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転生少女は欲深い  作者: 白波ハクア
少女放浪編
55/64

第52話 開始早々トラブル続き

「どうなっても文句を言わないでね!」


 着々と迫る崖。

 落ちたら私でも死ぬ。エリスは絶対に助からない。


 迷っている場合じゃないのはわかっている。

 だから極限まで集中した。


 ──そして、


「ちょっとごめん!」

「お、おい!?」


 私はエリスの体をひょいと持ち上げ、お姫様抱っこをした。途端に顔を真っ赤に染めるエリス。文句を言いたそうに口をパクパクさせているけど、焦っている私はそれを聞く余裕がなかった。


「どうせ誰も見てないから我慢して!」


 こうでもしないと十分に飛べない。

 今更エリスを抱き抱えて走るくらいは苦ではない。


 そんなことよりも、今の絶望的な状況をどうにかして解決するのが最優先だ。


「うおおおおおおお!!」


 スキルを一気に解放する。

 身体能力強化、豪脚、肉体強化、剛力、精神強化、恐慌耐性、魔装。少しでも体が強化されるものを出し切り、私は崖まで走った。


 あとはギリギリのところで飛び出すだけ。


 ……ゆっくり、ゆっくり……焦るな。

 そう、私なら出来る。二人の命がかかっているんだ。ここでやらないで、どこでやる!


 まだ、まだだ……まだ、ま──




「あ、やべっ」




 ギリギリを狙いすぎて歩幅が合わず、最後は思い切り踏み外した。


 飛ぶことなく自由落下する体が二つ。


「馬鹿者ぉおおおおおおおお!?」

「ごめーーーーーん!」


 崖の底は奈落で、真っ暗だ。

 どこに地面があるかなんてわからず、ただただ闇が広がっている。


「どうしよう!? どうしようエリス!」

「わからん! だが、ここでは死にたくない!」

「同意見です!」


 現実逃避しているせいで、二人とも変なテンションになっている。


 でも、本当にこのままだと死んじゃう。

 どちらかが犠牲になろうと下になっても、結局は落下の衝撃で死ぬ。



「何か、私に、何かあれば……」



 この状況を打開出来るような何かがあれば!


【承諾。空歩(くうほ)を取得しました】


 コレダーーーーーー! って、どうやって使うの!?

 空歩!? どうやって使うの!?(二回目)


 ……うぅ! 空歩!


「んぐっ!」

「ぐおっ!?」


 足場が出来たような感覚。

 それが急に起こったせいで落下の衝撃をもろに食らった私達は、二人して奇妙な声をあげた。


「なっ! なんだこれは!?」


 エリスが驚いたように下を見る。

 ……私は、宙に浮いていた。


 空歩……出来ちゃった。


 不思議な感覚だ。

 宙に浮いていることは確かなのに、私の足元にはちゃんとした硬い足場がある。

 まるで透明なガラスの上に立っているような……。


「えっと、スキルを取得したみたい?」

「今!? この状況でか!?」

「…………はい」


 エリスが驚愕に目を丸くさせ、息も絶え絶えに叫んだ。


 彼女の反応は正しい。

 いくら私が異常だからって、ここで一番欲しいスキルを取得するとは思わないだろう。


 でも、やってしまったのだから仕方がない。


「このことは後で詳しく聞かせてもらうからな」

「…………はい」

「まぁ、それのおかげで助かったから私も文句は言えない、の……だが…………」


 エリスは心底安心したようにそう言いながら上を向き、そして顔を険しくさせた。


「か、かか、カガミ! うえ、上っ!」

「……ん? 上って──んぎゃぁあああ!!?!??」


 エリスに言われた通り上を見上げると、私達と同じように崖に落下した沢山の魔物達が、滝のように降ってきていた。


「うわっ、ととっ……!」


 慌てて前に歩き出し、魔物に呑まれることを回避する。

 その数秒後──ズドドドドドッ! という重い音が下の方から連続して聞こえてきて、私とエリスは顔を引きつらせた。


「……もし、落下して運良く生き残っていても、死んでいたな」

「…………そうだね」


 私達の何倍の体格もある魔物が滝のように降ってくるのだ。

 生きていても、死んでいた。もしかしたらあり得たかもしれない未来の形に、私はもう何も言えなくなっていた。


「……とりあえず、反対側まで移動しよう」


 こうして私とエリスの二人は、無事に魔物の大群から逃れることに成功したのだった。

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