番外「壊れかけの光と温かな」2
数日後、柚月の案内で車を走らせ、着いた先はお世辞にも綺麗とは呼べない古めの一軒家だった。元はそれなりに邸宅であっただろうに、今では古びた印象しか感じさせない。単純に年月、というよりは手入れの問題だろう。雑草は荒れ放題でペンキは剥がれ落ちている。
「…あの、ごめんなさい。家の中は頑張っているんですけど、どうしても私では外装まで手が回らなくて…」
恐る恐る自分の反応を伺っていた彼女が申し訳なさげに頭を下げた。そんな彼女の小さな頭に何も言わずにぽん、と手を乗せてみる。びくっと一瞬反応したあとぽふっとでも音がしそうなほど分かりやすく真っ赤になる。面白い。車で話しているうちに気づいたことだが、この子は家の仕事におわれていたせいか、弟以外の男との関わりが皆無に等しいらしい。なのでかなり緊張している様子。ついからかってしまうのは仕方ない。
「大丈夫や。オレ、日曜大工もこなせるんやで?」
「そうなん…ですか…。えっとえっと、じゃあ中にお入りください…!」
鍵の施錠をはずすと、中に招き入れられる。外観の印象とはうって変わり、多少古い印象はあるもののしっかりと整備された綺麗で落ち着いた玄関だった。
「ひと部屋空き部屋を整備しておきました。こちらになります…!」
緊張気味の彼女に案内されて家の中へ進む。家は一般家庭にしては広めで飽き部屋も結構ある様子。
「結構広いんやな。3人暮らしの部屋数ではあらへんよなあ。」
「ああ、はい。元々結構家族がいたので…今じゃ3人しか住んでないし、持て余しちゃっていますが…」
「そーかー。」
会話が盛り上がらない。無言の時間が落ちる。関西のノリで絡もうにも彼女はどこか距離を置くタイプの少女なのだ。最低限の会話をすると黙りこくって下を向いてしまう。
「なあ、柚月さん。」
「はいっ、なんでしょう!?」
少し距離が近づいただけで過剰に驚くあたりからも緊張具合は見て取れる。
「ちょいと聞きたいんやけど…」
「アンタが家政夫か」
「え?あ、はい!……ってお祖母ちゃん!?」
「え!?」
後ろを振り向くと腰の曲がった小柄なお婆さんが訝しげに自分のことを眺めている。…この家族は警戒心が強い一家なのかもしれない。
「あー、えっと、始めまして。山田黒と申します。本日より住み込みで家政夫として働かせていただきます。」
「なんか犬っぽい名前をしてるんだねえ。」
「い、犬…」
「ちょっとお祖母ちゃん…!ご、ごめんなさい黒さん。お祖母ちゃん思ったことを素直に言ってしまうんです…!」
柚月が申し訳無さそうに謝ってくるが、全然フォローになっていない。…オレの名前、犬の名前だと思われていたのか…。なんともいえない気分で愛想笑いをするとお祖母さんはまたじっとこちらを見ている。
「アンタ、柚月にイタズラすんじゃないぞ」
「え!?いや、お嬢さんにそのようなことするつもりなど滅相もございません…!」
「くれぐれも、だからな。」
「…はい。」
お祖母さんは瞳を細めるとゆっくりと踵を返した。…なんだったんだろう。…まあ、確かに柚月という若い孫の生活空間に見知らぬ男が入ってくるんだからそうなる、のか…。そんな危ない男に見えたのだろうか。なんとなく腑に落ちない気分でおばあさんを見送った。
「あの、黒さん。」
「どしたん?柚月さん。」
と、柚月が珍しく控えめに声をかけてくる。どこか興奮したように目をまんまるにしている。
「黒さんって、関西の方なのに敬語、使えるんですね…!」
「当たり前や。むしろ関西人をなんだと思ってるんや!」
軽く突っ込みを入れようと彼女のおでこを弱い力で弾こうとデコピンの姿勢をとってみる。彼女は少しびくっとしたあと、「びっくりしたじゃないですかぁ…!」と頬をふくらませる。
少し打ち解けたような気がした。




