Ⅳ「碧さんって…もしかして…」
「おはようございますです。」
ゆさゆさ。
「起きてくださいですよぉ。」
ゆさゆさ。ゆさゆさゆさ。
「起きろって言ってるのよ殺すわよ」
殺気を感じて起きる。枕元には碧さんが既に身だしなみを整えたようないつもの服で座っていた。寝ぼけ眼で時計をみるとAM3:35を指している。…まだ深夜だ。寝付いてから3時間くらいしか経っていない。はるか向こうにいる赤目さんものどかにねているし。…いや、一応暗殺者がこんな無防備でいいのかな…?
「…あの、まだ深夜だし睡眠時間足りないです…」
「なにをいっているのです?ちゃーんと8時間睡眠ですよ?」
…。この人遅くとも7時30分までには寝付いてると思ってるの…?実際碧さんは確かに普通にしっかり寝ている雰囲気だけど、生活リズムを一気に合わせるなんてできるわけ…。
「…大体、こんな早くから起きて何するんですか……?もっと寝かせてください…」
「早起きは美貌の秘訣です。これからするのは決まってますです。ジョギングですよっ」
「ジョギングゥ!?」
こんな早朝から…?彼女はにっこり笑うと私にジャージを渡し出ていってしまった。私は瞬きで目を覚まそうとしながら遠くで無防備に眠る番犬全滅させることもできるらしい大男の方を見た。
「……………赤目さん」
「…………………」
反応はない ただの屍のようだ▼
「…………」
私は黙って傍にかけてある赤目さんのコートにペンで落書きをしたあと、身支度を整えて外へ出た。…ああ、まだ外は真っ暗だ。
「さて、走りますですよ」
シンプルなジャージに身をつつみ髪をポニーテールに束ねにっこり笑顔の碧さん。可愛い顔した鬼コーチであることは簡単に想像できた。…眠い…このままじゃ倒れかねない。
「あの、お手柔らかに…」
「今日は5キロ走りますです!」
「5キロ?」
にっこりな碧さんの笑顔には手加減するような優しさは見えないけれど…正直拍子抜けした。凄く良心的な距離だと思う。というかかなり優しい。体力バカな上に女子への気遣い皆無などっかの赤目さんの修行の場合平気で数十キロ走らされるし、優しい他のメンバーですら10数キロは走らせる。それに比べるとだいぶ短いのだ。…もしかして、体力がないとひ弱な女子だと思われてるのかな…?
「あの、碧さん…」
「どうしました?できないってのはダメですよお?」
「いや、そうじゃなくて、あの…私もっと長くても大丈夫ですよ?」
「……………………。」
一瞬碧さんの笑顔が凍りついた気がした。
「様子見に決まってるじゃないですか!いーのです、今日の碧は優しいのです!」
走り出して気づいたことがある。碧さんの走る速度は…少し、いや…だいぶ、うん…かなり、遅い。歩いた方が早いんじゃないかってくらい。頑張って走ってるのはわかるし、一般の人からすれば平均より少し遅い、くらいだとは思うのだけど、暗殺者として心配になるくらいに遅かった。
「あの…大丈夫ですか…??」
「もんだいない…わ…はぁっ…はぁっ…ぜぇ…」
走るトレーニング以外にも様々なトレーニングをしてみたけれど、全体的に碧さんの能力は低い。碧さんは…もしかして……すっごく失礼ながら、…運動音痴なんだろう、と思った。日が昇る頃には、私がある程度の疲労を感じ、碧さんが大丈夫か心配になるくらいの状態になっていた。
「……貴方はもう朝食に行きなさい。出来てると思うから」
「…碧さんは…?」
「私は………もう少しやっていくわ」
すっかり余裕のない様子の碧さんは、ぷいっと顔を背け、またトレーニングをしにいってしまった。…少しふらついてるみたいだけど…大丈夫かな…?




