番外「壊れかけの光と温かな」1
番外シリーズです。
黒、そして依頼人の少女、柚月メインのお話となります。
「ふぅー。赤目さんに当てることができたし、やっと訓練漬けからも解放ですー!!」
ある昼頃、オレ、こと黒はとある仕事をこなしていた。いわゆるカフェ業。夜はバーとして経営しているこの店は、街の雑踏の隅にこぢんまりとそびえているビルの一角にある。普通のお店を装っているから普通の客の相手が主な業務。一部の人々の間では、割と美形が揃っている店員や殺風景な建物に反する小洒落た内観で話題にはなっているようだ。
しかし…勿論このカフェの目的はこちらだ。暗殺を依頼する客の窓口。
「いらっしゃいませー!ご注文どーぞ!」
「……紅薔薇の、アップルパイを一つ。」
その日のお客様は、高校生程の年頃の少女だった。
しばらくそわそわと落ち着かない様子で周りを見ていた少女に一緒に応対を担当していた姫がコーヒーを少女に出した。
「どうぞ!」
「あ…ありがとう、ございます…」
少女は緊張した様子で受け取ったが、その後もしばらく飲もうとはしない。じっとコーヒーを覗きこんでいる。
「…あー。毒、入ってないで?」
「は、はい!すみませんっ」
びくっとした様子でコーヒーを飲みほす少女。でも気管に入ったようでむせたような咳をしていた。
「大丈夫や?」
「は、はいっ…大丈夫です…!」
「んー…それじゃあ、依頼、なんやけど」
そう言って話を出すと、少女は少し戸惑ったように視線を落とす。
「……あのー」
「…弟を…殺してください…っ」
椎名柚月。17歳。現在高校2年生。彼女は家庭内暴力を弟から受けている。姫に傷を確認してもらったが、相当悲惨なものらしく、あざどころではない傷があちこちに残っていたようだ。
「…私の弟は、ひどく暴力的で、我儘で、暴君で…。どんな時も暴力を振るってきます。ストレス発散、ご飯を作るのが3分遅れた、洗濯物が干してあっても乾いていなかった…とか、そういう理由で。」
「…お父さんと、お母さんは?」
「祖母と3人暮らしなんです。父も暴力を振るう人でしたが、3年前他の女の人に浮気をしてそのまま家を出て行きました。母は…その数カ月後に、自殺しました。」
…ああ。少女は。もう助けを求める場所がないのだ。助けて、って言いたくても言える場所がない…いつかの自分のように。
「祖母は気性の荒い弟にすっかり怯えきっています。きっとこのままだと私も祖母も…殺されます。…周りの人も傷つけてしまうでしょう。…私にはもうこれしか…!」
「…柚月さん…」
姫は震える柚月の肩を撫でながらじっと訴えるように自分を見てくる。
「…私、今までのお小遣いやお年玉を全部持ってきました!少ないかもしれませんが、足りないぶんはバイトしてでも払いますから…!」
彼女の差し出した封筒には、11万と8,425円。多分すべてのお小遣いをもってきたんであろう年季の入ったものだった。
「……あんな。殺人の依頼を、しかも自分の肉親の殺人を依頼したっちゅー事実はな、それで例え柚月さんの弟はんを殺して、日常戻ったあとにも、残ってしまうんやで。柚月さんの心ん中で、消えない傷、罪として。」
「…!!」
「白さん、そんな酷なこと…!」
「ひめのんは黙っとき。」
「でも…!!」
「ほんでな、一つ提案や。その金で家政夫をやとってみたりせーへんか?」
「え…?」
苦しそうに口をつぐみ、下を向いた少女が自分の言葉に驚いたように顔を上げた。
「オレが護ったんで。弟はんを更生したるさかい、安心しーや。やから、殺すなんて物騒な考えは一旦置いとき。」
まぁ、人のことを言えないんだけど。そんなツッコミを心の中でしながら、少女に微笑みかけてみた。
☆
「おーまーえーなあああ??なんなの?いつの間に家政夫に転職したわけ?死ぬの?何勝手に変な仕事に変えた挙句こっちに通さずにお前が引き受けてるわけ?こんなの仕事に認めないけど?バカなの?死ぬの?むしろ○ね!」
「す…すんません…」
勿論勝手に決めたわけだから、案の定壱に叱られる。1時間ほど小言を受けてるため、そろそろ正座する足が痛い。
「はぁ…もーいーよ。これから一ヶ月程新規依頼引き受け禁止!むしろ一ヶ月戻ってくんな!」
一瞬どういうことかわからず、フリーズする。新規依頼引き受け禁止…戻ってくるな…少し考えて、気づいた。
「住み込みで少女の家政夫をしてこい」
つまりはそういうことだ。不機嫌そうな表情は相変わらずだが、その耳は少し赤くなっている。
「…やるんなら、しっかり守れよ。」
「…勿論や!!」
ようは、悲しい瞳の、壊れかけの彼女を救いたかったのだ。きっと、かつての自分と重ねて。




