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New world  作者: 巻Salmon
始まりの日常
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24/25

動き出す日常:1

「暑ーい!」

両手に持っていた雑草を盛大にぶちまけながら、フェリスは叫んだ。空間に舞う緑から植物の匂いが漂う。

色気の無い運動着を身にまとい、地べたに足を伸ばすフェリスは、同じ様に運動着を着たソウを恨めしそうに睨む。

「うるせぇ、黙ってやれ」

作業を続けながら素っ気なく返すソウにフェリスは頬を膨らませる。

「だいたい何で私がこんな事しなきゃなんないのよ!」

きっと飽きたのだろう。

そう思い、無視することにした。

「何が抑止力よ!ただの雑用じゃない!」

あれだけ好き放題暴れ回って他人に迷惑かけておいてこの程度で済んでいるのだから、マシな方だろうと思ったが、言ったところでややこしくなるので黙ったままにする。

「だいたい!あんたがあの時何もしないですぐ降参しちゃうからこうなったんでしょうが!」

怒りがこちらに向くがそれでも無視することにする。

あれだけ完膚なきまでに叩きのめされておいて、無力な自分が何か加勢したところで結果など大して変わらないことは目に見えている。

今日になり生徒会長より突然言われたのは、単なる花壇の草むしりだった。それなりの範囲ではあるが、まあ先の見えない途方もない作業というわけでもない。

何を頼まれるかヒヤヒヤしてはいたが、理由のわからない危ない連中を相手にさせられるより、この草むしりのほうがよっぽど平和かつ健康的で良い。

「なんか道具とかないの道具!」

文句を言っていても作業が進むわけでは無いので、サボっていないでサッサと進めて欲しい。

相手にされていないフェリスもそれが分かっているのか、渋々ながらも作業に戻もうとする。

が、何かを思いついたのが、手が止まる。

「……燃やしていい?」

「やめなさい」

ソウの言葉にフェリスはため息をついた。

そんな中ライザーはひと言も発さず、器用な手捌きで、みるみるうちに草をむしっていた。

「意外に真面目だな」

自分より圧倒的に広い範囲を進めるライザーにソウは声をかけた。

「嫌いじゃない」

そう言いながらもまた黙々と作業にもどる。

しかし、暑い。

直接の太陽光と、地面からの照り返し、汗がとめどなく流れてくるが、不快さは無い。

心地よい労働の疲労感は悪いものではなかった。

しばらくそれぞれ黙々と作業を続けた。

かなりの進捗度合いだった。集中し始め、慣れて効率が上がってきた事もあるがあとの2人の作業スピードが異常に早い。

ライザーはテキパキと無駄のない動きで、淡々と進め、意外にも真面目にこなすフェリスはライザー程効率的でないにしろ素早い動きで広範囲を終わらせていった。


作業が三割ほど終わったころだった。

「休憩にするか」

意外にもその言葉はライザーから出たものだった。

「え、何でよ」

作業に興が乗っていたフェリスは不思議そうな顔で言った。

「作業速度が落ちている」

冷静な判断だった。

確かに少し疲れてきたところだ。

フェリスもそう思ったのかその提案に黙って同意した。

額の汗を手の甲で拭う。

フェリスも同じ様に口元を拭うと、綺麗に土が鼻の下に付く。

それを見ていたライザーが指摘しようとするが、ソウは無言で首を振り、それを制した。

離れて花壇の縁に座る3人、特に共通の話題も無く、会話は無かったが、3人とも気にした様子は無かった。

「そう言えば、お前の名前聞いてなかったな」

「ああ確かにな」

ライザーの言葉にソウはぼんやりと反応する。

昨日からのバタバタで忘れていたが、そういえば名乗っていない。

相手の名前はなんとなく知っていたが、名乗らないままというのも気持ちが悪い。

「ソウ=シラナミ、何の変哲もない一般人だ」

「ライザー=レイステッド、まあ俺も似たようなもんだ」

互いに簡単な自己紹介だったが、それで充分だった。

フェリスはそんな二人のやりとりを空を見上げながら聞いていた。

無言の時間にも何故か気まずさは無かった。

「さて、そろそろ…」

ライザーはそう言って腰を上げる。

しかし、そのまま動かず1点を見ていた。

それを不思議に思ったソウも座ったまま同じ方向を見あげる。

最後にフェリスもそちらを見る。

「げ」

フェリスは低く唸るように言った。

そこに居たのは水色の髪の女生徒、見覚えのある顔だった。

