第21章「災厄を予測する者は……災厄を避ける」
彼女が走っている、その最中――
前方の道の両側に、二つの巨大な壁が姿を現した。
その壁は、先が見えなくなるほど長く、遥か彼方まで伸びている。
遠くから、ヒカリは気づく。
先頭を独走していたアレスが、その二つの壁の前で突然足を止めたのだ。
そして、頭を上げる。
二つの壁の頂上を、数秒間じっと観察している。
その間にも、ヒカリは彼との距離を急速に縮めていく。
すでに、その距離は五十メートルを下回っていた!
そして、アレスは奇妙な動きを見せる。
ポケットからロープを取り出し、壁の上へ投げる。
ロープは、突き出た岩に引っかかった。
アレスはそれを強く引く。
……落ちない。
固定されていることを確認すると、アレスはそのまま壁を登り始めた!
ヒカリの目が、驚愕に見開かれる。
「いったい、何をしてるの?!」
「この壁が何か怪しいことは分かる……」
「でも、あれはアレス・シュアンだぞ!」
「エリートの中の天才だ!」
「まだ何一つ証明されていない、たった少しの疑念だけで先頭を譲るなんて……ありえない!」
「きっと……危険な罠に気づいたんだ……」
ヒカリは意識を集中させ、さらに近づいていく……
数秒後。
彼女は、壁の始まりまで十メートルもないところまで到達する。
そして、考える。
「地面は石造り……」
「つまり、木はない。」
「なら、上からの罠もない。」
「小さな草すら生えていない……」
「少なくとも、さっきまでのような地面の罠もない。」
「それに、この二つの壁はあまりにも高い。」
「一本につき二十メートルを超えているかもしれない……」
「なら、崖から岩が落ちてくることもない。」
「だけど……」
「近づけば近づくほど……何かがおかしい。」
「まるで、道がどんどん狭くなっているような……」
「いや……正確には……」
「二つの壁が、徐々に内側へ傾いているような……」
「待って……!」
「これだ……!」
「これこそが、あいつを警戒させたものなんだ!」
「ここにある罠は……」
「道が徐々に狭くなっていき、最後には行き止まりになること!」
「しかも、道そのものが最初から傾斜している。」
「だから、行き止まりへ極限まで近づくまで、その先を確認できない。」
「それに、この壁は滑らかだ。」
「そこまで来てしまえば、登ることなんてできない……」
「しかも、壁から突き出た岩があるのは、最初の部分だけ!」
ヒカリはついに壁の始まりまで到達し、足を止める。
その直後――
二人が、一瞬で彼女を追い越していく!
ヒカリはすぐにロープへ向かう。
すると、その横を別の一人が通り過ぎる。
そして、皮肉な笑みを浮かべて吐き捨てる。
「この狂人どもが!」
ヒカリは無視する。
そして、壁を登り始める。
その頃には、アレスはすでに壁の頂上へ到達していた……
アレスは下にいるヒカリを見下ろし、かすかに微笑む。
そして、そのまま壁の上を走り続ける。
数秒後。
ヒカリもようやく壁の頂上へ到達する。
右を見る。
そこには、すでに数十人もの参加者が彼女を追い越していた。
左を見る。
そこには、巨大で密集した木々の森が広がっていた。
木々はあまりにも高く、その頂は壁より数メートルも上まで伸びている。
そして前を見ると――
アレスは、まだそれほど遠くへは行っていなかった。
その瞬間――
アレスが壁を強く蹴る!
一枚の石板が砕ける。
彼はそこから石板を引き抜き、それを片手に持ったまま、木々へ向かって跳ぶ!
何が起きたのか理解するよりも早く……
ヒカリの瞳孔が極限まで縮む。
そして、彼女は素早く身体を傾けた。
一本の矢が頭のすぐ横を高速で通り過ぎる!
その風圧だけで、なびいていた髪の一部が切れた!
そして、一瞬も経たないうちに――
大量の矢が、彼女へ向かって降り注ぐ!
ヒカリは素早く壁から右側へ跳ぶ。
そして、指先だけで壁にしがみつく。
身体は宙に吊り下がったままだ。
矢が石造りの道へ次々と突き刺さる。
そして、多くの参加者が負傷し、あるいは命を落とした!
ヒカリは、死体と血へ目を向ける。
悲鳴と懇願が、耳を突き刺す。
彼女は苦しげに表情を歪め、呟く。
「ごめんなさい……」
「あなたたちが死んでしまったこと……本当に、ごめんなさい……」
「でも……私には、助けられない……」
「彼らの目には……私たちは虫以下なんだ……」
やがて、矢の雨が少しだけ弱まる。
ヒカリは、ゆっくりと顔を上げる。
そして、驚愕に目を見開く!
巨大な猿たちが、弓と矢を手にしている。
木々の枝から枝へと飛び移りながら、石造りの道へ向けて次々と矢を放っていた!
だが――
それ以上に奇妙な光景があった。
アレスが、一匹の猿の頭上へ石板を叩きつける!
そして剣を抜く。
一閃。
猿の首が斬り落とされる!
仲間の一匹を殺されたことで、残りの猿たちは恐慌状態に陥る。
そして、すべての矢をアレスへ集中させる!
だが、アレスは倒れた猿の死体を盾として使う。
そのまま死体を抱え、最も近い猿へ向かって跳ぶ!
そして、死体を投げつける。
猿が一瞬、動揺してそれをかわす。
その隙に――
アレスが、その猿の上へ着地する!
凄まじい力で剣を頭へ突き刺す!
すぐに引き抜き、隣にいた別の猿の首を斬り落とす!
さらに――
恐ろしいほど正確に二本の短剣を投げる。
二本とも、それぞれ別の猿の頭を正確に貫いた!
わずかな時間の中で、五匹の猿が倒れる。
それを見た残りの猿たちは恐怖に襲われ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
アレスは壁へ向かって跳び戻る。
そして、そのまま壁の上を走り続ける。
ようやくヒカリも我に返る。
慌てて身体を引き上げ、立ち上がる。
そして、アレスの後を追って走り続ける。
「天地にかけて……」
「いったい、いつ……どうやって、あいつは奴らの存在に気づいたの?!」
「やったことといえば……上を何度か見ただけ。」
「それだけで……十分だったっていうの?!」
「そもそも……こんなことが可能なの?!」
「待って……」
「まさか……偶然?」
「行き止まりになる可能性を警戒して壁を登った。」
「そして、木々へ目を向けた瞬間に……奴らの存在に気づいた?」
「それなら……壁の頂上へ上がった後も、どうして道へ降りなかったのかも説明できる。」
「そのまま壁の上を走り続けた……」
「バランスを保つのが難しいはずなのに。」
ヒカリは、アレスを強く見つめる……
「この領域……」
「恐ろしい……」
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