表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/6

保健室の窓際

第二話です。

今回は、少しだけ白石の日常が見える回になっています。

教室では普通に見えても、過ごしている場所や時間は少し違う――そんな空気を書きたくて描きました。

保健室独特の静けさって、なんとなく特別ですよね。

よろしくお願いします。

 白石 澪という名前を、クラスの連中が少しずつ口にするようになったのは、それから数日後のことだった。


「今日いる?」


「一時間目だけ来てた」


「また保健室じゃね?」


 そんな会話。


 クラスにいるのが珍しいせいで、逆に存在感がある。


 でも本人は、妙に普通だった。


 特別明るいわけでも、暗いわけでもない。


 ただ、時々いなくなる。


 それだけ。


 ◇


 昼休み。


 購買帰りの俺は、教室の前で足を止めた。


 白石の席が空いていた。


「また保健室?」


 近くの女子に聞くと、


「たぶんー」


 と軽い返事が返ってくる。


 なんとなく、俺は保健室へ向かった。


 ……いや、別に心配とかじゃない。


 プリント返してもらってなかっただけだ。


 そういうことにしておく。


 保健室のドアを開ける。

 

 消毒液の匂い。


 カーテン越しに差し込む昼の光。

 

 静かだった。


「あれ、相沢くん?」


 窓際のベッドに、白石が座っていた。


 カーテンは開いている。


 膝の上には、未開封の紙パックジュース。


「何してんの」


「サボり」


「堂々と言うなよ」


「半分ほんと」


 白石は笑う。

 

 その顔色は、やっぱり少し白かった。


「先生いないの?」


「職員室行ってる」


「へえ」


 会話が止まる。

 

 妙に静かだった。


 教室って、こんなにうるさかったんだなと思う。


 白石は窓の外を見た。


 グラウンドでは、男子がサッカーしている。


「楽しそうだね」


「そうか?」


「うん」


 少しだけ羨ましそうだった。


 その横顔を見て、俺は聞きそうになる。


 なんの病気なのか。


 どれくらい悪いのか。


 でも聞けなかった。


 そういう空気じゃなかった。


「相沢くんってさ」


「なに?」


「優しいよね」


「は?」


 思わず変な声が出た。


「いや別に。普通だけど」


「普通の人は、わざわざ保健室来ないよ」


「……プリント返してもらってないだけ」


「あ、そうだった」


 白石はくすっと笑う。


 なんか、調子が狂う。


 クラスの奴らみたいに“気を遣う感じ”じゃなくて。


 こいつは普通に話してくる。


 だからこっちも、普通でいられる。


「ねえ」


 白石が窓の外を見たまま言った。


「相沢くんって、将来やりたいことある?」


「なんだよ、急だな」


「暇だから」


「……別に。ない」


 適当に答える。


 実際、本当にない。


 進路希望調査も、まだ白紙だ。


 白石は少しだけ頷いた。


「そっか」


「白石は?」


 聞き返した瞬間。


 彼女は少しだけ黙った。


 窓の外から、サッカーボールを蹴る音が聞こえる。


「私はね」


 白石は笑った。


 でもその笑い方は、前より少しだけ弱かった。


「来月の予定くらいしか、考えないようにしてる」


「……なんで?」


「長い予定立てるの、苦手なんだ」


 冗談っぽく言ったくせに。


 その言葉だけ、妙に耳に残った。

 

 その時だった。

 

 ガラ、と保健室のドアが開く。


「あっ、白石さん! また無理して起きてる!」


 保健の先生だった。


「横になってなさいって言ったでしょ!」


「はーい」


 怒られてるのに、白石は笑っている。

 

 先生はため息をついて、俺を見る。


「相沢くんもサボり?」


「違います」


「なら教室戻る!」


「……はい」


 追い出されるように保健室を出る。

 

 閉まる直前。


「またね、相沢くん」


 白石が小さく手を振った。

 

 その声が、妙に頭に残った。

 

  ◇


 教室へ戻る途中。


 廊下の窓から、グラウンドが見えた。


 みんな普通に笑ってる。


 走ってる。


 騒いでる。


 たぶん、それが普通なんだ。


 でも白石は。


 あの静かな保健室で、窓の外を見ていた。


 なんとなく思う。

 

 あいつは最初から、


 俺たちと違う時間の流れの中にいるのかもしれない。

読んでいただきありがとうございました。

白石は明るく振る舞っていますが、

時々ふっと“普通じゃない現実”が見える瞬間があります。

相沢もまだ、それをちゃんと理解しているわけではありません。

でも少しずつ、白石のいる世界に触れ始めています。

次回は、放課後に二人で寄り道する話になる予定です。

また読みに来てもらえたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