5th episode-2
ュンッ!!
と、空を切り裂く音を曳きながら、口径六百ミリにも及ぶ巨弾が、迅雷の速さで飛翔した。
通り道にある白い綿菓子のような雲を貫いて消し去り、それが都合十六発。巨大な黒い山に吸い込まれた。
表面に次々と爆炎が灯った。雲を吹き散らし、次いで衝撃波が広がっていく。
大気が鳴動し、腹に響く重低音が味方を揺らす。
黒い威容の巨山は、その強大な破壊力によって表面を抉られた。金属が軋む、悲鳴のような音が響く。
そこへ向けて、魔導の力を以て飛翔する翼を備えた流線型が十数機。
金属製の流線型ボディから伸びる鋼の翼は四枚。風を切って飛ぶ。 飛竜に乗った竜騎士達を従えて飛ぶ、この最新型戦闘航空機は、“論理魔導機関”と“精霊炉”の併用により、魔法の才覚が無くとも運用できるようになっている。
しかも、“精霊炉”は高出力で制御の難しい火精霊型である。
それを機動力と火力に振り分けたこの戦闘航空機は、重火力重装甲、そして高機動を両立させた強力な兵器だ。騎士軍の自信も相当なものである。
さらにその下、大地を走る装甲戦車も最新鋭。箱形の胴体の左右に、側端が爪状になった金属プレートを並べて繋げたベルト状の移動装置。胴体の上には前方を睨む太い筒が取り付けられた小さめの箱がある。
大地を抉るようにして爪を立てながらベルトが回り、鋼鉄の塊が疾走する。こちらも“論理魔導機関”と“精霊炉”の併用型。
安定稼働型の地精霊の力によりその装甲防御力も高まった戦車の偉容は逞しく、随伴する装甲歩兵と銃騎兵の士気も高い。
その後方から続くのは、右腕がまるごと砲となっている全高八メートルほどの鋼鉄の人型。
その横を、大小の鉄箱を重ねたような胴体からダチョウの足のような機械脚を生やしたモノが走り抜けていく。
そして人型の背後には、四本足を生やした大砲が、ゆっくり前進してくる。
魔導鉄鋼巨兵。
“論理魔導機関”に“精霊炉”、そして錬金巨兵精製技術とメタリカの機械技術をミックスした強力な兵器だ。
さすがに専門の魔導士でなければ動かせないが、その戦力は魔導戦車数台ほどにも達し、“月の魔導”を持たない者達にとっては、最大の兵器と言えるだろう。
それらの兵器と、発動機のような小型論理魔導機関を背負った不格好なブリキ人形のような魔装甲冑と呼ばれる身体強化鎧を身に纏った騎士軍兵士達が、ダスクメタリカの前線基地とも言える“出島”へ向けて進軍していく。
さらには機械技術の恩恵を受けた兵器のみならず、鷲獅子や陸竜、五メートルほどの上背を持つ巨人、普通のゴーレムの部隊。また、人形のようなメタリカの機械兵達も新鋭兵器群と共に進む。
総勢二万。
ローザリア王国首都を守るべくして集められた、最精鋭最新鋭の軍勢。それが、侵略者たるダスクメタリカを打ち破るべく、その槍を進めたのだ。
その行く手にある“出島”が、その姿を、大きく膨らませる。否、“出島”の表面が次々と分離し、その姿を変えていく。
二メートルほどの飛び魚のような黒い金属塊が次々に飛び立ち、カメラのような赤い単眼を光らせた。
地上では、五メートル四方の四角い体に蟹のような六本足の黒い金属塊が、その足をガシャガシャ動かしながら進み始める。さらにその周りを頭の代わりに鋭い衝角を備えた黒い金属製の蟻が走る。
“出島”とは、ソレ自体がダスクメタリカの集合体であったのだ。
「……なんという」
その光景を目の当たりにした将軍は、掻いた汗を拭うことも忘れて呟いた。
見ている目の前で、“出島”から巨大なエイのような要塞爆撃型に、同じくらいの大きさのヒトデのような空中制圧型が次々に分離して飛び立っていく。
向こうに見える銀海からも百メートルはある対地駆逐艦が浮上し始め、その黒い偉容を見せ始めた。
さらに“出島”麓付近から大きな塊が分離し、巨大なカニ足を伸ばして歩き始めた。高さ三十メートルほどのそれは、ヤドカリのような姿をしている。
