IV「碧ちゃんこそアタイの天使!!」
朝食にいくと、美味しそうなご飯と知らない女の人が一人座っていた。ちなみに赤目さんはいない。その女の人は金髪で長い三つ編み、そして…特攻服を着ていた。私のことは一瞥もせずに下を向いている。
「…おい。」
低く唸るような声。その1音1音に威厳がのっていて、小物なら震え上がるような響きだった。私は__小物じゃない、のか?
「お前が姫か?」
落ち着いているけどどこか恐怖を感じるような声。俯いていて顔が見えないぶん迫力は倍増だ。どんな般若のような顔をしてるか分からない。
「えっと…そうですけど」
「ふぅん…お前は」
その時の出来事を私は描写したくない。彼女が新たな言葉を投げようとした時、…お腹が限界を告げたとだけいっておこう。しかもかなり限界のようで、…それはそれは大きく鳴った。
女性は俯いたまま、でも肩は細切れにぷるぷると震えている。…やばっ、怒らせた。恥ずかしさもあるけどお腹の空きで限界になっている私は今ひとつ頭に危機感も湧かず。…昨日のご飯の量と早朝から運動していたことを考えると仕方ない。…よね?
「えぇっと…すみません。先に食事…いいですか?」
「ぶはっ、いいぜ!!気に入った!たーんと食え!!」
私の声に耐えきれないとばかりに吹き出し顔を上げた女性は、眼帯と隠れていない爛々とした片目が綺麗な人だった。
許可を得たので食卓に着く。今日は特例のようなちんまりした料理もなく、むしろ豪勢な朝食だった。ご飯を主食とした和風な料理はとても彩りもよく美味しそう。うーん、ご飯我慢してたかいがあったなあって心から思った。よし、いただきます。
ご飯を頬張っていると目の前に座る女性が楽しそうに笑いながら私に声をかけてくる。今度は爛々とした瞳を私に向けていた。
「アタイは藤咲練乳。」
「練乳…さん?」
随分と美味しそうな名前。そう思った私の心を読んだのか読まないのか練乳さんはにっと笑って、
「練乳飲むか?」
なんだろう、最初の雰囲気とは全然違って本当に気さくそうな人だなあ…ヤンキーっぽい見た目だけど抜けた表情とかがなんとも馬鹿っぽ…年上にそれはないよね!
「そういえば碧はどうした?てっきり姫ちゃんと来るもんだと思ってたんだけどなあ…」
「碧さんは…えっと、朝からトレーニング一緒にしていたんですが、もう少しやっていくと…」
練乳さんの疑問に碧さんのことを回想しながら答えると、練乳さんはああ、と少し納得した声を漏らした。その表情は優しく緩んでいた。
「碧は負けず嫌いだからな…ハイスペックらしい姫ちゃんみたらそうもなるか…全く。」
ボソリと呟く声。練乳さんの発言のようだが小さくてよく聞こえない。疑問符を浮かべていると練乳さんはもう1度にかっ、とわらい、話題を移したようだった。
「そろそろ桜も来る頃だけど…んー。また仕事に追われてるのか…?」
「桜…?」
「ああ、紅知ってるだろ?紅の妹だ!!知的で優しい可愛い子だぞ!碧ちゃんの次にな!」
そういうと何故か自慢げに胸を張る練乳さん。まるで自分のことのよう。
「碧さんの次なんですか?」
「ああ、碧ちゃんの次だ!碧ちゃんはアタイの天使だからな!!!」
そうですか。と言おうとした時、ドアが開く音がした。ドアの方を見ると、可愛らしい女の子が立っていた。ふわふわの茶髪、伊達のようにも見えるふとぶち眼鏡が印象的だった。
「お?桜じゃねーか、おはよう!」
練乳さんが明るい声を上げる。この人がかの噂の桜さんか。美少女は大きく真っ直ぐな瞳を私に向けて、そして微笑んだ。可愛い…。
「姫ちゃん、だよねえ?」
「えっと、はい…」
私の返答に更に花が開くような笑顔になったあと、美少女は再び口を開いた。
「このどこのメスブタとも知れないむのーやろー、一昨日来やがれっ♪」
私は固まった。




