動き出す日常:1
「野菜を作るの!」
翌日であった。
放課後、律儀にも同じ場所に集まり、何を言うでもなく、それぞれが作業に入り、黙々と進めていく三人の前に、唐突に現れた生徒会長は、胸を張りそう高らかに宣言した。
三人はそれぞれ僅かに反応するが、またすぐに作業に戻る。
「え!無視!?」
作業は本日も順調だった。
結果、半分の範囲が終わろうとしていた頃である。前日の事もあり、また邪魔が入る事を懸念した結果、誰ともなく相手にしない事に決めた。
「ちょっとくらい相手してくれても良いじゃない!」
膨れて騒ぎ立てる生徒会長に無視をしようにも、いかんせんうるさいので、三人はアイコンタクトで合図を送り合い、仕方なく代表してソウが話しかける事にする。
ゆっくり、ヤレヤレと立ち上がる。
「実は暇なんですか?」
日頃の行動で思っていた事を口にする。
「そんなわけないでしょ?」
即答する生徒会長、その顔を見ると表情は相変わらずで、あのまま無視しておけば良かったと後悔する。
「んで、何ですって?」
相手をソウに任せ何事もなかったようにと作業を続ける二人、相手をするのを面倒くさがっているのか、意外にも作業が気に入っているのかは分からない。
「や、さ、い、作るの」
「唐突ですね」
まあ、花壇がありそこの草むしりをしているのだから、目的は植物を育てることがほとんどだろう。
花でなく、野菜というのは少し意外であるが。
「好きなのよね、野菜」
「聞いてないですが?」
「食べるのではなく愛でるのがね」
「意味がわかりません」
愛おしそうに目を細め、この中途半端に雑草が残った花壇を眺めながめながら目を細める生徒会長の表情から偽りは見えなかった。
その目線を追って花壇を見る。
それなりに広い範囲であるこの花壇を植物で埋め尽くせば見栄えのある光景になるであろう。
「ここの花壇ってさ、結構広い割に誰も使う人がいなくてさ、ずっと放置されてたんだよね。文化棟からもこんなにも近いのに寂しいよね」
何かを回顧する様に花壇を見つめながら髪をかき上げる姿は、普段の印象とはだいぶ違って見えた。
それに対してかける言葉もなく、穏やかに吹く風を感じていた。
「それで野菜ね」
「そ、野菜。食べても美味しいしね」
今のひととき時間をかき消すように、わざとらしく片目を瞑る生徒会長の瞳が光を反射して輝く。
それを横目で見つつ、ソウは空を見上げる。
この日差しなら植物もよく育ちそうだ。
額にかいた汗を拭う。
「要件はそれだけか?」
そう言いながら腰を下ろす。
深く考える事はしなかった。
何故だろうか、不思議と気分は悪くなかった。
そのまま作業に戻る。
「意外にまじめだね」
「うるせえ」
軽く悪態をつく。
汚れる事も気にせずにソウの側の花壇の縁に生徒会長は腰掛けた。
「…やっぱ暇だろ」
「休憩だよ、休憩」
若干の煩わしさを感じつつ、まあ許容範囲であるかと、気にしない事にする。
こちらに、アクションを起こすでもなく、無言でその場にいる生徒会長の存在をなんとなく感じながら、草をむしり続ける。
「まさか、毎回こんな事、やらされるんじゃないだろうな?」
ソウの問いかけにすぐに答えは返ってこなかった。
「どうかな」
やや、間があって生徒会長は答えた。
「荒事は勘弁してくれ」
「そうならない事を私も願うよ」
その声から意図は伝わらない。
含みのあるその言葉にも作業に集中し始めたソウは気にすることもなかった。
「差し入れ、置いておくね」
そう言って、生徒会長は立ち上がり、大して汚れてもいないスカートの裾を軽く払う。
近くにあるベンチには、3つ分の手拭いと、蓋付きの木製の容器に入った飲み物が置いてあった。
「ちゃんと休憩しなよ」
そう言いながら立ち去る生徒会長に誰もが目を向けず、そのまま作業を続けた。
「このまま、何事も無ければいいね」
立ち去りながら、生徒会長は呟く。
その妖艶な笑みを見ているものは誰もいなかった。