この前、というかちょくちょくとフェリスといざこざのあるその顔は今回は取り巻きを連れず、一人きりだった。

だが、そのいつもの上から来る目線は相変わらずで、フェリスを見ながら嫌味のこもった笑みを無遠慮に向けて来ている。

「辺境の貴族である貴方にはお似合いの雑用ですわね!」

なんとも嬉しそうにそう言った。今にも高笑いが飛び出しそうだ。

その言葉にフェリスはゆっくりと立ち上がる。

「あんた暇なの?」

フェリスも少しは疲れているのか、無闇に噛みつかず、呆れながら言った。

そういえば事あるごとに絡まれているのを見ている。

向こうは一方的にライバル視していて、対してフェリスはあまり興味が無さそうだった。

戦闘狂のフェリスにしては珍しいと思った。

「暇じゃありません!無様に汗水垂らすあなたを見に来て差し上げたのですわ!」

「暇じゃん」

二人の態度には明らかな温度差があり、それぞれの持つ属性と真逆のものだった。

小型の獣のように、唸る水色髪の女生徒、フェリスは完全に冷めていた。

「あんた、えーと、名前なんだっけ?」

相変わらずなフェリス、そう言えば自分も名前を知らなかった事を思い出す。

「レイテス!ミリシア=レイテスです!」

「あぁ、そうだっけ、まあいいや、どきなさい。作業の邪魔」

手の甲を前後に振りまるで小動物でも追い払うようなフェリスの態度に、水色髪の女生徒、ミリシアは憤怒し顔を真っ赤にしている。

「いいですわ、今日という今日こそ私の名を貴方の中に刻んで差し上げる」

そう言えば、と思い出す。

確か2人は入学当初に一悶着あったらしい。

結果はなんとなく想像がつく。

「面倒くさいなぁ」

あくまで相手にする気のないフェリスにミリシアは前かがみに睨む。

その場に空気のように立つソウとライザー、ミリシアはそれを見つけると、嫌らしく微笑む。

こちら、というよりライザーを見ていた。

「そう言えばクィンスターさん、先日そこの技術科の生徒と引き分けたそうですね!」

新しいエサを見つけたかのように食いつくミリシアをライザーは面倒臭そうに見ていた。

「曲がりなりにも名家である、クィンスター家の人間である貴方が、たかだか技術科の生徒相手に!」

敵でも取ったかのように得意げなミリシア、侮蔑気味の言葉にもライザーは動じなかった。

こういう態度の人間にはよく慣れている。

だが、フェリスの方は違っていた。

「は?」

静かに、温度が下がった。

いつもの、狂犬ではない。理性のある怒り。

その様子にミリシアは気付いていない。

「魔術の名門である貴方が、力もなく粗暴で野蛮な技術科の生徒ごときに引き分けるなんて、ずいぶん落ちぶれましたわね……え?」

ミリシアが気付いたとき、もう既にフェリスは目の前にいた。

やや背の高いミリシアを見あげるカタチで真っ直ぐ目を射抜く。

そのただならぬ気配に、ミリシアは気圧されていた。

その様子に、ライザーとソウは顔を見合わせる。

「そこまでにしなさい」

静かながらも強い気配は気品すら感じられる。

その言葉にさっき迄の勢いが嘘のように押し黙る。

「知りもしない相手を環境だけで決めつけるのはやめなさい。器が知れるわよレイテス」

家名を出された事で何も言えなくなるミリシア、悔しさを滲ませながらも、フェリスの言葉に自らの発言がいき過ぎているものだと理解していた。

「私に名前を覚えてもらいたかったら、その態度から改めなさい」

奥歯を噛み締めるミリシア。

「失礼いたしました」

真摯に頭を下げるミリシアに、ライザーは呆気に取られていた。

そんなミリシアにフェリスは満足そうに微笑む。

「今回はここまでにします。クィンスターさん次は然るべき手順で相手にしてもらいます」

バツの悪さもあるであろうが、そんな事は微塵も感じさせずミリシアは優雅にスカートを翻して踵を返し、そのまま歩き出す。

しかし、少し離れて立ち止まると、いきなり振り返る。

「クィンスターさん、鼻の下の土は拭いたほうがよろしくてよ」

その言葉を残し、そのまま立ち去る。

言われたフェリスは慌てて鼻の下を指先で拭うと、そこには確かに土が付いていた。

カッと目を開くと、沸々と煮えたぎるように怒りを現す。

「お、し、え、な、さ、い、よ!!」

そう言いながら勢いよく側にいたソウの首根っこを掴む。

ソウ、は抵抗しながらも激しく身体を揺すられる。

「今日はここまでだな」

ライザーは微笑ましく二人を見ながら呟いた。

気付くと日が暮れ始めていた。





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