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メイドに案内されて王城の奥深くにある部屋に入ると、そこには側妃リヴェルタと身分も年齢もさまざまな夫人たちが座って待っていた。エウシュと目が合うとリヴェルタは微笑む。
「お久しぶりです、エウシュ様。今は辺境伯夫人とお呼びした方がよろしいかしら。急に呼び出して申し訳ありません。遠い地に嫁いだあなたと久しぶりにゆっくりとお話をしたかったものですから、王太子妃様の名前を借りて手紙を送りましたの」
「まあ、そうだったのですね。こちらこそこのような素晴らしいお茶会にお招きいただきありがとうございます」
「ふふ、ここに招いたのは親しい方々ですの。エウシュ様もそんな堅苦しくならずに昔のようにリヴェルタと呼んでください」
王都にいた頃のようにふわりと微笑みかけられて、エウシュも「ではお言葉に甘えて」と懐かしさに顔をほころばせた。
グラーベン侯爵令嬢リヴェルタとは王宮図書館で出会い、彼女を敵視するテオスティールの目を盗んで密かに互いに学んだことを教えあっていた。エウシュが嫁ぎ彼女が側妃になってからは交流が絶えていたが、久しぶりに会った彼女はむしろ生き生きとしていてほっとする。席に着くと待っていたとばかりに夫人たちがエウシュに話しかけてくる。
「ネスティ辺境伯がこの国にもたらしたルナクリスタルは名前の通り月の輝きのようでうっとりしますわ。私、初めて目にした時にはずっと見とれてしまって夫に呆れられてしまいましたの。でも、夫人だって初めて目にした時にはそう思われましたわよね?」
「あの偉丈夫の夫君は自ら船を駆って隣国まで赴かれると聞きましたわ。そんな勇敢な方ならば英雄のような武勇伝や冒険談もあるのでしょう? ぜひ聞かせてくださいな」
「今日の建国祭は、あの誰も寄せつけない孤高のネスティ辺境伯が美しく優しい奥方に夢中になっていたという話で持ちきりだったのですよ。どうやってあの堅物の夫君の心を射たのですか?」
「ふふふっ、皆様新しく参加されるエウシュ様に会うのを楽しみにしていたのですよ。ここに集まっているのは皆、国を支える地方領主の奥方たちですの。せっかく集まったのですから皆様心ゆくまで話をして、互いに縁を深めましょう」
怒涛の質問にエウシュが目を白黒させるとリヴェルタはころころと笑う。
ここに集まっているのはエウシュと同じく地方の領地を治める領主の妻たちだ。遠く離れた土地の人々と自領に有益な情報を得られたことやお互いに顔つなぎができるのはありがたい。そして、夫人たちにさりげなく恩を売りつつ、そのやりとりに耳を傾けてさりげなく取引を持ちかけるリヴェルタにエウシュは感心した。
彼女のように気配りに長け人心を掌握する女性ならば、あの短気なフレルドも信頼を寄せているのだろう。
ついそんなそんなことを思ってしまいエウシュはほろ苦く笑った。もう終わったことだ、自分はネスティ辺境伯夫人ローファの妻として彼の力になるのだ。
お代わりを用意しようとするメイドに紅茶ではなく果実水はないかと尋ねると、隣に座った少し年上の夫人がおやというように微笑む。
「ネスティ夫人はもしかしてお子が?」
「ええ、先日わかりました。両親と友人たちに報告するために王都にやって来ましたの」
エウシュがうなずくとリヴェルタと夫人たちが口々に祝福してくれる。その人間らしい温かさに触れてエウシュは胸がいっぱいになった。
幼い頃から一緒に過ごしていたフレルドに「信じていない」と言われてエウシュはひどく落ち込んだ。
そんな自分をローファと辺境の地の人々は温かく迎え入れてくれ、エウシュに新しい居場所と役割、たくさんの愛情と信頼をくれた。そして、昔から知るリヴェルタと今知り合ったばかりの夫人たちもこうして喜んでくれる。
自分の努力は一番信じてほしい人にとっては役に立たなかったけれど。7年間がんばったおかげでローファを始めとしてこんなにもたくさんの素敵な人々と繋がりができた。それがとてもうれしい。
エウシュは子を産み育てた先輩たちのアドバイスに喜んで耳を傾けた。お喋りが絶えないお茶会は心配して押しかけて来たローファも巻きこんで盛り上がり、入れ違いにリヴェルタがそっと席を外しても続いた。




