第35章「最も過酷な慈悲」
彼らは走り続ける。
リョウタの命令は止まらない。
「右!」
「左!」
「そのまま!」
「伏せろ!」
そして――
いくつもの巨大なハンマーを越えた、その先で。
エヴァンダーは激しく息を切らし、全身から滝のように汗を流していた……
視界の端から、ヒトシとカシドへ目を向ける。
二人とも見るからに疲れ切り、もはや走り続けるのがやっとだった。
それでも、エヴァンダーは彼らに向かって叫ぶ。
「もう、距離の三分の二はとっくに越えた!」
「終点の門が、もう地平線に見えている!」
「近いぞ!」
「耐えろ!」
だが……
後方では。
カシドが、徐々に速度を落としていた……
走る。
そして、つまずく。
それでも、また走る。
そして――
再び、つまずく。
彼は疲れ果てていた……
消耗しきっていた……
もう、限界だった……
その様子に気づいたヒトシが、叫ぶ。
「カシド!」
「しっかりしろ!」
「もう少しだ!」
カシドは顔を上げ、彼へ向けて力なく微笑む。
「分かってる……」
その瞬間――
巨大なハンマーが、彼の真正面へ落下する!
カシドは、立ち止まらざるを得なかった。
たった一瞬。
だが――
それだけで十分だった……
リョウタの目が見開かれる。
エヴァンダーの目も見開かれる。
動きが、パターンから外れた!
リョウタが声の限りに叫ぶ。
「止まるな!!」
ヒトシの瞳が大きく揺れ、顔から血の気が引いていく。
そして、かすかに呟く。
「嫌だ……」
エヴァンダーが叫ぶ。
「ヒトシ、やめろ!! 死ぬぞ!!」
だが――
ヒトシは、すでに振り返っていた……
カシドへ向かって走りながら、自分自身に語りかける。
「すまない、エヴァンダー……」
「今回ばかりは、お前の言うことを聞くわけにはいかない。」
「こいつは……俺に残された最後の兄弟だ。」
「俺は、お前たちとは違うんだ。」
ヒトシは、残された力のすべてを振り絞るように、カシドへ向かって全速力で走る。
そして、叫ぶ。
「カシド!」
「動け!」
カシドは、驚愕に見開いた目で彼を見る……
ヒトシは、微笑む。
「俺たち、約束しただろ……」
カシドの唇が震える。
その瞳から、涙がこぼれ落ちる……
そして、囁く。
「兄貴……俺を置いていかなかった……」
巨大なハンマーが――
二人の間へと落下する!
ヒトシが残した最後の言葉は――
「ありがとう……」
轟音が、大地を揺らす!
濃い土煙が舞い上がる……
そして――
土煙が晴れたとき。
そこに、カシドの姿はもうなかった。
そして、ヒトシは……
身体の半分を、完全に失っていた!
残された最後の力を振り絞り、ヒトシは苦しげに首を動かす。
そして、後ろを見る。
その目に映ったのは――
リョウタ。
ヒトシは微笑む……
ほんの小さな笑み。
穏やかな笑み。
まるで、そう語りかけるかのように。
「ありがとう……」
「それでも、助けようとしてくれて……ありがとう……」
「ここまで俺たちを連れてきてくれて……ありがとう……」
そして――
もう一つのハンマーが、落下する。
すべてを終わらせる……
沈黙……
エヴァンダーの目から、涙がこぼれ落ちる。
だが――
悲しんでいる時間はない。
後悔する時間もない。
叫ぶ時間もない。
考える時間すらない。
ただ、走る。
黙って走る。
ミズシはリョウタへ目を向け、心の中で考える。
「表情は、まだ冷たいまま。
その足取りも、まだ揺るがない。
奇妙だ……
全員、死んだ。
一人、また一人と。
それなのに……
お前は、まだ走っている。
まだ分析している。
まだ計画している。
これが……力なのか?
それとも――
お前の中の何かは、彼ら全員よりも先に、すでに死んでしまっているのか?」
「もし最初から、彼らの大半が生き残れないと知っていたのなら。
もし、この道が彼らを打ち砕くためのものだと知っていたのなら。
もし、彼らがお前についてきたその瞬間から、彼らの結末がすでに書かれていたと知っていたのなら。
それなのに――
なぜ、最初から彼らを助けた?
彼らに希望を与えるためか?
それとも――
彼らが死んだとき、自分自身に言い訳をするためか?」
「お前は、無意味な死を憎んだ。
だが――
挑戦する中での死まで、憎んだわけではない。
たとえ、この挑戦が成功する可能性をほんのわずかしか持たず、
そして、大多数のために用意された道ではなかったとしても。
それでも――
お前は、それを無意味ではないと考えている!」
「これは本当に……慈悲だったのか?
それとも――
ただ彼らの死へ付き添うための、より優しい方法にすぎなかったのか……」
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