4th episode-9
表情を明るくする勇樹達。しかし、リューナが申し訳なさそうな顔になった。
「……ですが、すぐには見つからないかもしれません」
「え?」
悠真が虚を衝かれたように驚いた。勇樹とシルヴィアも表情を引き締めた。
そんな三人を前にして、リューナは話を続ける。
みずからの義務だと言わんばかりに。
「……ユーキさん達はこの世界に召喚された際、空中に放り出されました。これは本来あり得ません。召喚対象は魔法陣内に顕れるのが普通なんです」
「……つまり、普通じゃない。イレギュラーな召喚だったって事か」
素早く理解を示すシルヴィア。ふざけた態度の多いこの金髪碧眼の少女は、頭の回転も早い。
「それじゃあ魔法陣は……」
「必ず在るはずです。そうでなければ召喚魔法が成立しないんです」
続くリューナの説明を要約するとこうだ。
その魔法陣は世界間に繋がった出入り口のドアに当たる。
これが無ければ行くことも出来なければ来ることも出来ないのだ。
「ですから魔法陣は必ずあります。問題は……」
「所在が分からなさすぎる?」
勇樹が言うとリューナはうなずいた。
「……おそらく魔力か魔術師の力量、あるいはその二つともが不足していたのだと思います。ですから、ユーキさん達はこの世界のどこかで行われた召喚の結果、事故に近い形で空に投げ出されたのだと思います」
リューナの説明に、勇樹は天を仰いだ。掴みかけた希望がすり抜けてしまった気分だ。
無論、希望が潰えたわけではない。が、世界のどこで行われたかわからない儀式の場所を特定するなど、勇樹には想像もつかないのだろう。
しかし。
「大丈夫です」
優しく、はっきりとした澄んだ声が静かな部屋に響く。
勇樹はハッとして声の主を見た。
リューナだ。
瞑目し、微笑む彼女はまるで慈母のようで。勇樹は半瞬、見とれてしまった。
そんな彼を、シルヴィアが頬杖を着きながら眺めていた。
そしてふたたび、「大丈夫です」と、リューナが紡ぐ。
その言葉に疑問を投げ掛けるより早く、リューナは両の目を開き、笑んだまま勇樹達を見やる。
「……大召喚の魔法陣は、とてもコストが掛かります。小さな国なら傾くほどです。おいそれと撤去は出来ないでしょう。そしてユーキさん達を召喚した際に事故を起こしているなら、わずかに痕跡が残ります。時間は掛かりますが追跡は可能なんです」
「それじゃあ……」
リューナの説明に、悠真が目を輝かせた。
エルフの少女は、その小さな少女にうなずいて見せる。
「はい、きっと見つかりますよユマさん」
確信しているかのようなリューナに、悠真が安堵の息を吐いた。
しかし、その両脇の勇樹とシルヴィアは、アイコンタクトを交わしていた。
リューナは可能性があるとしか言っていない。
態度は自信ありげだが、確約しているわけではないのだ。
そのことに、ふたりは気付いていた。だが、悠真は無邪気に信じている。
一連の出来事で、もっともダメージを受けているのは悠真であろう。
帰れることを支えに出来るのならば。
ふたりの思いは一致していた。そして、講師役のエルフ少女とも。
「これでひと安心だね? 悠真」
勇樹が笑顔を作りながら悠真に声をかけた。義妹は疑うことも無く嬉しそうにうなずいた。
「うん! お義兄ちゃん♪」
「んなら気楽にやろうぜ♪」
シルヴィアも楽しげに笑い、悠真の長くて癖のある髪をかき混ぜた。悠真はくすぐったそうに笑った。
それは、この世界に来てから初めての、心からの笑顔であったのかもしれない。
そんな三人の姿を見て微笑むリューナを盗み見て、リュミナも幸せそうな顔になった。
「では、授業再開です」
何度中断し、何回目の再開になるのかわからないが、リューナのその言葉で授業は再開された。
「三回目……ユーキさん達の前に行われた大召喚は、わずかに二十数年前、ダスクメタリカの侵攻に、人々が敗退を重ねていたころに行使されました。召喚されたのは二人の技術者でした」
二十数年前という、比較的近い年数がリューナの口より語られ、勇樹達は驚いた。
「二十数年前って……なんだか現実味のある数字だな? 会えそうじゃん」
「会えますよ?」
冗談めかして言うシルヴィアに、リューナは何て事も無いように答えた。思わずぽかんとなる勇樹達三人。
「……って、まだこの世界に居るのかよっ?!」
思わず叫んでしまうシルヴィアだが、それは勇樹と悠真の思いも代弁していた。
自分達のように異世界から喚ばれた二人。しかもその後二十年以上こちらで暮らしているなど、想像もつかない。
「ええ、リコさんやシアさんとお知り合いで、今でも仲良くされてらっしゃるようです。月の魔瞳の無いシアさんがユーキさん達に受け答えできたのが不思議じゃありませんでしたか?」
リューナの言葉に勇樹達はアッとなった。身体測定を受けた頃は、三人とも日本語で話していたはずだ。魔女以外には通じていない事に気づいたのは最近だが、シアは普通に受け答えしていた。
「お二人ともその方々にニホンゴを習ったそうです」
「! それじゃ、その人達は僕らと同じ日本人?!」
勇樹は驚いて声をあげた。シルヴィアと悠真も同様だ。
「おふたりは対ダスクメタリカ兵装、“論理魔導機関”の開発者で、現在も様々なダスクメタリカ対策の陣頭指揮を執ってらっしゃいますが、アポイントは取れると思いますよ? 特に、ユーキさん達は同じ異世界からの来訪者なんですから」
リューナに言われ、勇樹達はまだ見ぬ先達となる異世界人を思った。




