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こうして愚かな王太子は愛を失った  作者: 木蓮


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7

「やだ、こんなにたくさん人がいるなんて。でも、テオだったら私のことを見つけてくれるわよね」


 こっそりと建国祭のパーティーが開かれている会場に忍び込んだリリメアは、想像以上の人の多さにげんなりしつつも目当ての人物を探した。


 この国に来るまではリリメアは不幸だった。

 リリメアは国王が本当に愛する女性である側妃の娘だ。愛し合う両親にはかわいがられたが、真実の愛に嫉妬した気位が高い正妃と異母兄の王太子には「自分たちの言うことを聞かないおまえは王女として認めない」と冷遇されていた。

 そんな辛い境遇から助けてくれたのが、外交で訪れたフレルドとテオスティールだった。

 フレルドは「こんな人でなしどもがはびこる国は愛らしいリリにふさわしくない。我が国に来れば良い」と宣言し、テオスティールはリリメアを安心させるように優しい笑顔を向けてフレルドと婚約して国から出られるように速やかに動いてくれた。

 思えばその時から頼もしく優しいテオスティールに淡い恋をしていたのだろう。


 フレルドの国に来てからリリメアは「隣国から嫁いできた高貴な姫君」として、生まれて初めて尊い王女らしく丁重に扱われた。何もかもが煌びやかで幸せに満ちた王宮でリリメアはのびのびと過ごした。

 最初の内は自分を支える側妃になるエウシュがリリメアの幸せの邪魔をしてきて気に入らなかったが。しばらくしていなくなり、代わりに話の分かるリヴェルタが側妃になってまた自由な生活が戻ってきた。

 フレルドはいつの間にか仕事が忙しいとして会いに来なくなり、公務もしなくて好きに過ごしていいと嫌味ったらしく言われて傷ついたが。元々ちょっとしたことで不機嫌になるフレルドと離れられてせいせいした。

 そして、いつも優しい笑みを浮かべて相手をしてくれるテオスティールを追いかけ、気づけば彼に本気の恋をしていた。


 しかし、自分は婚約者がいる王女で彼は侯爵令息。

 彼のことは好きだがお気に入りのものに囲まれて誰もが自分にかしずく快適な王宮から離れて、気分屋な王太子に奴隷のように仕える侯爵家に嫁ぐのは嫌だ。

 悶々と悩んでいると、ある日リヴェルタが面白い話をした。


「我が国の建国祭は国を見守る女神様とその夫神が参加するという言い伝えにちなんで、皆が正体がわからないように仮面で素顔を隠して参加するのですよ。慈悲深い女神様は想いあう2人を祝福してくださるとも言われています。

 ですから、この日だけは秘めた想いを打ち明けることを許されているのです。そう、例えば叶わない恋に嘆く恋人たちが一夜だけの幸せな夢を見るといったように」


 リリメアはその言葉にテオスティールの顔を思い浮かべた。彼はいつも会うたびにリリメアに甘い言葉をささやいてくれ、誰とも結婚せずにリリメアに仕えてくれている。きっと彼も自分のことを想っていて、でも主のフレルドに知られないように耐えているのだろう。

 でも、この国を守る女神が許すというこの国の建国祭でならばその想いは叶えられる。身分差の恋をあきらめていた母と父が困難を乗り越えて結ばれたように、不幸だったリリメアがテオスティールのおかげでこの国に来て幸せになれたのもきっと優しい女神様の祝福なのだ。

 そんなリリメアの気持ちを汲み取ったリヴェルタは、フレルドに内緒で建国祭に参加できるように手を貸してくれた。正体を隠すようにと彼女が用意したかつらもドレスもアクセサリも香水も好みではなく嫌だったが、テオスティールの好みだと言われてしぶしぶ受け入れる。


「あ……っ、テオだわ」


 遠くから人々を探そうと壁際に立っているとテオスティールがリリメアを見つけて微笑んだ。その輝くような笑顔にリリメアもまた胸がいっぱいになる。人をかきわけて駆けだそうとすると傍にいたメイドにそっと呼び止められ、部屋でテオスティールを待つようにと言われる。

 リリメアは人目を忍んで会うことに心がときめくのを感じながら、まるでロマンス小説のワンシーンのように照明を落とした部屋で身づくろいを整えてテオスティールを待った。

 そして、荒ぶる男に激しく求められるまま彼のすべてを受けいれた。

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