第十章「感謝と恐怖の狭間で……指導者は生まれる」
彼らはアリーナへ入った。
ゆっくりと歩いていく。
辺りを、静寂が支配していた。
あまりにも静かな状況。
だが……。
完全に、というわけではない。
荒い呼吸音。
激しく脈打つ心臓……。
数メートル離れた仲間の鼓動さえ聞こえてしまいそうなほどだった。
彼らは混乱しているわけではない。
恐怖に震えていたのだ!
今にも自分たちの頭上へ崩れ落ちてきそうな柱のすぐそばを歩いている。
その一方で、目の前には完全に無傷の柱がある!
リョウタほどの指導者の権威があったとしても、この誘惑に抗うことは決して容易ではなかった。
実際、何人かは集団からこっそり離れ、少しずつ無傷の柱の方へ近づこうとした。
だが、その瞬間――
リョウタのあの恐ろしい視線が向けられる。
彼らはすぐに足を止め、引き下がり、再び集団へ戻っていった。
そんな状態が、しばらく続いた……。
リョウタは目の端で後ろの集団を確認しながら、心の中で呟く。
「よし……少なくとも、俺の命令には従っている」
「最初にわざとゆっくり歩いたのは、こいつらを試すためだ」
「この様子なら……次の罠も突破できるかもしれない」
……
そして、彼らが約七十メートルほど進んだ、その時だった。
轟音のようなひび割れが、全員の耳を貫いた!
その瞬間――
リョウタが片手を上げ、ある場所を指し示しながら叫ぶ。
「急げ! 右だ!」
リョウタはその場所へ向かって走り出す。
そして、すぐに全員が彼の後を追った。
ほんの数瞬も経たないうちに――
一本の柱が、轟音を響かせながら地面へ倒れ落ちた!
彼らが息を整える間さえない。
リョウタはすぐさま倒れた柱の残骸へ向かって走り出した。
そして手を上げ、その場所を指し示しながら叫ぶ。
「動け! 急げ!」
ヒトシと数人は、何も尋ねることなく即座に彼へ続いた。
だが、一部の者たちは戸惑いながら声を上げる。
「でも……そこは今、柱が倒れたばかりじゃ……」
「動けと言った!」
リョウタの怒声が響く。
その瞬間、彼らは口を閉ざした。
そして急いでリョウタの後を追い、最初の柱が倒れた場所へ向かう。
数瞬後――
凄まじい衝突音が、彼らの耳を貫いた!
二本目の柱が倒れた!
数秒間――
静寂がその場を支配する。
一人が激しく息を切らしながら、震える声で呟く。
「俺たち……助かったのか?」
誰も答えない。
ただ、周囲を見回す。
柱を。
地面に散らばる残骸を。
そして、互いの顔を。
表情を強張らせる者。
目を見開き、呆然と二本目の柱の残骸を見つめる者。
その中の一人が、激しく震える自分の手を見つめながら呟いた。
「俺たちには……落ちてこなかった……」
一瞬が過ぎる。
そして――
突然、その声が大きくなる。
「助かった!!」
まるで、その言葉が彼らを解放したかのように。
周囲の声が、徐々に大きくなっていく。
「助かった!!」
「助かった!!」
やがて、歓声が上がる。
「指導者万歳!」
「リョウタ卿は俺たちの救世主だ!」
「俺は命を救われた! 死ぬまで指導者についていく!」
そんな歓声の中――
アキラは、その瞳孔を限界まで縮めたまま立ち尽くしていた。
そして、心の中で呟く。
「どうして……」
「どうして、分かった……?!」
「アリーナを観察していたのは、ほんの数分だけだぞ!」
「どれほど分析が天才的でも……」
「どれほど観察が正確でも……」
「どれほど予測が正しかったとしても……!」
「せいぜい、分かるのは一つの柱が倒れた後、すぐに別の柱が倒れるという、繰り返されるパターンまでのはずだ!」
「なら……」
「どうして二本目の柱が倒れるタイミングまで、あれほど正確に分かった?!」
「どうして、二本目の柱が音を立てないと分かった?!」
