4th episode-10
少なからずショックを受けている三人に、少し時間をおいて、今一度授業は再開された。
「さて、最後に解説するのは“論理魔法”です」
リューナが言うと、三人は居住まいを正した。
それを見てうなずいたリューナは口を開いた。
「“論理魔法”は、この世界でもっとも普及している魔法です。とはいえ完成したのはここ百年ほどの、歴史の浅い新しい魔法でもあります」
「……という事は、扱いやすく習得しやすい?」
勇樹がつぶやくように訊ねると、リューナはハイとうなずいた。
「もともと“論理魔法”は、この世界に何十とあった様々な魔法を系統立てて整理し、理論的に再構築して作り上げられました。実際、似たような効果の魔法が多かったこともあって構築は大変だったようですね」
「……それって揉めなかったのか?」
シルヴィアが問うと、リューナは苦笑いした。
「確かに揉めそうにもなりましたが、結局メタリカとの戦争の影響が大きく作用して、沈静化しました」
「?」
三人は首をかしげた。リューナは苦笑いしたままうなずいた。
「メタリカとの戦いは、魔法が効果的だったこともあって、世界中の様々な魔法が表舞台に立ったのですが、先ほども申し上げたように、似たような効果の魔法も少なくなかったんです。それ以外にも、魔法行使時の干渉や流派間の軋轢などが問題となっていたんですね。けど、そういったものを駆逐するほどに、メタリカとの戦争は熾烈を極めたんです」
「……よく和解できたね?」
しみじみと漏らした勇樹に、リューナは首を振る。
「今でもメタリカに対して風当たりの強い部分はありますよ。ただ、メタリカ側はあまり気にしていませんから……」
そも、基礎となるメンタリティの違いが浮き出た形である。
「そうして最小限の理屈のもとに再編纂されたものが、“論理魔法”です」
そう言って黒板に流麗な筆致の文字を書き付けていく。
「“論理魔法”は、魔術式を魔力によって編み、構成する事で“法”が完成します。後は、さらに魔力を通して励起させ、発動のトリガーを引くことで完成した“法”が魔法として世界に顕現し、効果を発揮します」
リューナの説明に、悠真は眉を寄せているが、勇樹とシルヴィアは軽くうなずいていた。
リューナはわずかに思案する。
「……そうですね今は皆さん魔力が見えてますから、実際の魔術式を見てみましょうか」
そう言うと、リューナが軽く腕を振った。
すると、空中に色彩鮮やかなステンドグラスが現れた。
「……これが魔術式です。これを魔力で編み構築することで術式が完成します」
「なんかパズルみてーだな」
リューナが編み上げて構築した魔術式を見て、シルヴィアが漏らした。
その蒼い瞳は瞬く事無く術式を見ていた。
勇樹もうなずく。
「……うん規則性もありそうだね」
「わ、わかんない……」
義姉と義兄の理解の早さに追い付けず、涙目になる悠真。リューナが微笑んだ。
「大丈夫ですよ? すぐに覚えられますから」
優しい言葉に悠真がうなずく。
「さて、お二人の言うようにこの構成には規則性があります。パズルと言うのは言い得て妙ですね。では、軽く構成を分解してみましょう」
リューナは、宙に浮かんだステンドグラスに手を伸ばし、その色に触れる。そして触れたまま横へスライドすると、その色の部分が横へずれた。
「この色と形は、構成式としての概念であり、本来の形に解凍するとこうなります」
リューナがずれた部位を指先でトントンと軽く叩くと、それは解けて展開していった。
顕れるのは、かなりの量の光の紋様。
「これは魔法文字ですね。この文字自体が力を持っていて魔法の構造を作り上げます。ただ法則に基づいて組み上げなければ構成式として概念化出来ず、魔法の魔術式に組み込むことが出来なくなります。まあ、この辺りは魔法研究者レベルの話ですから、普通に使うだけなら最初から概念化されたモノをイメージして魔力構成すれば良いだけですね」
「……つまり、使える形が決まっているものを覚えて組み合わせれば、その魔法が使える訳か」
「はい」
要約したシルヴィアの言葉にリューナがうなずいた。
つまり、すでに公的に決まった形の構成概念と呼ばれるパズルのピースを組み合わせるのだ。
「無論、制約はあります。本人の使える許容量は“魔導”によって身に纏ったものが基本となり、構成式の枠はそれによって決定されます。この枠を越える大きさに組み上げた場合、本人の魔導能力を越えますから、生命に危険が及びます。ですから、構築の際には枠を越えるような組み方はしないこと。わかりましたか?」
『ハイ!』
三人の生徒の返事に、リューナは微笑んだ。
「では、魔法の構成概念の構築をしてみましょう。これを見てください」
リューナがステンドグラスに手を振るとそれが霧散した。
「……今、魔術式を解体して元の魔力の状態に戻しました。そして……」
指を一本立てると、その先を見つめる。するとそこに魔力が集束し始めた。
「指先に魔力を集めるイメージで集束します」
集まった魔力が、徐々に形を成していく。
「構成式は概念です。分かりやすいように視覚的に色や形を持たせていますが、本来はイメージによって構成されます」
小さなひし形が姿を顕し、緑色に染まる。
「基本的な風属性の概念式です。これだけでそよ風程度は起こせますよ?」
リューナが微笑むと、緑色のひし形が光り、勇樹達の頬を優しい風が撫でた。
「まずは魔力を集束するところから始めましょう。人差し指を立ててください」
リューナの指示に勇樹達は指を立てた。
「その先端に集中して、魔力が集まってくるイメージを」
三人は指先を見つめる。
すると、まずシルヴィアの指先に光が点った。次いで勇樹の指先にも。
しかし悠真の指先にだけはなかなか点らない。だんだん悠真は涙目になり始めた。
すると、リュミナが悠真に近づいた。
「ユマ、風の精霊が指先に集まってくるところを想像してみるんだ」
「え?」
思わぬところからアドバイスをもらい、悠真は目をしばたたかせた。しかし、すぐに集中し始める。
と。
「わっ?! わっ!?」
あっという間に緑色の光が指先に点り、概念式を構築していく。
「……すご」
「うわ」
それを見て、シルヴィアが感嘆し、勇樹は驚いた。
だが、当の悠真が一番驚き、慌てていた。
式の形が歪み始める。
リュミナが悠真の肩に優しく手をおいた。
「……落ち着いて。君の友達である精霊達が、君に力を貸してくれているだけだ。慌てる必要はない」
「は、はい……」
リュミナに言われ、落ち着き始めた悠真の目の前で、緑色をした風属性概念式が完成した。




