コンビニまでの放課後
第三話です。
今回は少しだけ、“普通の放課後”を書いてみました。
コンビニに寄ったり、公園でアイスを食べたり。
健康な人にとっては当たり前でも、白石にとっては特別な時間です。
その楽しさと、隣り合わせにある現実も少しずつ描いていけたらと思います。
よろしくお願いします。
その日の放課後。
珍しく、白石は最後のホームルームまで教室にいた。
それだけでクラスが少しざわつく。
「今日めっちゃいるじゃん」
「体調いいんかな」
悪気はないんだろう。
でも、白石が“いるかどうか”で話題になるのは、なん
だか変な感じだった。
本人は気にした様子もなく、窓の外を見ている。
夕陽が差し込んで、黒髪が少し赤く見えた。
「相沢くん」
「なに?」
「今日、このあと暇?」
突然そう聞かれて、少し固まる。
「……まあ、暇だけど」
「じゃあコンビニ付き合って」
「コンビニ?」
「アイス食べたい」
それだけ言って、白石は立ち上がった。
なんというか。
誘い方が自然すぎる。
◇
学校を出る。
夕方の風はまだ少し冷たかった。
白石はゆっくり歩いていた。
遅い、というより。
無理しない速度で歩いている感じ。
「なんか新鮮だね」
白石が言う。
「そうか?」
「放課後に友達と寄り道」
「いや普通だろ」
「私にはあんまり普通じゃなかったから」
その言葉に、少しだけ詰まる。
白石は前を向いたまま続ける。
「学校終わったらすぐ病院とか、家帰るとかだったし」
「……そうなんだ」
「だから、ちょっと憧れてた」
そう言って笑う。
重く言わないのが、逆にずるい。
コンビニに着く。
白石はアイスコーナーの前でしゃがみ込んだ。
「迷う……」
「そんな真剣に悩む?たかが、コンビニだろ?」
「アイスは大事」
「それは知らんけど」
結局、白石はバニラを選んだ。
俺は適当にコーヒー。
店を出ると、近くの公園のベンチに座る。
部活帰りの中学生が騒いでいた。
「平和だねえ」
白石がアイスを食べながら言う。
「じじいみたいなこと言うな」
「だって平和じゃん」
白石は空を見上げる。
春の夕方。
少しオレンジ色の空。
なんとなく静かだった。
「相沢くんって彼女いたことある?」
「急になんだよ」
「会話」
「居たことない」
「へえー」
「なんだその反応」
「いや、なんかモテなさそうではある」
「地味に傷つくな」
白石が笑う。
ちゃんと声を出して笑った。
その瞬間だけ、本当に普通の女子高生に見える。
「白石は?」
「いないよ」
「意外」
「失礼じゃない?」
「なんとなく」
白石は少しだけ考えてから、小さく言った。
「恋愛してる暇、あんまりなかったし」
まただ。
時々こうやって。
軽く言うのに、妙に残る言葉を落とす。
風が吹く。
白石の髪が揺れた。
「でもね」
「ん?」
「ちょっとだけ、憧れはあったよ」
「何に」
「放課後に寄り道したり」
白石はアイスの棒をくるくる回しながら続ける。
「好きな人と帰ったり」
「……」
「夏祭り行ったり」
「普通のやつじゃん」
「うん。普通のやつ」
その“普通”を言う時だけ。
白石は少し寂しそうな顔をする。
俺はコーヒーを飲みながら、公園を見る。
子どもが走ってる。
犬の散歩してる人がいる。
どこにでもある夕方。
でも白石は、こういう時間を“特別”みたいに見ていた。
「ねえ相沢くん」
「なに?」
「また今度、寄り道してくれる?」
白石は少し笑いながら聞いてきた。
断る理由なんて、別になかった。
「……まあ、暇ならな」
「やった」
その笑顔が、夕陽で少しだけ眩しく見えた。
けれど次の瞬間。
白石の表情がわずかに歪む。
「……っ」
「おい?」
胸元を押さえる。
呼吸が浅い。
「白石?」
「だ、大丈夫……だから」
全然、大丈夫そうじゃなかった。
白石は無理やり笑おうとする。
でもその顔は、今にも倒れそうで。
俺は初めて思った。
――白石は、本当に病気なんだ。
そんな当たり前のことを。
今さらみたいに実感してしまった。
読んでいただきありがとうございました。
白石は「普通」に憧れています。
でも、その普通を手に入れるだけでも、彼女には少し無理をしなければいけません。
相沢もまだ、“病弱”という言葉をちゃんと理解できていません。
だからこそ、少しずつ現実を知っていくことになります。
次回は、白石の病気について少し触れる回になる予定です。
また続きを読んでもらえたら嬉しいです。




