参『女心』
「…」
姫の部屋に一人佇む。当然のように静まり返っていて、まだ装飾品も何もないこの部屋は寂しさを漂わせていた。自分と殆ど同じ間取りなのに、やけに広く思えた。きっと少女にはもっと広く感じるはずで。
「おにいちゃんもお父さんもお母さんも大好きだよ。」
潜入時に入ってみたあそこの家庭は、幸せな家庭そのものだった。依頼の存在さえ、兄を殺す必要があったという事実さえなければ壊したくなかった温かい家族。その家族を引き裂いたのは紛れもない自分。しかしそれを後悔はしないし、してはいけない。だって自分はそういう仕事についてしまったのだから。
彼女をそうして不幸にしてしまったのだからこそ、彼女を守ることで償うしかないのだ。しかし明らかに自分の言動によって再び傷つけてしまったのだろう。やってしまった。と後悔。だというのにどの言動で少女を傷つけてしまったのかが今ひとつわからない。
「なーにやってんの、赤目さん?」
からかい口調で後ろから声がかかる。振り向くと、にやにや笑いの禅がドアにもたれかかっていた。
「ドア開いてるから姫ちゃんてば無防備〜って覗きこもうとしてみればまさかの天がいるなんて!もしや襲いかかろうとして逃げられた〜?」
ひゅー赤目さんってば手が早い〜とおどけたようにいってけたけた笑う禅。…赤目さんってからかってるなこいつ。
「うるせぇな…」
「振られたショックは強いと思うけどほら深呼吸〜。落ち着こ?」
「だから振られてねえって…多分」
別に告白したわけでもないのだからと言おうとしてでも状況的にはあながち間違っていないことを思い出し曖昧な返答になる。と、禅がますますにやにやしだすのでなんか無性に腹が立った。
「まあ、女心ってやつをちゃんと学びなよ?」
「は?」
「無断で女の子の部屋入ってしかも弱っているタイミングで後ろにいるとか」
否定できなかった。そういうことかと納得。いわれてみれば男ばかりの空間だからあまり今まで気にしたことがなかったが確かにそれは嫌かもしれない。姫を怒らせてしまったことがなおさら申し訳なくなった。…というか。
「いつから見ていたんだよ…」
「んー、ちょっと前?」
絶対嘘だ。




