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こうして愚かな王太子は愛を失った  作者: 木蓮


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6

 ――見つけた。

 甘ったるい笑顔ですり寄ってくる夫人たちをかわしてエウシュを探していたテオスティールは、壁際にひっそりと佇む彼女を見つけて微笑んだ。何か話しかけてきた夫人がぽっと頬を赤く染めるも1年ぶりに見る彼女だけを視界に映す。

 ――やはり彼女はああして一輪で咲いているのが美しい(ふさわしい)


 初めてエウシュと出会ったのは、王命で彼女が王太子フレルドの婚約者に選ばれた時だ。

 最初に思ったのは何て愚かな娘なのだろうだった。

 ただこの国で身分が一番高い令嬢だからという理由で王太子の後ろ盾に選ばれただけなのに。王太子の婚約者なのだからと、身分を妬む王妃の苛烈な指導に必死について行き、足を引っ張ろうとする令嬢たちの嫌がらせに強がった笑みを浮かべて耐える。そして、フレルドよりも多くの知識を身につけたくさんの人々の人望を得て、ただでさえ彼女自身に劣等感を抱くフレルドの心の傷を刺激して疎まれる。

 テオスティールは王家を意のままに操ろうとする父の命で幼い王太子フレルドの側近になり、物事を深く考えず大事な決断を自分に任せる愚か者に育てあげた。だから、そんな空っぽなフレルドを支えようと必死で尽くして憎まれるエウシュを嘲笑っていた。


 その日、ただでさえ機嫌が悪かったフレルドは何か気にくわないことを言ったエウシュに激しく怒りをぶつけた。エウシュはこわばった笑みを浮かべてフレルドの気がおさまるまでやり過ごしたが、フレルドがいなくなると一瞬だけ泣きそうな顔をした。

 尻拭いにうんざりしたテオスティールが面倒事を引き起こしたエウシュに嫌味をこめて「フレルド様は元々機嫌が悪かったのですよ。今度は気をつけることですね」と言うと、エウシュは「そうだったのですね。私の気が利かずに申し訳ないことをしました」と涙をこらえて微笑んだ。

 その理不尽に罵られてもなお微笑む凛とした姿に無意識に「私がとりなしておきますよ」とこぼすとエウシュは大輪の花が咲くような笑顔で礼を言った。

 それからテオスティールの心にエウシュが住みついた。


 しかし、その後エウシュはどんなにフレルドに傷つけられてもじっと耐えて、あの時のようにテオスティールを頼ることはない。むしろ、フレルドを甘やかしすぎるとたしなめてくるようになった。

 その女にしては小賢しいだけなのに父に気に入られる妹リヴェルタを思わせる生意気な姿と、一番身近で最も頼れる存在の自分を頼らない頑固さに憎しみがつのっていく。

 だから、エウシュの心を折るために、フレルドが彼女を嫌って遠ざけるように吹き込み、生意気だが役には立つ妹を側妃にするために密かに王太子妃の教育を受けさせた。

 王女リリメアが新たな後ろ盾になったこともあり、フレルドは喜んで厄介者のエウシュとの婚約を解消した。

 しかし、調子にのったフレルドがエウシュをテオスティールに与えると口を滑らせたことで、娘を侮辱されたと怒り狂ったベイリー公爵の妨害にあい、手をこまねいているうちにエウシュは遠く辺境の地に逃げてしまった。

 ――テオとエウシュの幸せのためだったのに。

 なぜ余計なことを言ったのかと問い詰められ、いたずらが見つかった子どものようにぐずぐずとごねるフレルドを何度心の中でこの手でくびり殺してやったことか。

 いくら王太子といえど隣国との交易を営み莫大な利益を生み出す辺境伯の婚約には干渉できない。テオスティールは屈辱と恨みをこらえながら、情報を集めてエウシュを王都に連れ戻すように動いた。


 そして、時が来た。

 あらかじめ買収しておいたリリメアのメイドにはエウシュを部屋に招き、媚薬をもった飲みものを飲ませておくように命じてある。

 建国祭は女神が仲睦まじい夫婦を祝福するという。この祭を機に愛を交わし仲を深めるカップルも多い。例え生涯公にはできない関係でも、だ。

 歳の離れた辺境伯と子もできず野蛮な土地で寂しい思いをしているエウシュも、7年もの間共に過ごした自分が優しく声をかければ喜んで身を任せるだろう。

 ――今度は逃がさない。私の手元に閉じ込めて飽きるまでは愛でてやる。


 呼びに来たメイドに腹の底がかっと熱くなり勝利の笑みと快感がこみ上げてくる。先祝いにと珍しくフレルドが気をきかせて差し入れてきた強い酒の酔いもあるかもしれない。

 ふわふわと心地よい気分で入った部屋は初夜を連想させるように照明がおさえられていた。ソファには仮面をつけたエウシュが座っていた。


「テオ、待っていたのよ」


 彼女の香りと甘い声に歓喜の声を上げたテオスティールはそのなめらかな肩を掴んでソファに押し倒した。


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