレオドールは体に妙な違和感しかなく自分が何をされたのかまったくわからなかった。影を薄めたのだ。人と関わらなければわからないだろう。


「あなたのせいでずっと眠っていた者よ。これくらいは許されるでしょう?」

「どういう意味だ?俺に何をした?」

「影を薄めたの。花嫁を選びたい貴方にとっては最悪の魔法でしょうね」


そうオリヴィアは得意げに笑う。きっと自分に悪戯したかったのだろう。理由は分からないが。だが残念なことにそれは彼にとって都合の良すぎる魔法だ。

かわいいな。そうレオドールは思った。ますます自分のものにしたくなった。


「私はこれでかえるわ。せいぜい楽しんで」


去ろうとしていたオリヴィアに声をかけた。このまま帰らせてなるものか。


「まて。俺が無視される様を見たいとは思わないか?」




さてこのお姫様をどう自分のものにしてやろうか。





※※※





どうして自分はまだこんなところにいるのだろう。女性に囲まれることなくただ隣にたっている男をみてそう思った。

オリヴィアの計画では今頃帰って高笑いしている頃であるはずだ。なのにどうして。


「どうした?俺が無視されて嬉しくないのか?オリヴィア」

「名前で呼ばないで。どうしてあなたはそんなにも平然としているのよ!」


そうなのだ。この男はこんなにも嬉しそうに話しかけてくる。どうして。

一人でブツブツ言っていると思われたくないオリヴィアにも魔法はかけてある。

それゆえに今オリヴィアたちを邪魔するものなどいなかった。これ幸いとレオドールはオリヴィアだけに集中していることをオリヴィアは知らない。


「出身はどこだ?歳はいくつだ?それから…」

「ちょっと!なんで私を質問攻めにするのよ!もっと悔しがりなさいよ!」


さっきから質問ばかりでオリヴィアはいい加減イライラしてきた。それにさっき感じた罪悪感のような変なモヤモヤやドキドキも合わさってなんだか早く帰りたくなっていた。

もう殴るのは諦めてやるから帰らせて。


「どうしてだと?そんなもの惚れたからに決まっているだろいう。それと俺のことはレオと呼べ」

「な、なっ…!何、言って!?」


惚れている、つまりオリヴィアを好きだといったのだ。悪い気はしない。だがオリヴィアの妙なプライドと今までの眠りのせいで恋愛経験がないせいで混乱した。


「何って告白だ。好きだ。俺のものにしたい。俺だけを見つめさせたい。俺だけを…」

「待って!」


この男は危ない。そう思った。悪戯だとか罪悪感だとか、殴りそびれたとかそんなのはもうどうでもよかった。とにかく帰りたい。


「もう帰る!!」


魔法の光で体が包まれもうすぐここから消える、そんなとき。


「っ…!」


唇を塞がれた。王子のそれで。


「んっ、ふ…やめっ」


体が茨で絡め取られたように動かない。口の中に何かが入ってきて溺れそうだ。

それでも。なんとか体を動かせた。レオドー

ルとの間に隙間をつくり渾身の一撃。

最後の最後でオリヴィアはレオドールを殴った。当初の目的とは違った意味で。

次の瞬間にはオリヴィアの姿はそこにはなかった。転移魔法が完成したのだ。

残されたレオドールは殴られた頬を拭うと、捕食者を思わせる瞳でオリヴィアが消えた場所を見つめていた。




※※※




なんとかいばらの森の城に逃げ帰ったオリヴィア。初めての行為で羞恥と戸惑いに混乱し、床に崩れ落ちていた。一瞬もしかしたら追ってくるかもと不安がよぎったが頭を振った。

そんなわけはない。ここはいばらの森なのだ。それにここにいることなど知る訳がない。それに。


「自分を殴った女なんてもう好きになるわけないわ。そのうち忘れるはずよ」





だが彼女は知らなかった。レオドールがとんでもなく粘着質で気の強いオリヴィアが実は彼の好みだということを。そして彼女の言った「あなたのせいでずっと眠っていた」という言葉がオリヴィアと茨姫を結びつけたことを。オリヴィアが森を通りやすく開拓したことを。


オリヴィアは知らない。


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