第54話 知らぬ間のやらかし
森で十分に休憩をとった私達は、日の出と共に森を出た。
「ねぇエリス。これから何処に行くの?」
「……まずは、街を探すか。当初の予定では私の知っている街に行こうと思っていたのだが、予定にないことが起こったせいで道がわからなくなってしまった。だから一先ず進み、街を見つけ次第そこで休憩する」
「んぐっ……」
言葉の節々に痛いところがあるのは、きっと気のせいだと思いたい。
「ああ、カガミは頑張ろうとしないでいい。お前が頑張ると余計なものまで見つけてしまいそうだ」
「ふぐぅ……!」
──完全に信用されていない。
私はそのことに文句を言おうとしたけれど、反論出来ないので声を押し殺すので精一杯だった。
「……ふっ、冗談だ」
そんな私の頭に、エリスの手がポンッと置かれる。
「お前が頑張って役に立とうとしてくれているのは理解している。それは嬉しいが、張り切りすぎて無茶してほしくないのだ。だから、落ち着いたら協力してくれ」
「エリス……」
親友の優しさに、思わず涙が出てしまいそうになる。
でも一つ、彼女に対して気になっていることがあった。
「どうしてエリスはそんなにイケメンなの?」
「──ばっ、! 私は女だ。イケメンではない!」
「性格がイケメンすぎるよ。そうやって何人もの人達を惚れさせてきたんでし──ぶらっ!?」
私を撫でていた優しい手が一旦離れ、拳骨になって帰ってきた。
「ねぇエリス……私ね? 物理耐性持ってるの。大抵のことは痛くないのに、どうしてエリスの拳骨だけこんなに痛いの?」
「…………愛が込められているからだ」
「あ、ふーん……」
素朴な疑問をしたら、めちゃくちゃ適当に返された。
私はヒリヒリする頭部を抑えながら、前を向く。
「──んっ?」
「おい今度はなんだ。何を見つけた」
私が何かを見つけたことに、過剰に反応するエリス。
本当に焦っているのか、すでに剣を抜いている。
「落ち着いてよ。ほらあそこ……あれって街じゃない?」
「ん? ……んー、私には見えないな。カガミにははっきりと見えるのか?」
「いやぁ、私もうっすらとしか見えないんだけどさ……」
遠目だけじゃ、あまりはっきりとは見えない。
もうちょっと良く見えるようになったら嬉しいんだけどな。
そうしたら曖昧な情報じゃなくなるのに……。
【承諾。視覚強化を取得しました】
途端に視界がクリアになり、街の様子までもが鮮明に見えるようになった。
「うん、見えた」
「……急に自信満々になったな。まさか、スキルを取得したのか?」
「ご名答。視覚強化を手に入れたみたいだね」
「…………驚かんぞ。いちいち驚いていたら、こちらが保たない」
……でも、残念なことにそこは街じゃなかった。『街』と言えるほどの規模じゃなくて、どちらかと言えば『村』だ。
それをエリスに説明したけれど、彼女の考えは変わらなかった。
「村と言っても、宿場くらいはあるだろう。休めるのであれば構わない」
「それじゃあ、とりあえず行ってみようか」
「そうだな」
その意見には同意だ。
森の中だと気を張っていないと、いつ魔物に襲われるかわからない。
でも、宿場の中ならまだ安全だ。
落ち着いて腰を下ろせるのなら、どこでもいいという意見になり、私達は村に向かうことになった。
────のは良いんだけど、
「おいカガミ。いつまで経っても、私の目に村は見えないのだが?」
「あれぇおかしいな。私の目にはちゃんと見えているんだけど……」
蜃気楼とかじゃないと思うし、変なこともあるんだなぁ。
もしそうだったら、景色がゆらゆらしているはずだ。私の目にはしっかりと村の様子が映っているので、そういう幻惑的な何かではないのは確かなのに。
「……カガミ。一応聞くが、お前今、何のスキルを使っている?」
「え? うーん、さっき言った視覚強化と、遠目かな。……あ、遠目っていうのは、めちゃくちゃ遠くまで見渡せるスキルだよ」
「絶対にそれが問題だろう!?」
「ふぇっ!?」
急に叫びだしたエリスに、私は驚いて変な声を上げてしまった。
「国の記録に記されていた『遠目』というスキルは、5、6キロ先まで見渡せるらしいぞ」
「え、そんなに……?」
「なぁカガミ? 嘘偽りなく教えてくれ」
肩をがっしりと固定される。
……なんでだろう。エリスの笑顔が怖い。
「お前は、どこまで見渡せる?」
「…………あっちの山まで」
「綺麗に?」
「…………はい。綺麗に」
「はっきりと?」
「…………はい。はっきりと」
「…………」
「…………」
「馬鹿やろぉおおおおお!」
「わぁああああ!? ごめんなさい、ごめんなさい!」
両手の握り拳で頭を挟まれ、グリグリされる。
拳骨よりも痛くて、私は半泣きだ。
「お前な! そろそろ自重という言葉を覚えたらどうだ!」
「だってわからないんだもん! 気がついたらやらかしているんだもん!」
「だからそれを押さえろと言っているのだ、このお馬鹿!」
「イギャァアアア!!??!!!?」
グリグリが強化され、私の絶叫が大地に轟いた。
それから数分後。
「反省したか?」
「……はい。次から何かやる時は、エリスに言ってからやります」
結局、私達が村に着いたのは、それから五時間後のことだった。




