4th episode-11
「精霊の方でフォローしてくれてますね。悠真さんみたいに精霊に好かれている方にはよくあることです」
構成式を作り上げた悠真を見て、リューナが微笑みながら言う。
「うし、こっちもやるぞ!」
「そうだね」
舌なめずりをして気合いを入れたシルヴィアの言葉に、勇樹もうなずいた。
そして程なく風属性の構成式を三人とも編み上げた。
「出来るもんだな~」
「うん」
自分が編んだ構成式を眺めてシルヴィアが呟くと、勇樹が同意した。
リューナが三人の式をひとつひとつチェックしてうなずいていく。
「だいたい大丈夫ですね。細かいことを言ってしまうと、まだまだですけど」
リューナの下した評価に、勇樹は軽くうなずく。
「そうなんだ。あ、リュ……ファンタ講師」
「はい?」
「僕らは魔法文字を知らないのに、なんで構成式を編めたのかな?」
勇樹が不思議そうに訊ねた。
リューナがその質問に嬉しそうな顔になった。
「よく気付かれましたね? ユーキさん。おっしゃる通り、三人とも魔法文字を覚えているわけではありません。ですが、構成式を編むには概念化のプロセスだけが重要で、魔法文字を知っているかどうかは関係ないんです」
「つまり?」
「構成式をきちんとイメージ出来、魔力を集中させて構築できるかどうかだけが重要なんです。最初に三人に構成式をご覧にいれましたよね? 実はあれで、三人とも構成式の参考イメージを得てるんです」
言われてアッとなる勇樹達。確かに、見せてもらった構成概念をイメージの参考にしたからだ。
「概念がイメージできれば式の構成は割りとなんとかなるんです。そして構成式を編めば、魔法文字は自動的に生成されます。アレはイメージの産物ですので」
リューナの説明に、勇樹達は感心したようにうなずいた。
まさか構成式を見せたことにそんな意味があるとは思わなかったのだ。
「……なるほど、たいした先生だね」
「まったくだぜ」
苦笑する勇樹にシルヴィアが同意した。悠真などは呆気にとられたままである。
そんな三人を見てリューナは苦笑した。
「感心されているところ申し訳ないんですが実はこれ、魔法を教える授業などで取り入れられている手法なんですよ。魔女をはじめとした魔法使いは大抵これで習ってるんです」
ですから私が考えた手法と言うわけでは無いんです。と苦笑いのまま締める。
しかしである。
リューナの歳は勇樹達と変わらぬ程度。それで魔法を教える教師と同じように教えることが出来るという事は、彼女の魔法に対する理解は、教師などと遜色無いレベルであると言える。
素直な悠真はともかくとして、勇樹とシルヴィアはそのことを推察しているようだった。
そんな二人に気付いてか、リューナは軽く咳払いをする。
「んん! ただこれは、まだまだ基本中の基本にすぎません。さまざまな定型の構成概念式を編めるようにならないと、論理魔法を十全に扱うとは言えません。これらの構成式の組み合わせによって論理魔法は成り立っていますから」
リューナの言葉に三人がうなずいた。さらにリュミナが三人を見回した。
「定型構成式の習得は、記憶力にもよるな。当然知っている定型式が多い方が有利だ。しかし、それだけでは無く、式の組み合わせによる魔法構築も重要だ。この辺りはセンスも要求されるが、よく使われる組み合わせなども存在する。よく勉強するように」
『ハイ!』
リュミナに言われて三人が勢い良く返事をした。その様子に驚いてリュミナは面食らってしまった。
自分の言ったことに三人がしっかりと生徒らしい返事をするとは思っていなかったようだ。
リュミナはエルフではあるが、姉のリューナほど魔法に対して明るいわけではない(とは言ってもエルフの基準では。である)。どちらかと言えば剣士として剣を振るう方が性に合っているという魔法系種族としては珍しい、悪い言い方をすれば異端児である。
そんな自分が魔法を教える授業において、専門家とも言える姉を差し置いて何を教えられるのか? などと考えていたのだろう。
しかし、ユーキ達からすれば、そんな彼女でも立派に魔法の先達。これから生きていくのに必要な知識を習っている身である以上、敬意を払うのは当然であった。
この辺りの認識の差は彼らの常識の違いも大きいだろう。
そんな妹の戸惑う様子に、リューナはクスリと小さく笑った。
「では、次は魔術に関してお教えしましょう。少し詰め込みぎみになりますが、“魔導”、“魔法”、“魔術”は密接な関係を持っていますので、頑張って覚えてくださいね?」
そう言って首をかしげるようにしながら柔らかく笑うリューナ。
お姉ちゃんは意外とスパルタかもしれない。
「……さて、魔法の三大構成要素最後のひとつ。“魔術”。これは魔法を操るための様々な技術です。“魔導”の効率化や、魔法の強化等々、様々なテクニックが存在します」
「……例えばどんなのがあるんだ?」
リューナの解説に、すかさずシルヴィアが訊ねた。
講師役のエルフ娘はニコリと笑う。
「……そうですね。例えばこんなのはどうでしょう?」
言いながら人差し指を立てると、それで宙をなぞり始めた。
すると、人差し指でなぞったところが光って線となる。
リューナは流麗に指先で線を引いていき、それは文字をかたどり、文を為していった。
「……空中に文字……でも、共通語じゃない……」
宙空で光る文字を見ながら呟く勇樹。
「これは“法文”という“魔術”で、描かれているのは古代魔導文字です。この文字自体が力ある存在であり、こうして書くことで魔法の強化を促します」
リューナが説明している間に文字はかすれていき、しまいには消えてしまった。
「欠点は、書かなくてはいけないので手間がかかる事と、ご覧になったように比較的短時間で消えてしまい効果を失ってしまう事ですね」
「使いどころが難しそうだね?」
リューナの説明に、勇樹が所感を述べる。講師の少女はうなずいた。
「ええ。一瞬の判断が明暗を分けるような戦闘ではなかなか使えないと思います。見ればなんの強化かわかってしまいますしね」
苦笑いしながら言うが、すぐに表情を正した。
「ですが、儀式系の魔法や、邪魔が入らない状態で行使するなら便利ですよ? 使用する魔法による魔力の消耗を抑えてくれる文字もありますし」
そう言ったリューナに一同がうなずいた。
そして三人は、“魔法陣”、“法舞”、“呪文”といった代表的な魔術を教わっていった。
そうしてその日の魔法講義は終了したのである。




