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転生少女は欲深い  作者: 白波ハクア
少女学園編
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第42話 友との死闘

「なんで、エリスは私に剣を向けるの?」


 カガミは濁った眼で私を睨み、一歩、また一歩とこちらに歩み寄る。


「……そうなんだね。みんな、口では私を救うと言っておきながら、邪魔になったら私を殺そうとするんだ」


 やっぱり、やっぱりそうなんだと……カガミは静かに呟く。


「やっぱり私の味方は、メレヴァしか居ない。認めてくれる人なんて、この世界には居ない」


 カガミは漆黒の魔剣『アトラク・メレヴァ』を強く握りしめる。


「でもやっぱり寂しいよ。エリスと戦いたくないよ……」

「カガミ。私は──」

「けれど、仕方のないことなんだよね? そう、なんだよね、メレヴァ? ……うん、仕方ない」


 カガミは諦めたように、首を振った。


「敵は──斬るしかないんだ」


 一瞬の殺気。


「──っ、ぐぅ!」


 私の体は、カガミが振り下ろした剣圧によって吹き飛んだ。


 咄嗟に受け身を取り、すぐに臨戦体制に入る。

 警戒度を極限まで引き上げ、カガミに視線を向けるが──すでにそこには、彼女の姿は無かった。


 すぐさま周囲の気配を探る。

 しかし、どんなに探しても私以外の反応は見当たらない。


「──フフッ」

「っ、そこか……!」


 真横から聞こえた微かな笑い声。

 私は弾かれるように動き、剣を振る。


 ──手応えは、無かった。


「アハハッ! 何処を狙っているのぉ?」


 蠢く影の中から、カガミは姿を現した。


「影移動だよ。……フフッ。驚いた?」


 クスクスとカガミは笑い、私に剣を向ける。


「今の、本気だったね。アハッ……ひっどいなぁ。あれが友達に向ける攻撃なの?」

「カガミ……」

「ああ、別に何も言わねくて良いよ? わかっているから。それだけエリスは本気なんだよね? 本気で私を、殺そうとしているんだよね?」


 カガミの肌の紋章が、強い光を発する。

 それは徐々に激しくなり、脈動する度に魔力が膨張していく。


「一回目はエリスの本気を試すつもりで何もしなかった。そして、今の一撃で理解した。……ああ、エリスは本気なんだなぁ、って……ねぇ、エリス? お願いがあるんだけれど、聞いてくれるかな?」

「…………なんだ?」

「抵抗しないで欲しいんだ。一瞬で意識を刈り取ってあげるからさ。そうしてくれたらもうこの国に手出しはしない。二度とこの国に被害を加えない。だから、このまま倒れてくれないかな? もう分かり合えない私達だけど、あの優しい言葉は偽りだったけれど……それでも私はちょっとだけエリスに救われていたんだ。ねぇ、お願いだよ」


 懇願する言葉。

 だが私は、それに首を振った。


「それは、出来ない」


 私は王国騎士隊、隊長だ。

 敵を前にしてわざと負けることは……出来ない。


「そっか……そうだよね。やっぱりエリスは、真面目だなぁ」


 だからね? だから私は……と、カガミは言葉を続ける。


「私は、エリスを斬るよ」




 ああ、そうだな。




「行くぞ!」


 私は大地を蹴り、剣を突き刺す。

 間合いを一瞬で詰める刺突。それは普通なら避けることの叶わない神速の一撃になるはずだった。


 ……そう、普通ならば。


「速いね。それも、その鎧のおかげなのかな」


 カガミは特に驚いた様子もなく、その切っ先を掴んだ。

 その手から、血が滴り落ちる。


「痛いなぁ……いたい、痛い、イタイ。アハハッ……!」


 すぐさま剣を引き抜き、離脱する。

 だが、それよりもカガミが速く動き、私に肉薄した。

 振り上げられる漆黒の剣。私は咄嗟に聖剣を上に掲げて防御するが、その衝撃にバランスを崩す。


「──はぁ!」


 追撃をさせないために剣を横薙ぎに振るが、カガミは軽々と跳躍して回避。

 空中で身を捻り、回転のかかった蹴りを脳天に叩き付ける。どうにか腕を交差させて威力を和らげようとするが、少女の細い足から放たれたものとは思えない衝撃に、私は膝を折った。


「く、そっ……!」


 負けじと応戦するが、剣と肉体から繰り出される連撃に、私は防戦一方となる。

 彼女の攻撃一つ一つが、重い。巨大な剣で殴られているかのような感覚なのに、恐ろしく速い。


 成す術がないとはこのことだった。


 それでもと、私は剣を振り続ける。

 しかし────


「──っ!」


 握りしめた剣が弾かれ、くるくると宙を舞う。

 私は追撃を警戒した。……だが、これ以上何かがくることはなく、カガミは膝をつく私を見下ろすだけだった。


「──弱い」


 ポツリと呟かれた言葉。


「弱い。弱いなぁ。やっぱり、エリスは……いや、ここの人達はみんな、弱い。そのくせして欲望や嫉妬、妬みは強いんだから困っちゃう」


 カガミはゆっくりと私の聖剣が落下したところまで歩き、おもむろにそれを掴みあげる。


「こんな剣も、その鎧も……気休めでしかない。結局私に負けるのに、エリスもそれをわかっているはずなのに、どうして敵対なんてするの?」


 ドスッと、私の前に聖剣が突き刺さる。

 カガミが投げたのだが、その動作は一瞬で何も見えなかった。


「この国の人達は弱いんだからさ。無駄に死のうとするんじゃなくて、おとなしくしていれば良いのに」

「それは──」

「わかってる。出来ないんでしょう? ──私をそれだけ殺したいんでしょう!」

「ちがっ……カガミ聞いてくれ!」

「もう遅いんだよっ!」


 カガミの姿が消えた──と思った次の瞬間。黒と赤の線が目前で舞った。


「魔法を使う必要もない。ただの攻撃だけで十分だ。それだけエリスは弱いのに……どうして理解しないの!?」


 カガミが魔法を使っている形跡はない。

 ただの身体能力のみで、彼女は私を圧倒している。


 ……これだけ強かったのだな、カガミ。


 そして同時に、それだけ弱かった、

 二度と裏切られたくない。彼女はその一心で考えることをやめている。アトラク・メレヴァに魅入られてしまっている。


「もう、良い……この一撃で終わらせてあげる!」


 カガミの反応が──消えた。

 姿を消したのではない。カガミはちゃんとそこに居る。しかし、彼女からは全てを感じない。


「ねぇ、エリス。私に本気を見せてよ」


 クスクスと、カガミは笑った。

 ゆったりとした動作で剣に鞘を収め、手を添えながら中腰に構える。


「じゃないとぉ?」


 カガミの中に押し込められていた魔力が、弾けるように膨張した。


 大地が震え、天が轟き、空気が揺らぐ。

 天変地異のようなその現象はただのついでと言わんばかりに、カガミはそこから動かず、未だ腰だめに構えたまま、真っ直ぐに私を見つめる。


「死んじゃうよ?」


 次の瞬間、止まっていた時間が動き出す。

 そして私に、明確な『死』が襲い掛るのだった。

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