第22章「生存にためらいはない」
そして、三分後……
彼らは走り続けていた。
アレスは、すでにヒカリから大きく離れている。
ヒカリは歯を食いしばり、考える。
「なんて速さなの!」
「どうして、あんな速度で走りながら……まったくバランスを気にしていないの?!」
「どうして、何もかも……あんなに簡単そうにやってのけるの?!」
「くそっ……!」
「どんどん小さくなっていく……もう、見失いそう……!」
その思考を、突然アレスが立ち止まったことで遮られる……
ヒカリは一瞬、表情を強張らせる。
そして、さらに速度を上げながら考える。
「今回は……いったい、どんな災厄を見つけたの?」
「もっと近づく……!」
「そうすれば、何か手掛かりを掴めるかもしれない……」
アレスはその場で身体を低くする。
両膝を地面につき、両足もしっかりと地面につける。
そして、両手で壁の両端へ強くしがみつく……
その姿を見た瞬間、ヒカリは何が起きているのかを理解する。
振り返る。
壁を登って彼らの後を追い、さらに後ろから走ってきている者たちへ向かって両手を上げる。
「身を低くして、壁にしがみついて!」
ヒカリ自身もすぐさま身体を低くし、両手で壁の両端へ強くしがみつく。
そして突然――
二つの壁が、激しく揺れ始める!
そして……徐々に、互いへ近づいていく!
その揺れはあまりにも激しかった。
ヒカリの手は、何度も滑り落ちそうになる。
一方、ヒカリとアレスの後を追ってきた者たちの中には、彼女の言葉を聞き、間に合うように身を低くして、必死に壁へしがみついたことで耐え抜いた者もいた。
中には、しがみつこうとしたものの、激しい揺れで手が滑り、そのまま落下した者もいた。
また、事態を理解するよりも早く揺れが始まり、そのまま落下した者もいた。
そして下にいた者たちの中には――
すでに先頭付近にいて、壁の終端にも近かったため、二つの壁が完全に閉じる前に抜け出し、脱出できた者もいた。
だが……
恐怖に襲われ、声が枯れ果てるまで叫び続け、やがて無我夢中で走り回った末に、二つの壁の間へ挟まれ、押し潰された者もいた。
また、必死に壁を登ろうとした者もいた。
だが、何の意味もなかった。
ただ滑り落ち続け……
そして、最後を迎えた。
ヒカリは、二つの壁が完全に閉じる直前に素早く手を引く。
そして――
二つの壁が、完全に密着する。
アレスは立ち上がり、そのまま少しだけ走る。
そして、壁の終端へたどり着く。
足を止め、周囲と下方を見回す。
ヒカリは彼を見て、考える。
「出口……!」
「壁が近づくことに気を取られて、完全に忘れていた……!」
「今、二つの壁が閉じてしまった。」
「最後に残されていた、明確な降り道まで……失ってしまった!」
その思考を、アレスが数歩後退したことで遮られる。
彼の視線が、今や遥か遠くにある巨大な木々の森へ固定されていた。
ヒカリは考え続ける。
「まさか……」
「あいつ……まさか……」
そして――
完全に狂気じみた動きで、アレスが突然全速力で走り出す!
そのまま、森へ向かって跳ぶ!
それはまるで……
一瞬だけ、翼を手に入れたかのような光景だった。
アレスは一本の枝へ着地する。
だが――
枝が、すぐに折れた!
別の枝へ手を伸ばし、しがみつこうとする。
だが、それも折れる!
そしてようやく、太い枝を掴む!
身体を引き寄せ、バランスを取り戻す!
そのままアレスは、ほとんど迷うことなく木を降りる。
そして、地面へ着くと、そのまま走り続ける。
ヒカリは驚愕のあまり口を開く。
そして、自分の頭を手で叩く。
ようやく我に返る。
深く息を吸い、自分自身に言い聞かせる。
「しっかりしなさい、ヒカリ。」
「こんなの……完全に狂気だって分かってる。」
「でも……他に方法はない。」
「もし何かあったら……すぐにユルヴァナを使う……」
ヒカリは数歩後退する。
巨大な木へ視線を固定する。
それでも、握り締めた手には力が入り続けていた……
深く息を吸う。
そして、ゆっくりと手の力を緩める……
走り出す。
数歩。
そして――
巨大な木へ向かって、大きく跳ぶ!
最初は、恐怖に支配されていた。
だが……
徐々に、奇妙な高揚感が込み上げてくる。
まるで――
これまでずっと自分の身体を重く縛りつけていた、あらゆる束縛から解放されたかのように。
それは、ほんの数瞬しか続かなかった高揚感だったのかもしれない。
だが……
その感覚を彼女の記憶に刻み込むには、それで十分すぎた。
きっと、生涯決して忘れることのない感覚になる。
幸いにも、ヒカリは太い枝の上へ無事に着地する。
枝は折れなかった。
ただ、わずかにしなるだけだった。
ヒカリは素早く木から降り、そのままアレスの後を追って走り続ける。
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