5th episode-1
『それで? 勝てるのだろうな将軍』
「お任せください! 最精鋭たる騎士軍の誇りに掛けて、あの化け物どもを駆逐してごらんにいれましょう!」
ゴツい甲冑に身を包んだ髭の男が、最新鋭装備である魔導通信機に返す。ローザリア全軍を見てもいまだに百に満たない数しか配備されていない通信機を、贅沢に十セットも揃えている辺り、騎士軍の装備充実度が見てとれた。
場所はローザリア北東部。大陸西方に位置するローザリアから見て銀海に面する最前線の一角である。
そこには、異形の破壊者たるダスクメタリカの前線基地、通称“出島”が存在している。
これと同じものがローザリア南東部にも存在し、後ひとつ、正三角形を描くように出島が作られてしまえば、ローザリアの国土が瞬く間に銀海に飲まれてしまう。
それを阻止するべく、騎士軍は全戦力、約二万の軍勢をもってここ、北東部の出島に対峙していた。
国の守りを魔女に頼りきっているという現状に思うところがないではない。だがそれ以上に、得体の知れない化け物どもに国土を踏み荒らされる事は我慢がなら無かった。
騎士軍には、現在ローザリアでもっともダスクメタリカに対抗できるであろう兵器が集められている。
最新鋭の装甲魔導戦車。巨弾を撃ち出す長距離砲撃用の大砲。まだ数十機も作られていない新型魔導戦闘機。そして切り札とも言うべき魔導鉄鋼巨兵。
“論理魔導機関”が開発されて二十年。最大稼働させられるのは“月の魔瞳”を持つ魔女ではあるが、技術の向上によって一般の魔導士でもある程度安定稼働させられるようになった。
また、ゴーレムと、メタリカの機械技術を融合した鉄鋼巨兵は、強大な戦闘能力を発揮する。
これだけの戦力を揃えた精鋭である騎士軍に、負ける要素など有りはしなかった。
「よし! 全軍に通達! 前進せよ! 我らがローザリアの地を踏み荒らした化け物どもを駆逐するのだ!」
将軍の号令に、騎士軍が動き始めた。
小さな一軒家ほどあろうかという賓客向けの部屋に、無数のステンドグラスが乱舞していた。
中央であぐらを掻きながらそれらを眺めるのは、この部屋を宛がわれた金髪碧眼の異世界人少女、シルヴィアである。
魔法を習い始めて約二週間。基本的な部分を習得した勇樹たちは、それぞれに興味のある法理を集中的に習熟していっている。勇樹は、論理魔法が合わず、精霊に嫌われ気味なために召喚魔法を、悠真は精霊達との相性の良さから精霊魔法を集中して習っていた。
そしてシルヴィアは精霊との相性も悪くはないものの、論理魔法に強く興味を持ち、その知識と技術を貪欲に吸収していった。元から天才肌であった彼女はこれに関しても適性を見せ、いまやリューナに追い付かん勢いである。そんな彼女は現在、自分なりに魔法を組み上げるのに夢中であった。
元々こういった思考作業が好きなだけあり、集中しているときは勇樹の声すら届かない。
無数のステンドグラスを組み上げてはバラし、バラしては組み上げるという作業を繰り返している。
そんな彼女を、扉のところから寂しそうに見つめる影があった。
悠真だ。
彼女にとって仲の良い義姉であるシルヴィアが、構ってくれないことに寂しさを感じているのだ。
「お義姉ちゃん忙しそう……」
「シルビーはああなると周りが目に入らなくなるからね。キリの良いところまで進めば落ち着くよ」
そんな悠真に声を掛け頭を撫でるのは、悠真の義兄である勇樹だ。シルヴィアとの付き合い=年齢な彼にして見ればこういったことはよく合ったことなので特に心配はしていない。
寝食を忘れ始めるようなら小突いてやる必要があるが。
「僕たちは僕たちの訓練をやっておこう」
「……うん」
勇樹の言葉にうなずいて、悠真は後ろ髪を引かれながらその場を離れた。
一方勇樹と悠真の行っている訓練は、訓練用論理魔導機関の稼働と、“戦脚”と呼ばれる装備の運用レクチャーである。
魔法の講義の際に、シルヴィアが魔女達が履いている“戦脚”に興味を示したのが発端だ。
“論理魔導機関”は、機械的に魔導を補助するもので、魔導士や魔女が稼働させることでその魔力供給量を数倍に跳ね上げてくれる。さらに魔法の効果を高める魔導式を組み込まれており、使用する者の魔法を強化する。
小型種はともかくとして魔力に対して耐性を発揮する中型、大型のダスクメタリカ相手にはこれで強化しなければどんな魔法も効果は薄くなる。
強大な魔法を操る伝説級の魔導士や魔女ならば話は別だが。
さらに“戦脚”は、対応する地形において、強力な機動性を装備者に与えてくれる。
“空戦脚”なら、自在に空を舞い、“海戦脚”なら海を走り、“陸戦脚”ならどんな地形も乗り越える。
およそ人の足では不可能な機動力を与えてくれる。それが“戦脚”だ。
“空戦脚”、“海戦脚”はそれぞれ適性を必要とするが、“陸戦脚”にはそれが無い。
そのため、空や海はエリート意識が強くなりがちになる。
特に“空戦脚”を使うのに必要な飛行適性の能力は稀少であるため、“空戦脚”の使用者に選ばれることは名誉だとされているほどだ。
また、飛行適性ほどではないものの、“海戦脚”運用に必要な反発フィールド展開能力の所持者もやはり珍しい。
特に強力なフィールドが展開できる者は、銀海に潜っても平気なほどで、侮れない。
上記の二つの能力が無い、あるいは持っていても効果が弱い場合、“陸戦脚”を宛がわれる。これが、陸戦組を下とする傾向に拍車を掛けているのは間違いないだろう。
勇樹たち三人の適性は、まず、シルヴィアが高い空戦適性を見せた。反対に反発フィールドは全く展開できず、試しに湖に出たところあっさり沈んだ。
しかもその際にカナヅチであることが判明した。天才肌ではあっても十全とはいかないようだ。
悠真は、空戦適性無し。しかし反発フィールドの方はかなり強力なフィールドを展開できた。その事に悠真自身はひどく驚いていたが。
そして勇樹だが、双方の適性があることは確認された。が、実用に耐えられるほど強いわけでは無く、最終的には“陸戦脚”が推された。
勇樹自身も特にこだわること無くそれを受け入れていた。
今は“陸戦脚”を履き、“論理魔導機関”を背負って、動かすところまでやっていた。
その様子を、一人の少女が複雑そうに見ていた。
レアリーだ。彼女自身は勇樹たちが戦力に数えられる展開は望んでいない。だが、彼らの自衛のためにと、不承不承魔法を学ぶことに賛意した。
が、“戦脚”まで使わせるとは思わなかった。
「……なんで急ぐのかしら?」
レアリーには疑問だった。百歩譲って魔法による自衛は分かる。魔法に対する理解がなければ対処は難しいからだ。
だが、“戦脚”や“論理魔導機関”を使わせるとなれば話は別だ。
そこまでいくと、自衛では済まなくなる。
「……何を焦っているの? ネイ」
レアリーは友を思い、ひとりごちた。




