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4th episode-8


「……一回目は、お医者様でした。先ほど説明した大召喚乱用による混乱の後、外の世界由来の疫病がはやったのです」

 リューナは悲しそうに言う。

「もちろん、最初は治癒の法等を駆使して対処していました。ですが、患者の数に対して魔法を使える者の少なさ、そして疫病の広がる速度の早さが当時の対処能力を越えていました。だからといって大召喚を禁止してすぐに使おうなどと言い出せるはずも無く、多くの方々が亡くなりました……」

「……」

 聞いている勇樹達は複雑そうな顔になった。無理矢理召喚されたことに対して、怒りや戸惑いは当然ある。

 しかし、だからといってこの世界の人達に死んで欲しい訳では無い。

「……結局、誰もが諦める中、ある国の王様が大召喚を独断で行いました」

 そしてリューナの言葉に三人は驚いた。

「それって……」

「……はい違法です。すべてが終わった時に、その王様は退位することで責任を取られました」

「……」

「……退位されるまでに出来ることは全てやったそうです。召喚されたお医者様を、もとの世界に帰す準備も整えていたそうです」

「えっ?!」

 その言葉に三人は驚いた。

 そしてすぐに口を開いたのは、意外にも悠真だった。

「その人は帰れたの?」

 悠真の問いに、リューナは首を振った。

「……そのお医者様は、この世界に残られました。自らの意思で」

「ど、どうして?」

 さらに悠真が問う。信じられないという顔で。

 リューナはそんな悠真に微笑んだ。

「……お子さんが、出来たのです」

 三人は目を見開いた。

「……人々を救うべく疫病と戦い続けたお医者様は、常にその隣にあった神官の少女と結ばれたそうです。そして、彼はこの世界に残ることを決意したのだとか。そして、この世界に医学、衛生管理という概念を広めるべく力を尽くしたそうです」


 リューナがそう続けると三人は息を吐いた。帰るばかりではなく、そういうこともあるのだと。

 そんな勇樹達を前にして、リューナはちらりと勇樹へ視線を走らせる。

「……」

 彼がどう思うのかが気がかりな様子だ。

 当の勇樹はといえば、なにやら思案しているようであった。

 軽く息を吐き、視線を戻すと、シルヴィアがにやにやしながら見上げてきていた。思わずビクリとなるリューナ。

「……な、なんでしょう? シルヴィアさん」

「んにゃ? 別にぃ♪」

 警戒するように問うリューナに、楽しげに答えるシルヴィア。

 その様子を悠真とリュミナが首をかしげて見ていた。

「こほん。つ、続けます」

 リューナはごまかすようにして咳払いをして、話を続けた。

「二回目はメタリカとの大戦末期に行われました。このとき喚び出されたのは、空飛ぶ鋼の船に乗った戦士の一団でした」

「空飛ぶ鋼の船?」

 思わず聞き返してしまう勇樹。リューナがうなずく。

「はい。鳥のような形をした全体が鋼で覆われている船だったそうです」

「全体が鋼に? 飛行機じゃなくて?」

「はい。大きさも大型ダスクメタリカ並みらしかったです。鳥より早く飛ぶその船に乗り、世界を縦横に駆け巡り戦い続けたそうです」

 リューナの言葉に勇樹達はあっけにとられた。

「それだけではありません。戦士達の武器や防具も、メタリカに対抗しうるほどの物でした。当時、メタリカに対して月瞳魔女の魔法攻撃が有効ではありましたが、なにぶん数が少なく苦戦することもしばしでした。そこに現れた異世界の戦士達。彼らと魔女は力を合わせ、メタリカをピラーへと押し戻しました」

「すげえな。いくら強いったって百人かそこらだろ? それで世界中からメタリカを押し戻すなんてさ」

 リューナの話にシルヴィアが感嘆の声を上げた。

 それにリューナがうなずいた。がすぐに悲しげな表情になる。

「はい。無論、犠牲が無かった訳ではありませんでした。戦士達の三分の一は帰らぬ人となったそうです」

 勇樹達も表情を固くした。わずかに沈黙が場を支配する。

「……それでも彼らは戦ってくれました。そして、メタリカに異変が起きます」

「異変?」

 訝しげになった勇樹に、リューナがうなずいた。

「はい。戦士達の一人がメタリカとのコンタクトに成功し、彼らの中に争いを止めようとする一派を作り出したのです。メタリカは侵攻派と停戦派の二つに別れました。メタリカは混乱し、その隙を当時の人々が突き、侵攻派を打ち破りました。そして停戦派との間に和平を結んだのです」

「……」

 勇樹達はふたたびあっけにとられた。

 メタリカとの戦争に関しては大雑把に聞いてはいたものの、そんな事があったとは想像の範疇外である。

「……戦争が終わると戦士達は、自らの持つ力と知識がこの世界には過ぎたものだと語り、元の世界へと還りました」

「その人達は還れたんだ……」

 安堵したように呟いた悠真に、リューナが微笑んだ。

「はい。召喚に使用した魔法陣も残してありましたから、元の世界に繋ぐのは容易だったんです」

「! ってことはもしかして……」

「そういう事か」

「?」

 リューナの言葉にシルヴィアと勇樹がうなずいた。悠真はピンと来なかったようで首をかしげている。

 そんな義妹に、勇樹は優しく微笑んだ。

「つまりね? 悠真。僕たちを召喚した魔法陣を探し出せば、元の世界に還れるんだ」

「ホント?!」

 義兄の説明に、悠真が目を輝かせリューナを見上げた。優しげなエルフ娘はしっかりとうなずく。

「はい。召喚魔法の魔法陣は一度繋げた世界とは繋げやすくなります。無論、膨大な魔力と術者が必要になりますが……」

「それでも、魔法陣を確保しておく意味はある。現在ウエストロード司令の伝手で捜査中だ」

 リューナの言葉を引き継いでリュミナが告げた。

 それは三人の異世界人にとって希望の光だった。

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