閑話-3
黒衣の人物が壁に手を押し付けると手を押し付けた部分が光りスキャンを行う。
データー照合が、内臓されたデータと一致したらしく、黒衣の人物の正面の壁が音もなく奥へと引っ込むと、そのまま左へスライドして入り口となる。
黒衣の人物はその入り口を無言のまま潜り抜け奥へと進む。
その背後では、逆の順序で音もなく壁が閉じると一瞬暗闇に包まれるが、天井に灯りが一斉に灯る。
と、そこは何かの施設の通路と思える作りである様だ。
黒衣の人物はその光景にもなんら感慨を見せる事なく通路を無言のまま歩を進める。
通路を歩く事暫し、通路の突き当たりに到着するのだが、それに構う事なく突き進む。
突き当たりの壁が音もなく奥へ引っ込み、左へとスライドし先程と同じく入り口となる。
それを目の当たりにしても、黒衣の人物は感慨を見せる事はない。
こういった感慨を一切窺わせる事がない事からも、この黒衣の人物はこの施設に何度も来ていると思われる。
通路に開いた入り口を抜けると、幾つもの機材が整然と並ぶ。
その施設は、スーパーコンピューターが設置された場所である様だ。
『お久しぶりです。Master・・・御用件は何でしょうか?』
合成音声特有の金属的な響きを帯びた女性の声が黒衣の人物へと投げ掛けられる。
「挨拶はいい。・・・というゲーム開発メーカーの運営の家族がいる人物とその入院履歴を。」
そう呟くと
『その案件にあたる人物は1人です。Master』
その答えに黒衣の人物が口を挟もうと開きかけた時
『入院病棟にクラッキングが仕掛けられた模様。探査したところ特定人物の機材をクラックする為に仕掛けられたと推測。
クラッキングの発信は現在調査中。
その後、該当人物へ何者かが、クラッキングの内容を元に該当人物へ脅迫した痕跡を関知。』
言葉を遮られた事に怒る様子を見せる事なく、頷きを返し、報告を促す。
『該当人物はその脅迫に屈して、勤め先が運営するゲームに於いてGM権限を用いて、岩動諒一が使うアバター名「ギルファー」のアバターに改造を施した上で、アバター名「ジン」の近くへと転送した模様。』
報告を聴き終わると何かを考えているのか、黒衣の人物は俯いたまま無言で立っているのだった。
無言のまま暫しの時間が流れる。
「その岩動諒一の周囲にある機器のアドレスとアクセスデーター、クラッカーのアクセスの照合を実施。
一致するかどうか照合を。」
と、指示を飛ばす。
『調査を敢行します。・・・SYSTEMに障害発生!障害の大元となったSYSTEM名の精査実行。・・・SYSTEM名『ハイドラ』です。』
「『ハイドラ』だと?・・・摘み取った筈だろ?何故今になって『ハイドラ』が出てくる?」
障害の元となったSYSTEM名を聞いた黒衣の人物は、纏っていた雰囲気を一変させ冷気を纏った雰囲気へと変貌させていた。
『恐らくですが、何者かが岩動諒一の身辺を守る目的で配置したものと推測されます。』
「・・・プログラム『オウル』を使い、SYSTEM『ハイドラ』を潰せ!ペンタゴンだろうがMI6だろうが構うな!全てのSYSTEMを精査し『ハイドラ』の痕跡を全て壊せ!」
『実行します。』
与えられた指示を実行する旨を伝えるSYSTEM音声。
そのやり取りを見るに、両者の間には確固たる信頼関係が見てとれる。
「済まないな?『アルテミス』手間を掛ける。頼んだ。」
『イイエMaster。私は貴方に作られたAIプログラムです。スーパーコンピューターの管理者として作られました。作成目的が二度とあの事件を起こさせない為であったとしても、それに関する案件が出現した以上、目的に則していると判断します。』
『アルテミス』と呼ばれるスーパーコンピューターの管理AIは、黒衣の人物が手ずからつくり上げた物である様だ。
そして、その目的は過去に起きた事件に起因するのであろう。
そして、その事件の根元に『ハイドラ』と呼ばれるSYSTEMがある事だけが一連の話の流れから分かる事だ。
「何か分かったら、クラッキング監視プログラム『水瓶座』を通じて連絡してくれ」
そう呼び掛け、踵を返し黒衣の人物は通路へと進んでいく。
その足取りは確固たるもので、先ほど見せた冷たい雰囲気は感じられない。
黒衣の人物が通路へと消えて、建物の外へと出た事を監視カメラを通じて確認した『アルテミス』の言葉が誰もいない空間に小さく響く。
『Master「ジン」・・・未だにあの悲劇に責任を感じているのですか?・・・『ハイドラ』は私が全て壊しましょう。Master「ジン」貴方の為に・・・』
いらえの返らぬ言葉が小さく響き、機器の合間に消え去り無音の空間へと至る。
無音の空間が闇へと閉ざされ・・・・・・
某国、某国防基地にて
「先輩?システムに進入者です!」
「何処のどいつだ?」
「それが、IDが梟ってなってます!」
「はぁ?梟だとぅ?・・・何で?あの伝説的な対ハッカーの梟が?」
「先輩!!戦略プログラムや施設監視プログラム全部がプロテクトを無視して一方的に精査されてます!!」
「・・・梟を怒らせる事をやった馬鹿野郎が出たのか?」
「先輩!!反応消えました!どうしますか?」
「お前は、このまま監視を続行してくれ。俺は上に報告する。・・・安心しろ!梟が進入したなら、俺達は責任を追求されんから。」
「梟って何者なんですか?」
「何者かは知らん。が、クラッキングを憎みサイバースペースに氾濫するゲームの全てがデスゲーム化しない様に見張っている奴って事だけは確かだよ!」
「はぁ・・・判りました、監視を強化します。」
世界中の各軍事施設でも同様な事が起きた。
その全てで観測されたのは梟のIDを持った何者かがあらゆる防壁を潜り抜けプログラムを精査していったという事実が残った。




