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転生少女は欲深い  作者: 白波ハクア
少女放浪編
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第53話 スキルの告白

「この、ばかもんが!」

「あだっ!?」


 私の脳天に、硬く重い拳が振り下ろされた。


「正念場に馬鹿やらかす馬鹿がいるか!? 下手をしたら二人して死んでいた。いや、確かにお前に全てを委ねた私も私なのだが──というか何なのだ、あのスキルは! どうしてお前はそう……急にスキルを取得する!?」

「ちょ、ちょっと落ち着いて! ──って、また馬鹿って二回言った!?」

「馬鹿に馬鹿って言って何が悪い! この馬鹿!」

「めちゃくちゃ言われた……!」


 でもまぁ、エリスの言いたいこともよくわかる。

 あの土壇場でやらかしただけではなく、その時に手に入ったスキルで窮地を脱出。そりゃあ混乱するのも当然だ。


 前にエリスが言っていたけれど、スキルってそう簡単に手に入るものではないらしい。

 まぁこれは私の基本となっているスキルが問題なんだけど、果たしてエリスに言っても大丈夫なのだろうか?


「ねぇ、エリス。私が異常な力を持っていると言っても、驚かない? 邪険にしない?」

「は? 今更だろう。そんなの」

「…………デスヨネー」


 ああ、そうでした。

 私が異常なのは今更でした。


 全く、正論すぎて涙が出てきそうだよ……。


 でもね? すこーしは良い言葉を期待していたんだよ。

 私の胸にバスンッ! ってくるような言葉を期待していたわけだよ。

 それなのに私がおかしいのは今更だ、って……本当にその通り過ぎて返す言葉が出てきません。


 ……でも、その言葉のおかげで私のことを話すのに抵抗は無くなった。

 考えれば、本当に今更のことだった。エリスがその程度のことで私を邪険にするわけがないってわかっているのに、私はやっぱり弱いままだ。


「わかった。正直に話すよ……」


 私は、初めてエリスに私の持つスキル『強欲』のことを話した。

 どうせ隠していても、私のことに関してだけは妙に鋭いエリスにはバレる。それなら今言ってしまった方が、のちの混乱も少なくて済むと思った。


「…………なるほど。今までスキルを取得出来ていたのは、その『強欲』というスキルが原因だったのだな」


 話を聞いたエリスは「なるほどなるほど」と何度も頷き、最後に私を真っ直ぐ見つめた。


「羨ましすぎる」


 彼女の口から出てきた言葉は、私の予想から大きく外れたものだった。


「……え?」

「だって、望んだスキルを無制限に得られるのだろう? 何回か言ったと思うが、スキルは取得しづらいんだ。なのに、欲しいと思っただけで取得出来るなんて……羨ましいと思うのは当然だろう?」

「ズルしている。とは思わないの?」

「はぁ?」


 エリスは意味がわからないと、顔を歪ませた。


「私が知っている中で、その『強欲』というスキルは見たことがない。きっとそれはお前だけのスキルなのだろう。女神ミリアが何を思ってそのスキルを与えたのかはわからんが、それをズルだと嫉妬するのは意味のないことだ。それならば、お前に近づくために少しでも鍛錬した方がよっぽど身のためになる。そうだろう?」


 ……うん、エリスらしい答えで安心した。

 彼女は騎士を辞めても、志はずっと騎士のままだ。


 そのことを、嬉しく思う。


「だが、それが異常な力であることには変わりない。話したのが私だから良かったが、他の者には絶対に公言するなよ? 面倒なことに巻き込まれるのはカガミの本意ではないだろう?」

「う、うん……それは勿論。このスキルのことを言ったのも、エリスが初めてだし」

「ならば、よろしい」


 正直、こんなに簡単に受け入れられるとは思っていなかった。

 だから拍子抜けしたというのが、私の素直な感想だ。


「他に、私に隠していることはあるか?」


 エリスの真剣眼差しに、私はさっと目を逸らしてしまった。


「その反応はあるのだな?」

「……ごめんなさい」


 エリスにまだ言っていないこと。

 それは私が異世界人ということだ。


 これは誰にも言うつもりはない。

 たとえエリスにだって、それは同じことだった。


 もし私がエリスに『異世界人』だと言っても、彼女は信じてくれるだろう。


 でも私は思う。

 それを知ったところで、何が変わるのだろうか、と。


 言う必要がないのだから、言わない。それは当然のことだ。


「まぁ、良い。……いつか自分の口から言ってくれる時を気長に待とう」

「………………」

「ん? なんだ? 人の顔をそんなに見つめて」

「やばい。エリスは女なのに、一瞬惚れそうになった」

「──ばっ! 馬鹿なことを言うではない! うれし、ではなく困ってしまうだろうが!」

「あ、はい。すいません」


 途端に顔を真っ赤にさせたエリスを可愛いと思ったことは、私だけの秘密にしておこう。


 言ったら絶対に怒られる。それもめちゃくちゃ怒られる。

 だからこの感情は、私の中にだけ仕舞っておくことにした。


「──さて、と。カガミについての話はこれで終わりにしよう」


 エリスは立ち上がり、汚れを手で払い落とす。


「まずは野宿の準備だ。どこかの誰かさんのせいで折角作ったものが台無しになってしまったからな。また新しく作る必要があるだろう」

「うぐっ……申し訳ありません」


 言葉の節々に棘があるのは気のせいだろうか。……いや、気のせいではないだろう。


「文句はあるか?」

「いえ、ありません!」


 私は立ち上がり、食料調達のために動きだ──


「ああ、お前は休んでいていい」


 ──そうとしたところで、エリスからストップが掛かった。

 一瞬、私が疲れているから休ませてくれるのかと思ったけれど、彼女の顔を見るに、どうやらそうではないらしい。


「お前が一人で行動すると、何をしでかすかわからん」

「いや流石にもうしないよ!?」

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