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こうして愚かな王太子は愛を失った  作者: 木蓮


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 フレルドは浮かれた空気をただよわせる周りをにらみ回した。

 建国祭が開かれている王城の大広間はたくさんの男女たちが仲むつまじく過ごしている。本来ならば王太子であるフレルドが皆に一番羨まれる存在になるはずだった。

 しかし、正妃のリリメアはマナーも素行も悪すぎてとても表に出せず、代わりに参加した側妃のリヴェルタは友人のところに行ったきり戻ってこない。仕方なく若い女性に声をかけようにもパートナーが現れたり、黄金の仮面をつけてもなお威厳がにじみ出る自分の正体に気づいて恐れ入ったように逃げられてしまう。自分は退屈しているのに周りだけが盛り上がるのは面白くない。


「おい、テオはどうした」

「グラーベン様ですか? 申し訳ありません姿を見かけていません」

「どうせ休憩室にいるのだろう。見かけたらすぐに来るように言っておけ」


 気の利かない使用人とエウシュに会いに行ったきり戻ってこないテオスティールに苛立ちがこみ上げてくる。

 ときおり媚びにやって来るうっとおしい貴族たちを適当にあしらいながら心の中で自分だけ楽しむテオスティールを罵っていると、リヴェルタがやっと戻って来た。


「殿下、お話が」

「おい、テオはどうした。いくら恋人たちの祭とはいえ、王太子の側近が仕事を放り出してこんな夜も早くから好きな女と2人きりでこもっては他の貴族たちに示しがつかん、早く連れ戻せ」

「おっしゃるとおりです。兄はずいぶんと前に殿下が良く知る方とご一緒の部屋に入ったと聞いております。そろそろ目も覚める頃あいかと」

「ふんっ、ならば私が呼びに行ってやろう。薔薇の貴公子がどんなまぬけな面をして出てくるか楽しみだな」


 幸せを満喫するテオスティールに怒りがこみあげてきてリヴェルタに案内を命じた。彼女について行くと人気のない廊下の扉が1つだけ開いていた。フレルドは前を歩くリヴェルタを追い越すと乱暴に扉を開けた。


「おいっ、テオ! ここにいるのだろうっ。まったくいつまで能天気に遊びほうけて……」


 どこかで嗅いだ気がする香水の匂いがする薄暗い部屋に入ると、暗闇に慣れてきた目にソファの上でお互いに抱き合って寝そべる男女の裸身が見えた。1人はテオスティール、そしてもう1人はリリメアだった。

 どう見ても情事の後に頭が真っ白になりついで怒りが爆発しかけるとリヴェルタの冷水のような声が響く。


「落ちついてくださいまし。こんな醜悪な光景を周りに知られたら殿下の名誉にも関わりますわ。まずは逃げられないように拘束いたしましょう」

「あ、ああ……」


 その冷静な言葉に我に返るといつの間について来たのか、リヴェルタ付きの女性騎士とメイドたちが入って来て2人を引き離し、テオスティールを縛りあげリリメアに寝衣を着せる。

 それでも幸せな寝顔をさらして起きないテオスティールを殴ろうかと思うと、騎士が進み出て張り手をくらわす。身がすくむような音とともにテオスティールが悲鳴を上げる。


「……っ、何をするっ!! リヴェルタっ、貴様の仕業かっ! 今すぐ離せっ」

「ええ、祭の騒ぎに乗じて王太子妃殿下との姦通を企んだ不埒者を捕まえにきましたの。まさか犯人があなただとは驚きましたわ」


 テオスティールははっとソファを見る。満ち足りた顔で眠るリリメアに気づくと悪魔のような恐ろしい顔でリヴェルタをにらみつける。


「エウシュをどこにやったっ」

「あら、まだ寝ぼけているのかしら。あなたが愛を交わしたのはそこの方ですよ。身体に証拠が残っているじゃありませんか」 

「私が相手をしてやったのはエウシュだっ!! この女ではないっ! さてはおまえの企みかっ、こんなことをしてただで済むと思うなよっ」


 テオスティールの部屋全体が震えるような咆哮にリヴェルタは声を上げて笑った。その場違いな振る舞いにフレルドは寒気を感じた。

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