弐『拒絶』
「オマエアホなの?死ぬの?ほんと信じらんないんですけど。前代未聞!わかる?初めてここまでの阿呆を見た気がするんだけど?本当最悪。マジなんなの、7年前のターゲットが生きてても気付かず?それどころかその妹にバッチリ気づかれて普通に騙されかけましたとか、死ぬの?」
壱による罵倒を、雛を届けたあとに正座になって、延々と聞き続ける。こういう時の壱は本当に恐ろしい。片手に愛用の刀がおいてある。下手するとここで消されかねない。こういう壱の表情は本当に険悪で、普段の様子は戯れなんだなあと改めて感じた。
これは、本当に、異常事態だったのだ。今までにない、レベルの。だからこそ、彼は本気で怒っているのはわかる。彼は少し唇を噛んでいた。怒りのあまりか、プルプル震えている。
「……この失敗がもし、公開されたら。…責任を取るのは、菊なんだぞ。…菊が、罰せられる。今度は菊が、狙われる番に、なるかもしれない。……そしたら、ボクが私情で初めて手をかけるのは、オマエになるだろう。」
ひやりとした、冷たい殺気。俯いてしまった彼からは表情は伺えない。ただ、常人ではありえないであろう洗練された気配のみが、自分を包んでいた。
壱は菊に、ただならぬ恩義を感じているようだ。忠誠心、尊敬。少なくとも、きっと彼ならば。もし、本当に菊が自分のせいで処罰を受けることになったなら、きっと彼は本気でこちらを狙うだろう。…そう思わせるだけの気迫があった。
「…菊を、矢面に立たせるな。バレないように跡始末をするように。…分かったな。」
冷たくそう言い放つと、説教を締めくくる壱。不貞腐れたような表情で、頬杖をついて何かを考えはじめている。早く出ないと、手に持ち続けている刀で斬られてしまいそうな気がして、黙って外へ出た。
「………はぁ」
自室に戻る。どっと疲れた。ベットに座ると、はりついたように動けなかった。隣の部屋の声が漏れ聞こえる。禅の声と、少女の声。その声がきこえたと同時だっただろう。
俺は、睡魔に負けて眠りに落ちていた。
目が覚めると、静まりかえっていた。隣の部屋の談笑は終わったらしい。…しかし、なんとなく、気になってしまう。気づけば勝手に部屋に入ってしまった。姫は空をじっと見つめている。悲しげに。具合でも、悪いのか…それとも…
『妹ちゃんを、守りたいのよねえ?それならぜひ、こっちにいらっしゃい。』
『…既に人殺しの君が僕達を化けもの扱い出来るわけ?』
「…おにいちゃん………」
俺に黙っていろと発言し、度胸がある、そんな彼女が、すごく小さく、弱いもののように見えた。今にも消えてしまいそうな程儚い。
「…姫。」
「ひゃあ!?」
声をかけると驚いた様子の姫。さっきとは打って変わった表情。
「いつからいたんですか!」
そういって噛みつく姫の頬に、涙の跡が残っているのを見て、更に心配がつのる。こたえてはみたものの、少しいたたまれなかった。
「大丈夫か」
そういって聞いてみても、彼女は素直には応えてくれなかった。
「赤目さんに心配されるようなことはないですってば」
笑顔。苦笑交じりの。とても痛々しい。俺には、相談など、してくれないだろう。それは、俺が、彼女の平和を壊した張本人だから。怖がらないでほしい。怯えないでほしい。俺はなにもしない。無理しないでほしい。何故?…もしかしたら、ずっと前から守りたいと思いつづけている、妹ににていたのかもしれない。
姫は急に走り出した。追おうとおもったが、案外速い姫の背中は、ついてくんなと俺を拒絶している様に思えた。
誰か壱菊をください。