「どうして、ひびの多い柱の方が安全だと分かる?!」
「確かに、無傷の柱そのものは倒れない!」
「だが、その近くを歩けば、飛び散る瓦礫によって甚大な被害を受ける!」
「つまり……俺たちが右へ向かったあの場所だけが、安全だったんだ」
「それも……一時的に!」
「ほんの数秒しか安全ではない!」
「その後は、最初の柱が倒れた場所へ戻らなければならない!」
「しかも……」
「もっと奇妙なのは……」
「これが……唯一の生存方法だということだ!!」
そして、残る疑問は――
「どうして……?」
「どうして、ここまで極端に正確な情報を知っている?!」
「どうして、こんな天才的な戦略を組み立てられる?!」
「偶然なんかであるはずがない!」
「まさか……監督側のスパイなのか?」
「ありえない!」
「エヴァンダーのような従者を連れていることもそうだが、それ以上に、試験が始まってから今までの奴の行動すべてと矛盾する……」
「なら……秘密の情報を手に入れたのか?」
「それもありえない!」
「アキタラオ氏族の者たちですら、こんな情報を持っていない!」
「それどころか、第一試験の情報は、この世界でも最強格の存在――ティター上位段階、ジュリアン・シルヴァによって、あらゆる者から完全に秘匿されている!!……」
「まさか……」
「本当に……ただの天才だというのか?」
「アリーナをほんの数分観察しただけで……ここまでのことをすべて見抜いたというのか?!……」
沈黙。
考えるだけでも、恐ろしい。
だが――
「もし……」
「もし、それが本当である可能性が少しでもあるのなら……」
「こいつについていくことの方が……」
「逆らうよりも……危険なのかもしれない……」
その思考を断ち切るように、群衆の歓声がさらに大きくなる!
アキラは周囲を見回す。
その瞳が激しく揺れる。
そして、心の中で叫ぶ。
「お前たち……本当にそこまで馬鹿なのか?!」
「本当に……気づいていないのか……」
その思考が、一瞬途切れる。
目が見開かれる。
額から汗が流れ始める。
沈黙……。
そして――
再び、彼は考える。
「いや……」
「違う……」
「まったく違う……」
「何も知らないままでも生き残れる可能性と……」
「救世主であるリョウタの隊列から離れる危険を、天秤にかけるなら……」
「しかも、大会の残り時間が少ないという、筋の通った理由まである」
「それなら……最初の方へ傾くに決まっている!」
「いや……」
「そもそも、他に選択肢なんてない!」
その時――
ヒトシはアキラの緊張に気づいた。
そして誰にも気づかれないよう、群衆の中を静かに進み、彼のもとまで近づく。
その肩へ、そっと手を置いた。
アキラがそれに気づき、口を開こうとする。
だが、その前に――
ヒトシが彼の耳元へ顔を寄せ、静かに囁いた。
「アキラ……」
「考えすぎるな……」
アキラの瞳孔が限界まで縮む。
ヒトシは続けた。
「兄貴たちは……もう死んだんだ……」
群衆が歓声を上げる中――
リョウタは大きく息を吐き、苦しそうに呼吸する。
そして群衆へ目を向け、素早く一人一人を確認する。
そして――
心の中で呟く。
「犠牲者はいない」
「よし……」
「一つ、乗り越えた」
静かに呼吸を整え、額の汗を拭う。
その時――
彼は、ヒトシとアキラの間で起きていることに気づいた。
リョウタの口元に、一瞬だけかすかな笑みが浮かぶ。
だが、それもすぐに消えた。
真剣な表情へ戻ると、彼は群衆の前へ進み出る。
そして、彼らへ告げた。
「まだ祝っている場合じゃない」
「今のは、最も簡単なものを一つ生き延びただけだ」
「無駄にしている時間はない」
「進め!」
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