ダスクメタリカの地上移動要塞型だ。
それが次々に進撃し始めた。
“出島”は当初の半分ほどの大きさとなったが、出現したダスクメタリカの数は数えきれないほどだ。
その事実に将軍は奥歯よ砕けろと言わんばかりに噛み締める。
「……ひるむな! 攻撃を開始せよ!」
その号令を契機に、ローザリア騎士軍は、ダスクメタリカの群勢に向けて攻撃を始めた。
魔導戦闘機の機首の目の前に、魔法陣が顕れ、長さ二メートルの炎槍が四本出現し、撃ち出された。
総計が六十を越えるソレが、赤いひとつ目の飛び魚へと襲いかかった。
飛び魚どもは素早く分散して攻撃を躱そうとする。が、炎槍は猟犬のごとく飛び魚を追跡し始めた。
逃げる飛び魚を猟犬に任せ、魔導戦闘機が飛び魚へと襲いかかった。
機首に埋め込まれた十二.七ミリの機関銃四基が火を吹く。
魔法文字を転写された機関銃の弾が次々に飛び魚に襲いかかる。
しかし、銃弾はあっさりと黒い表面に火花を散らしてはじかれた。が、それが二秒続いた辺りで飛び魚が火を吹いた。
絶え間なく撃ち込まれた魔法強化弾によって装甲を砕かれたのだ。
通常兵器の攻撃が、まるで通じなかった頃に比べれば大きな進歩だ。
それをきっかけとしたか、同胞を破壊されて怒ったか、数十体の飛び魚の赤いひとつ目が光り、真っ赤な破壊光線が撃ち出された。
それを魔導戦闘機は身軽な挙動で避ける。
だが、数が違いすぎる。避けきれぬ火線の多さに、魔導戦闘機が撃ち抜かれ……無い。
機体の正面に展開された魔法障壁が、赤色光線を弾いたからだ。
最新鋭故の防御機能。しかしそれとて強度は低く、回数も使えない。魔女達の使う防御魔法とは根本的な差がある。が、まったく防御できなかった頃に比べれば、格段に進んでいる。
魔導戦闘機は、ダスクメタリカに対抗できるのだ。
そのことが、周囲の士気を盛り上げた。
魔導戦闘機以外の空中戦力である飛竜に乗った竜騎士も、飛行能力に優れた鷲獅子に跨がった戦士も、我こそはと飛び魚へと突っ込んでいく。
右手に抱えたランスを向け、内部のトリガーを引けば、ランスの先端が爆炎を曳きながら発射される。対装甲目標用の爆射槍だ。
その直撃を受けた飛び魚が爆発に巻き込まれて砕け散る。
喝采をあげる竜騎士。だが、次の瞬間、四方から赤い光線が騎士と竜を貫いて主従を絶命させた。それに対して、仲間の竜騎士が飛竜に炎を吐かせて反撃する。横を駆け抜けるように鷲獅子が飛翔し、飛び魚へと肉薄。その爪を突き立てる! 金属製の黒いボディはわずかに傷ついただけであったが、バランスを崩した飛び魚がふらつくのを尻目に離脱。入れ替わりに飛竜の吐いた炎の吐息が飛び魚を包んだ。
曲がりなりにも竜の眷属の放つ炎の吐息だ。その威力は強化された炎槍に匹敵する。
その炎にあぶられて、飛び魚は爆発した。
「ざまあっ!」
鷲獅子にまたがった戦士がそれを確認して声をあげた。
次の瞬間。
戦士の上半身と鷲獅子の頭と翼が消し飛んだ。
極太の赤い光線に薙ぎ払われて消失したのだ。
その光線は、飛竜をも飲み込んで切り裂き、魔導戦闘機の張った防御障壁すら貫いてこれを撃墜した。
姿を表すのは巨大な黒い星形のヒトデだ。その中央には長い髪の女のレリーフ。その瞳が、ギョロリと周囲を見やった。
すると、星形の五つの頂点から赤い光が放たれる。
飛び魚が放つものとは比べ物にならない太さの赤色破壊光線。樹齢千年にもなる樹木の幹に匹敵する太さのソレが、まるで破壊の剣のように振り回された。
たちまちの内に十を越える数の飛竜や鷲獅子が灼き尽くされ、魔導戦闘機が二機、翼や胴体を薙ぎ払われて爆散した。
空中制圧型中型ダスクメタリカ。全長百メートルにもなる巨大な黒いヒトデは、空を破壊の光で制圧する。
これを倒さなければ、制空権は握れない。
それを察してか、魔導戦闘機達が空中制圧型に殺到していく。
そんな空の死闘に負けず劣らず、大地を行く者達の戦いも、また激しかった。




