第28章「この世界の残酷さの、ほんの一部にすぎない……」
一本の枝を飛び越えた、その瞬間――
ヒカリの瞳孔が極限まで縮む。
凄まじい死の危険を告げる警告が、彼女の頭脳を打ち抜いた!
ヒカリは全力で、空中の身体を傾けて回避しようとする!
だが……
無駄だった……
槍が、彼女の身体を貫いた……
掴もうとした手が枝を外す。
そのまま落下し、さらに四本の枝へ次々と身体を打ちつける。
そして、ようやく巨大な枝の上へ落ちた。
震える両手で身体を支え、立ち上がろうとする。
だが――
すぐに両手から力が抜け、再び崩れ落ちる。
頭を枝へ強く打ちつけ、激しく血を吐き出した。
左肩に突き刺さった槍を見つめ、考える。
「今の一瞬……かろうじて死を避けた。」
「その代わりに……肩をやられた。」
「致命傷じゃない。」
「でも……体力を急速に奪われている。」
「長くは待てない……」
その時――
耳を突き抜けるようなしわがれた声が響いた。
「何……? まだ生きているのか?!」
ヒカリが目を動かす。
そして、その視線が向かい側の枝へ止まった。
そこには、一匹の巨大な猿が座っていた。
背中には何本もの槍。
頭には、灰色の鉢巻き。
ヒカリの目が驚愕に見開かれる。
巨大な猿が口を開く。
「後衛の言った通りだ。」
「どうやら、お前は本当に稀有な者の一人らしい!」
「兄弟たちも、きっと喜ぶだろう……」
ヒカリが、掠れた声で尋ねる。
「一体……あんたたちは誰なの……?」
猿は立ち上がる。
「無礼を許してくれ。」
「まだ名乗っていなかったな。」
そして、拳で自らの胸を叩く。
誇らしげに叫ぶ。
「我々は――四人の鉄兄弟!」
「上位山岳猿族、四大戦士だ!」
「残念ながら、兄弟たちは左側にある大きな危険を察知し、それと戦うために向かった。」
「そしてお前は……ここにいた全員を殺した。」
「後衛までな。」
「本当に信じられない……」
「俺がこれほどまでに警戒を怠って、こんな長い間眠り込んでしまうなんて……」
……
「おい……人間……」
「くそっ!」
「死んだのか?!」
「まずいな……どうやら、俺はこいつを傷つけすぎたらしい。」
猿はヒカリのいる枝へ跳び移る。
そして、一歩。
また一歩。
ゆっくりと彼女へ近づいていく。
やがて、その目の前まで来る。
そして、ヒカリの頭へ手を伸ばした。
だが――
その瞬間。
ヒカリは、右手に密かに握っていた短剣を狂気じみた速度で引き抜いた!
足を、今にも砕けそうなほど強く踏み込む。
身体が、閃光のような速度で飛び出した!
そして――
短剣を、巨大な猿の首へ突き刺す!
ヒカリはすぐさま数歩後退する。
そして、何本もの手裏剣を一気に投げつけた。
顔へ。
両目へ。
正確に突き刺さる!
ヒカリは巨大な枝から素早く飛び降りる。
そして、かろうじて右手だけで別の枝へしがみついた。
やがて――
巨大な猿が、その枝から落下する。
地面へ激突し、そのまま絶命した。
ヒカリはその死体へ一瞥を向ける。
そして、身体を枝の上へ引き上げる。
激しく息を切らす。
傷口から、さらに血が流れ出す。
視界が次第に霞んでいく。
意識が、遠のきかける……
ヒカリは一瞬、息を止める。
そして右手で、左肩に突き刺さった槍を掴む。
そして――
全力で押し下げた!
「っ――!」
激痛に耐えきれず、叫び声が漏れる!
槍の木製部分の大半が、へし折れた!
