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『空席だった君』

初投稿です。

病弱な少女との青春物語を書いてみました。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

高校二年の春なんて、もっと特別なものだと思っていた。


 新しいクラス。


 新しい出会い。


 青春っぽい何か。


 でも現実は、去年とそんなに変わらない。

 

 眠い授業。


 騒がしい男子。

 興味もない自己紹介。

 窓の外では、風に揺れた桜が中途半端に散っていた。



「相沢ー、席替え神じゃね?」



 後ろからシャーペンを投げてきたのは、友人の柴田        だった。



「何が」



「窓側の一番後ろ。主人公席じゃん」



「ラノベの読みすぎだろ」



 適当に返しながら、俺は頬杖をつく。

 四月特有の、ふわふわした空気。

 


 みんなまだ“クラスメイト”って感じじゃない。

 そんな空気を切るように、教室のドアが開いた。

 


 ガラ、と。



 遅れて入ってきたのは、小柄な女子生徒だった。

 教室が静かになる。


 黒髪。


 白い肌。


 細い手首。


 

 

 制服はちゃんとしているのに、どこか危うく見えた。



 担任が咳払いする。



 

「今日から登校できることになった、白石だ」

 


 転校生みたいな空気だった。


 

 

 でも違う。





 「体調の関係で、去年はほとんど来れてない。無理さ       せるなよ」 



 

 その一言で、クラスの空気が変わった。

 



 ――ああ、そういう感じか。

 



  みんな一斉に“気を遣う側”の顔になる。

 



 かわいそう。



 優しくしなきゃ。



 でも踏み込みすぎるのも違う。

 


 そんな空気。

 


白石は軽く頭を下げると、窓際の一番後ろ――ずっと

空席だった席へ向かった。

 


 俺の隣。



「よろしく」

 


小さく笑ってそう言った。



「あ、うん」



 それしか返せなかった。



 近くで見ると、思ったより普通だった。

 

 

 もっとこう、病弱っぽいというか、

 

 静かな感じを  想像していたのに。

 


 むしろ、ちゃんと笑う。

 


 そのせいで余計に距離感が分からなかった。

     


 一時間目の途中。



 白石は保健室へ行った。

 


 担任も慣れた様子で、



「無理するなよー」

 


 とだけ言う。

 


クラスメイトたちも、どこか腫れ物みたいに扱っていた。



「大丈夫なんかな」



 柴田が小声で言う。

  

   「知らん」


「お前、隣なんだから話しかけろよ」



   「なんで俺が」



「イベント始まるかもしれんだろ」

 



こいつは人生をラノベだと思っている。



 俺は窓の外を見る。



 グラウンドでは体育の授業をしていた。



 走ってる奴らを見ながら、ふと思う。



 白石は、あれに出られるんだろうか。



 ……いや、別に興味あるわけじゃない。



 ただ、少し気になっただけだ。

     



 放課後。



 帰ろうと鞄を持った時だった。



  「あのさ」



 隣から声がした。

 


見ると、白石が立っていた。



「今日のプリント、見せてもらってもいい?」



「ああ、別にいいけど」



「助かる。途中から頭痛くて全然聞いてなかった」



 そう言って、彼女は苦笑する。

 


 普通だった。



 普通に話すし、普通に笑う。

 


 でも時々、すごく疲れた顔をする。



 それが妙に気になった。



「ノートもいる?」



「いいの?」



「どうせ汚いけど」



「じゃあ借りる」

 


 白石は俺のノートを受け取ると、少しだけ目を丸くした。


 

 「字、意外と綺麗なんだね」



 「悪かったな」



  「ふふ」



 笑った。

 

 なんだそれ。



 変な感じだった。



 教室の外では、運動部の掛け声が聞こえている。


 夕陽が差し込む教室の中で、白石だけ少し白く見え

た。


   「あ」



 立ち上がった瞬間、彼女の体がふらつく。



   「おい」



 反射的に腕を掴む。



 細かった。



 驚くくらい。



「……ごめん、大丈夫」



 白石はすぐに笑った。



 でも、その笑い方は。



 どこか“慣れてる”感じがした。



 転ばないことにも。



 心配されることにも。



 「ほんとに平気か?」

 


 「うん。ありがと」


 

 彼女はそう言って、ゆっくり教室を出ていく。



 俺はしばらく、その背中を見ていた。

  


 窓の外では、桜がまたひとつ散った。

 


 その時の俺はまだ知らない。

 


 あいつが、“未来の予定”をほとんど立てない理由を。

読んでいただきありがとうございました。

白石はまだ、ただの「病弱なクラスメイト」です。

でも主人公にとっては、少しだけ“気になる存在”になり始めています。

次回は、保健室での話になります。

少しずつ二人の距離が近づいていく予定です。

よければ、また続きを読みに来てください。

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