第42章「あの知らせを聞く前に、耳を切り落としておけばよかった……」
アレスから逃げたユラシャンは、森の中を走りながら自分に言い聞かせていた。
「いや……いや……ありえない……」
「ずっと昔に死んだはずだ……だが……」
「あの防御……」
アレスが見せた、あまりにも異質な防御を思い出し、ユラシャンは数瞬の間、黙り込む。
だが、すぐに思考を切り替える。
「いずれにせよ、今は考えている場合じゃない。」
「事態がここまで複雑になり、この場にいる二大危険勢力の一つとまで衝突してしまった以上……」
「できるだけ遠くへ離れて、この試験を一刻も早く終わらせなければ……」
「明日までなんて、待っていられない!」
……
ヘイヴン:
「それで、どうする?」
「あいつを逃がすのか? それとも追う?」
アレス:
「あいつには、三体目の人形を破壊して、この学院の試験を完全に終わらせるために必要な能力がすべて揃っている。」
「おそらく、俺たちに正体を見破られた以上、今後は完全に姿を消すだろう。」
「何としてでも止める!」
そう言いながら、アレスは地面から杖のような木の枝を拾い上げる。
そして地面に地図を描き始め、ヘイヴンへ作戦を説明する。
「もしあいつが、また同じパターンを使うなら……少なくとも二体の人形は、同じ仕組みで通過するはずだ。」
「俺たちを欺くためにな。」
アレスは枝先で地図上のいくつかの地点を指し示す。
「問題は、あいつが正確にどのルートを通るのか、俺たちには分からないことだ。」
「だから、三体目の人形に賭ける。」
「おそらく闘技場の境界付近……具体的には、この地点だ。」
「だから、俺たちは外側からこの辺りを囲い込む。」
「その上で、ここで別れて、それぞれこの方向へ向かう。」
「それと、お前にはこの辺りに沿って進んでもらいたい。」
「何より、この作戦はまだ推測を前提にしたものだからな。」
ヘイヴン:
「アレス……一つ聞いてもいいか?」
「どうして、お前はそこまでユラシャンを追うことに固執している?」
アレス:
「確かめたいことがある……」
アレスは数瞬、黙り込む。
そして、静かに続けた。
「ずっと答えを待ち続けてきた……そんな質問だ。」
アレスの表情が、さらに険しくなる。
そして心の中で思う。
「同じ方法……!」
「同じ精錬……!」
「動きも……何もかもだ!」
「あいつと、すべてが同じ……!」
「なら、なぜだ?!」
「なぜ、今までずっと姿を隠していた?!」
ヘイヴンは、わずかな失望を滲ませた薄い笑みを浮かべる。
そして心の中で思った。
「それは……答えになっていないぞ、アレス。」
そして口を開く。
「どうやら、まだ俺には何も話すつもりがないらしいな……」
「まあいい。」
「無理に聞き出すつもりはない。」
「お前には、俺に正体を隠す理由があるんだろう。」
「分かった。」
「話したいと思った時に、話してくれ。」
そして、先ほどアレスが示した方向を手で指す。
「お前が言ったのは、あの方向だったよな?」
そう言って、その場を離れる。
「今日、お前がその質問への答えを見つけられることを願っている。」
「指定された場所で会おう……」
そして、さらに小さく呟く。
「俺も……」
……
ヘイヴンは走りながら、自分に言い聞かせていた。
「本当に分からない……」
「過去に、あの二人の間で何があったのか。」
「あれほどまでに謎に包まれた二人を、一体どんな関係が結びつけているんだ?」
「あの、あまりにも非論理的な防御さえも……」
「まるで、身体が勝手に動いたかのようだった!」
「俺は本当に、何も知らない……」
「いや……実際のところ、俺はアレスの過去について何一つ知らない。」
「だが……」
「あの顔……」
先ほど、困惑していたアレスの顔が脳裏に浮かぶ。
そして、ヘイヴンは考え続ける。
「あの顔に……俺の知らなかったアレスの一面を見た。」
……
アレスは自分の進路を走り続け、ついに指定された地点へ辿り着いた。
そして――
そこには、ユラシャンがいた。
三体目にして最後の人形を斬り落とそうと、今まさに剣を振り上げている!
アレスは、声の限りに叫んだ。
「シロ!!」
その名を聞いた瞬間――
ユラシャンの身体が凍りついた。
その目が、今にも眼窩から飛び出しそうなほど大きく見開かれる。
アレスは木の枝からゆっくりと降りる。
そして、ユラシャンから少し離れた場所に着地した。
そのまま、数歩。
ふらつくように、ゆっくりとユラシャンへ近づいていく。
そして、途切れ途切れの声で口にする。
「本当に……お前なんだな、シロ……」
「だが……なぜ……」
「なぜ、何年もの間、俺を置いていったんだ……!」
「俺は、ずっとお前を待っていた……!」
「あの人が死んでから……ずっと、お前が来るのを待っていた……」
その瞬間――
アレスの脳裏に、一つの記憶が蘇る。
六歳か七歳ほどだった頃。
建物の最上階にある部屋。
閉ざされた窓の向こうから、少年だったアレスは、宮殿の門を見つめていた。
「毎日……何度も、何度も……」
「お前が来るのを待ち続けた……」
再び記憶が浮かぶ。
彼は毎日のように、あの窓の前に立っていた。
そして、建物の門を見つめ続けていた。
やがて、彼は叫ぶ。
「答えてくれ、シロ!!」
「どうして、俺が一番お前を必要としていた時に、俺を一人にしたんだ!」
「俺は……お前が死んだとさえ思ったんだ……」
「俺の……一番大切な友よ……」
アレスの身体から力が抜ける。
その場に崩れ落ち、両膝をつく。
そして――
その目から、涙が滝のように流れ落ちた……
……
悲しみと、過ぎ去った日々への郷愁に満ちた目で――
シロは心の中で呟く。
「俺も……お前がいなくて孤独だったんだ、アレス……」
「あの短い時間……」
「あの何気ない言葉……」
「ほんの僅かなものだった。」
「それでも、それだけで十分だった。」
「闇に壊されかけていた俺の魂に、もう一度、炎を灯すには……」
「俺は、あの時間が永遠に続けばいいと、ずっと願っていた。」
「お前との決闘に、何度負けようと構わなかった。」
「俺にとっては……」
「その競い合いそのものが、あまりにも大切だったからだ。」
「だが――」
「あの知らせを聞いたことで……すべてが崩れ落ちた。」
「あの知らせを聞くくらいなら……」
「その前に、耳を切り落としておけばよかったと願うほどの知らせだった。」
「それは……」
「お前の死を知らせるものだった……」
「お前の死は……」
「どれだけ言葉を尽くしたとしても……その悲劇の大きさを語り切れるものではなかった……」
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