第55話 村の様子
お、お久しぶりです……(震え声)
長い時間をかけて辿り着いた村は、とても小さなところだった。
「カガミ。気付いているか?」
「……うん。空気がとても暗い」
どんよりしているというか、村人の顔が苦しそうだった。
宿の店主も、久しぶりの旅人だと笑っていたけど、心から笑っているようには感じられなかった。
「田舎の村だから収穫物が実らず、苦しい生活をしているのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい」
エリスの言葉に、私は頷く。
村から少し離れたところの畑には、沢山の野菜が育っていた。
食べ物に困っている様子はない。
貧困で苦しんでいるほど、彼らの体は痩せ細っていない。
だったら、原因は何だろう?
「考えられるとしたら、外敵だな」
「外敵? 魔物?」
「魔物の可能性もあるし、人間の可能性だってあり得る」
「盗賊とか、そんな感じ? でも、お金が無い様子も無かったよ?」
「……いや、奪われるのは金だけではないさ」
エリスの言っている意味がわからなくて、首を傾げる。
でも、何か原因は知っているみたいだ。
「よし、行ってみるか」
立ち上がったエリスに、私は問いかける。
「行くって、どこに?」
「決まっている。村長のところだ」
必要な荷物だけを持って、私達は村長の家を訪ねた。
村長は突然の訪問だろうと、快く私達を歓迎してくれた。
久しぶりの来客だから……というわけではなさそうだ。
何か他の思惑がある。そんな感じが村長の雰囲気から感じられた。
「単刀直入に聞く。何が起こっている?」
出されたお茶を飲みながら、エリスは開口一番から本題に入った。
どこまでも真っ直ぐなところが、何ともエリスらしいなと思う。
でも、本来は軽い世間話から入った方が、向こうも話しやすいだろう。
村長は驚きを隠さずに目を開いて、その後、困ったように笑った。
「最近、魔物の動きが活発になってきているのは、騎士様もお気付きですか?」
「……ああ、そうだな」
私もエリスも、魔物の活性化は初耳だ。
でも、話を進めやすくするため、頷いておく。
「騎士様はそれの原因は知っていますか?」
「それは……いや、心当たりはあるが、まだ確証が持てない」
エリスの考えていることは、私もわかる。
魔物の活性化。
それはおそらく、魔王の復活だ。
私が封印を解いたせいで、魔王は自由になった。
だからその下僕である魔物達も、復活の影響を受けている。
多分、その考えは間違っていない。
でも、ここで正直に話しても、皆を混乱させるだけだ。
エリスはそう思って、言葉を濁したのだろう。
「実は何度か、この村にも魔物がやって来まして……」
村長はポツポツと、少し前にあった出来事を話し始めた。
魔物がやって来たのは、二日前のことらしい。
最初は村の建物が少し壊されるだけで済んでいたらしい。
でも、日が経つにつれて魔物達の凶暴さが増し、ついに最悪の事態に陥った。
「私には一人の娘が居たのです。明るく元気で、誰よりも正義感のある……とても良い子でした」
村長の言っていることに、何か引っ掛かりを感じる。
「──あ、」
そして、その謎が解けた。
村長は全て、過去形で話している。
「村長さん。まさか、その人は……」
「ええ。魔物に襲われ、連れ去られてしまいました」
どのように反応していいのか、私は結局、村長に何の言葉も掛けられなかった。
愛情を注いで育てた大切な子供を失った人に、ただ一つの愛情も与えられなかった私が、何を言ってあげれるんだ。
「その子が攫われたのはいつのことだ?」
「つい先日のことです……もう、あの子は」
「魔物達はどこにいる」
「──え?」
「魔物達はどこにいるのかと、そう聞いているのだ」
エリスの中では、もうやることは決まっているらしい。
チラリとこちらを振り返った彼女に、私も頷いて肯定する。
「もう助からないかもしれない。だが、それでも魔物達に喰われるよりはマシだろう」
──だから私達が連れ帰ってくる。
迷いなく、エリスはそう言った。
…………かっこいいな。
私は素直に、そう思った。
私がエリスの立場だったら、私は彼女のように迷いなく助けると言って手を差し伸べられただろうか。
「ま、魔物は、ここから南にある洞窟、に……」
「そうか。では──行ってくる」
エリスはお茶を飲み干して、立ち上がった。
私はもう準備万端だ。
「ま、待ってください!」
と、外に出ようとする私達を、村長が引き止めた。
「魔物達は数が多く、とても危険です!」
「だからなんだ?」
「──っ!」
「私が助けたいと思ったから、助けるのだ。もう手遅れだろうと、弔ってやらねば可哀想ではないか」
それはエリスの中で当たり前の考えだった。
もちろん、彼女の意思を私は尊重する。
エリスの言った通り、もう手遅れかもしれない。
でも、連れ帰ってくることに意味はあると思う。
「むすめを、お願いします……どうか、どうか……!」
「ああ。任せておけ」
「行ってきます」
こうして私達は、魔物の住む洞窟へと向かうことになった。
期間が長く空いてしまいましたが、そろそろこっちも更新しなきゃやばいと思ったので、これからも少しづつ更新していきます。応援の方、よろしくお願いします!




