第50章「疲弊した頭脳と引き裂かれた魂の狭間で……戻ることを選ぶのは誰か?」
アレスとハイヴェンは、一本の木の下に腰を下ろしていた。
アレス:
「ハイヴェン。あの時、俺が君に呼びかけた際に君が目を覚ましたのは、山を登っている間にユルヴァナを凝縮させていたこの手で、君の肩を掴んだからだ。」
「だが、あれほど少量のユルヴァナが本当に効果を発揮したのは、君がまだ完全に意識を失っていなかったからだ。」
「だからこそ……最善の方法は……」
アレスは首に掛けていたネックレスを外し、それを手に取った。
そして、話を続ける。
「このネックレスは、幼い頃に母さんが俺に贈ってくれたものだ。」
「元々、ヴィラの一種とされているが……今に至るまで、その使い方は分からない。」
「それでも、どうやら俺はユルヴァナを手に入れる前に、これを精錬していたらしい……」
「その結果、初めてユルヴァナを手に入れた時から、何年もの間これを身につけ続けていたことで、俺のアルケトラの本質の一部が、このネックレスへと移ったんだ。」
アレスはネックレスを差し出すように手を伸ばし、言った。
「これを身につけて、少しずつ精錬していくんだ。」
「時間が経てば、君の身体は自然と俺のアルケトラの本質に適応し始める。」
「そうすれば……君が再び本能状態に入った時、このネックレスが君の意識を呼び覚ます助けになってくれるはずだ……」
……
記憶が途切れる。
アレスはハイヴェンへ向かって全速力で駆け出した。
そして、剣を掲げる。
剣身には紋様が刻まれており、そこから凄まじい紫色のオーラが放たれていた。
すでにアレスは、自身のユルヴァナの大半を剣に注ぎ込んでいた。
そのため、彼の身体を包んでいたオーラは、著しく弱まっていた。
そして、心の中で呟く。
「それでも足りないというのなら……俺が足りるものにしてみせる!」
アレスがさらに距離を詰める。
ハイヴェンは迫り来る危険を察知し、苦労しながらも監督官の拘束技法を振りほどいた。
そして剣を掲げ、アレスへ攻撃を仕掛けようとする!
だが――
その瞬間。
アレスは、驚くべき行動に出た。
自分の剣を、遠くへと投げ捨てたのだ!!
監督官の瞳孔が、限界まで収縮する。
アレスは考えた。
「監督官との戦いを観察していた時、あることに気づいた。」
「ハイヴェンは、ユルヴァナのより高次の流れを感じ取ることに意識を集中させながらも、常に剣の動きを目で追っていた……」
「それこそが、あの異常な速度の秘密だ!」
「俺の仮説が正しければ……今ので、あいつの集中は乱れたはずだ!!」
監督官は即座に動き、ハイヴェンに向かって手を伸ばしながら、心の中で叫んだ。
「まずい!!」
「完全に正気を失ったのか!?」
「こんな真正面からの攻撃を、彼が避けられるはずがない!」
「それに、ユルヴァナの大半を剣に注ぎ込んだうえで、それを投げ捨てたせいで、アレスの身体には最も重要な防御がほとんど残っていない!」
「ハイヴェンの攻撃を受ければ……まず間違いなく命を落とすぞ!!」
「くそっ! 間に合わない!」
「待て……」
「なぜ、ハイヴェンの動きがわずかに遅くなったように見えるんだ!?」
監督官は、ハイヴェンを見つめながらそう呟いた。
一方、アレスは心の中で叫ぶ。
「よし!!」
「剣の策略が成功した!」
「これなら……回避できる!」
そう考えながら、アレスは攻撃をかわそうとする。
ハイヴェンは当初、剣でアレスの首を狙っていた。
だが、アレスの策略によって、ハイヴェンの動きが一瞬だけ遅くなった。
そのわずかな隙を逃さず、アレスは素早く身をかがめ、剣を回避した!
そして直ちに、残されたユルヴァナを手に集中させる。
その手を、ハイヴェンの胸元――ネックレスを狙って叩きつけた!
アレスは心の中で叫んだ。
「今だ!!」
……
その頃――
ハイヴェンは、水の奥深くに漂っていた。
そこは、ほとんど漆黒と言えるほどの深い場所だった。
虚ろな目を、かろうじて開いたまま……。
彼は静かに自分へ問いかける。
「ここは……どこだ……?」
「この場所は……何なんだ……?」
「どうやって……ここに来た……?」
「ここへ来る前……俺は何をしていた……?」
……
「何も……思い出せない……」
その時――
彼の目の前に、どこからともなく長く伸びた映像の帯が現れた。
そこには、いくつもの記憶が映し出されていた……。
最初に映ったのは、木剣で戦ったあの少年。
続いて、アレスとの会話。
家に帰った時のこと。
ナイルスが剣を渡してくれた時のこと。
そして、アンティラ山脈へ向かい、アレスと出会った時の記憶……。
映像の帯は、さらに続いていく。
やがて、試験開始直後――
アレスとともにシロを追っていた時に目撃した、シロと監督官の戦いが映し出された。
それを見たハイヴェンは、静かに呟いた。
「あの少年は……本当に優れているな……」
すると突然――
ハイヴェンの目が限界まで見開かれ、瞳に一瞬だけ輝きが戻った!
彼は上へ手を伸ばしながら、起き上がろうとする。
「監督官!!」
「俺は……あいつを……倒さなければ……」
「そうすれば……アレスが……」
次第に、その声は弱まっていく。
伸ばしていた手も、ゆっくりと下がっていった。
そして、目を閉じながら呟く。
「いや……」
「もう……そんなことは重要じゃない……」
「どうせ、あの監督官は……あまりにも強かった……」
目を完全に閉じる、その直前。
彼の瞳には、まるで生気を失ったかのような眼差しが浮かんでいた。
そして、静かに言った。
「すまない……アレス……」
「だが……もう手遅れだ。」
「俺は……消えていく……」
ハイヴェンの身体が、水中に漂っていた。
その足の一部が崩れ始める。
そして、細かな光の粒子へと変わり、散っていった……。
……
アレスは、依然としてネックレスに手を当てていた。
持てる限りのユルヴァナを注ぎ込み、懸命に強化し続けている。
そして、心の中で呟いた。
「時間が経ちすぎている……」
「それなのに、何の変化もない……」
「彼が動けなくなっているのは、技法が効果を発揮している証拠だ。」
「だが……どうやら、まだ不十分らしい!」
アレスの瞳孔が、限界まで収縮する。
そして、さらに考えた。
「いや……正確には、ハイヴェン自身が応じることを拒んでいるんだ!」
アレスの表情が凍りついた。
その顔には、深い悲しみと後悔が浮かんでいた。
そして、心の中で呟く。
「俺は……本当に、あいつをここまで追い詰めてしまったのか……?」
「まさか……ハイヴェンの死を招くのは……俺なのか……」