身体が傾き、落ちかける。
だが、ヒカリは手に力を込め、どうにか身体を支える。
全身から、激しく汗が流れる。
やがて深く息を吸い――
立ち上がる。
槍を折ったことで、身体の動きは少しだけ楽になった。
ヒカリは木々の終わりへ目を向ける。
そこには、岩に囲まれた窪地が見えた。
そして、考える。
「たぶん……あれが終着点ね。」
……
その一方で――
アレスが姿を現した。
ローブはあらゆる方向から切り裂かれ、顔も衣服も血に覆われている。
右手には剣。
その切っ先から、血の雫が落ち続けている。
左手には、一匹の猿の死体。
その背中には、数え切れないほどの矢が突き刺さっていた。
アレスは後ろを振り返る。
そこには、二十体を超える武装した猿の死体が転がっていた。
さらに視線を動かす。
そこには――
三体の巨大な猿の死体。
その背中には何本もの槍。
頭には、赤、青、緑――三色の鉢巻きが巻かれている。
アレスは、しばらく沈黙する。
そして考えながら、ゆっくりと剣を鞘へ収める。
「今回の試験の難易度……普通じゃない。」
「いや……俺が知っているものとは、完全に異なる。」
「この道は……慎重に選んだ。」
「それでも、その難易度はすでに……過去数年の『地獄の道』に近づいている。」
「いや……」
「俺と、あの少女が何度も介入していなければ……死体の数は、倍になっていただろう。」
アレスは拳を強く握り締める……
「もっと早く気づいていれば……」
「ハイヴェンの実力を信じて、別の道を進ませたりはしなかった。」
深く息を吸う。
そして、木々の間を走り、枝から枝へ跳び移りながら進んでいく。
「ただ……無事でいてくれ……」
……
二分後。
アレスは、四方を石壁に囲まれ、まるでトンネルのようになっている岩の窪地を通り抜けた。
一分もかからず、その道を抜ける。
そして――
巨大な広場へ出た。
遠くには、何人もの監督官が見える。
その前へ主任監督官が降り立つ。
手にした帳簿を開き、読み上げる。
「アレス・シュアン、参加者番号201。」
「サリナ・スター・センターの訓練生。」
「全十六回の合同訓練キャンプのうち、十四回に参加。」
「公式決闘は五十六戦。」
「五十四勝、二敗。」
「総合評価9.4。」
「十二名の直接監督官による全会一致の評価により、評価および信頼性において、ラスト・トワイライト学院全体で第三位。」
「私はリョウマ・マサト。」
「由緒あるラスト・トワイライト学院の最終試験、その第一段階において第一位を獲得したことを、心より祝福する。」
「そして今、この功績の報酬を君に渡そう。」
リョウマが指を鳴らす。
すると、銀色のユルヴァナが周囲で輝く。
その光の中から何かが現れ、眩い輝きを放ちながら、彼の掌へ降りてきた。
リョウマは、それを見せながら言う。
「これは……」
アレスが、その正体を口にする。
「『祖先の栄光のヴィラ』。」
「形成の道における主要な系統の一つ。」
「特に、中級ユルヴァナ形成の中でも際立ったものですね。」
「これほど貴重なものが……こんな些細な功績に対する報酬だとは、にわかには信じられません。」
リョウマは微笑む。
「よく勉強しているな、少年。」
「お前くらいの年齢の者の大半は、偽りの力という幻想に惑わされ、何もかもの基礎を忘れてしまう……」
「知識だ!」
「だが、一つ見落としている。」
「大きな功績に対する報酬は、その価値が大きく異なる。」
「貴族や王族の氏族の学院と、統合学院とではな。」
アレスは両手を合わせ、わずかに頭を下げる。
「この若輩、心より感謝いたします……」
リョウマは背を向け、歩き去りながら言う。
「最終報告書には、君の名を金字で記しておこう。」
「これからも、さらなる高みを目指せ。」
……
その頃、ヒカリは右手で左腕を支えながら、石壁に身体を預け、ゆっくりとした足取りで歩いていた。
時折、何人かの参加者が彼女の横を通り過ぎ、奇妙な視線を向けてくる。
そして数分後――
ヒカリは、ようやく試験通過者たちのいる広場へ辿り着いた。
周囲を見渡す。
そこには、何十人もの試験通過者がいた。
そして、掠れた声で呟く。
「これで……」
「ようやく……終わった……」
その場に膝をつく。
震える手で槍の端を掴み、左肩からゆっくりと引き抜く。
そして――
槍を完全に引き抜き、脇へ投げ捨てる。
そのまま左肩を掴み、強く押さえる。
そして、血に染まったローブへ視線を落とす。
石壁の間で押し潰された者たち。
矢によって殺された者たち。
ワニに引き裂かれた者たち。
次々と、その光景が脳裏に蘇る。
そして、彼女の目から数滴の涙がこぼれ落ちた。
その瞬間――
ヒカリは痛みを感じた。
だが、それは肩の傷による痛みではなかった。
心の奥に、それよりもはるかに強い痛みがあった……。
彼女は、この世界の残酷さの一端を理解した……
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