表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女は欲深い  作者: 白波ハクア
少女学園編
43/64

第41話 私がお前を……

「フフッ、久しぶりにエリスと会えたなぁ。……嬉しいなぁ、ねぇ嬉しいなぁ?」

「本当に、カガミ……なのか?」

「ん? どうしたの? 久しぶりだから、私の顔を忘れちゃった? ひっどいなぁ」


 カガミはくすくすと笑った。そして嬉しさを表現するように再び血の池を舞い、また笑う。


「アハハッ、ひどいひどい。まさか私の顔を忘れちゃうなんてね。わたしは悲しいよ」


 行動と言葉が合っていない。

 それはとても奇妙で、不気味で、恐ろしく感じた。


「……カガミ、すまない」

「んー、アハッ? エリスは相変わらず優しいね! んーん、エリスは謝らなくて良いよぉ? だってこうして会えたことが嬉しいんだもん! やっぱり、言う通りになったね!」


 今でも信じられない。

 これがカガミなのか?

 本物は別に居て、形を真似ているだけなのでは?


 そんな疑問が、私の中で渦を巻く。


「ねぇ、どうしたの?」


 気が付けば、カガミは私の目の前まで来ていた。

 心配そうに、どこか面白そうに、私の顔を覗き込む。


「──っ、なんでも、ない」

「そう? ……アハッ? エリスは考え事を沢山するからね。たまには何も考えないでリラックス。だよ?」

「あ、ああ……そうだな……すまない」


 気配を一切感じられなかった。

 本当に、一瞬で距離を詰められたかのように、カガミは目の前に現れた。


 その力はどこから……。


 そんな私の問いは、問わずとも理解出来た。


 魔剣アトラク・メレヴァ。

 それがカガミに力を与えているのだ。

 乗っ取られているようには思えない。カガミは自分の意思を落ち、魔剣がそれに応えている。そうとしか考えられない。


 しかし、私はそれを否定したい気持ちでいっぱいだった。


 それを認めてしまったら、この悲惨な状況は、()()()()()()()()()()()()()()()ということになるのだから。


「なぁ、カガミ? これは、どうしたんだ?」


 声が裏返りそうになりながらも、真実を知るために問いかけた。


「──邪魔だったの」

「邪魔だった。だと?」

「うん。こいつら、私の邪魔ばかりするんだもん。だから斬った。簡単なことでしょう?」


 まるでそれについて何とも思っていないような態度で、カガミはそう答えた。


 そして倒れ伏している生徒の一人に歩み寄り、その頭を乱暴に掴み上げる。


「こいつはね。私のお腹を殴ったんだよ。酷いでしょう? みんなで寄ってたかって私一人に何度も、何度も何度も何度も何度も……だから、同じことをしてやった」

「──ぁ、ぁあああ! いだ、い。痛い、やめてぇえええ──っ!」


 生徒の頭からメキメキという不気味な音が鳴り、その激痛に目を覚ました生徒は、再び意識を手放した。


「……あれ? もう壊れちゃったのかな? フフッ! 脆いんだね」


 それに対してカガミは、もうそれに興味が無いと生徒の頭を乱暴に振り、おもちゃを散らかす子供のように生徒を放り投げた。


 ベチャッという音を立て、血の池に沈む生徒。


「──っ、カガミ、お前は……!」

「ああ、でも……殺してないよ? そうするとエリスに嫌われちゃうからね。ただまぁ……放っておいたら死ぬかもしれないけれど、ね? クフッ! あは? アハハハハッ!」


 カガミは何が面白いのか、狂ったように顔を歪めて笑う。


 背中に冷や汗が伝う。

 これは、やはりカガミだった。そんなの夢だと否定したかった。だが、もう全てが遅い。


「ねぇエリス。お話ししよう?」

「……お話し、だと?」

「そう、お話! 手紙ではやり取りしていたけれど、こうやって会って話すのも大切でしょう? 手紙では言い合えなかったこと、今お話ししようよ!」


 正直、そんな余裕はないと言ってやりたかった。


「わかった。話すとしよう」


 しかし、私はカガミの提案を受け入れた。

 今はカガミに正気を取り戻してもらうのが最優先だ。

 私がやれることは、それだと思った。だから話し合うことを決意した。


「私ね、いじめを受けていたんだぁ。お前はこのクラスに相応しくない。平民如きが調子に乗るな。何度も罵倒された。何度も暴力を受けた。陰湿なことはほとんどやられた」

「っ、どうして、それを……」

「話せなくてごめんね? だってエリスに余計な心配を掛けたくなかったんだもん。それにね? 私はそれでも認められたかった。クラスのみんなと仲良くなって、私は一人でもこんなに出来るんだって。そして自慢したかった。こんなに沢山の友達が出来たんだよって」


 カガミは困ったように笑う。

 ……ああ、この笑顔は一人で溜め込んでいる時の顔だ。それを見て懐かしくなった次の瞬間。再び別人のようにカガミは笑った。


「でもね、私わかったんだ。それじゃあダメなんだって」


 私は、彼女の圧力に圧されていた。


「こいつらは、私のことを認めない。絶対に」

「そんなことは……」

「──そうだったの!」


 そんなことはない。

 そう言おうとした言葉の途中で、カガミの叫びによって遮られた。


「私は頑張ったの! 耐えて、耐えて、いつか誰かに求めてもらえるんじゃないかと頑張った! シアもみんなに私の実力を認めさせようと覚悟を決めてくれた! ……でもね? こいつらは何て言ったと思う?」

「…………」

「答えられない? なら教えてあげるよ。私が他国から送り込まれたスパイだって! アハッ! 笑っちゃうよね!」


 カガミから感じる魔力が、異常なほどに膨れ上がった。

 それはあの子の感情に呼応しているようで、その魔力は奔流となり、辺り一面の瓦礫を吹き飛ばす。


「私達は本気で戦った。他ならないシアの頼みだ。本当の真剣勝負で、下手をしたら死ぬ。そんな正々堂々とした戦いをした。──それなのに! こいつらはその決闘に泥を塗ったんだ!」


 カガミは激情し、その感情の思うまま剣を振るった。

 その風圧は私の元まで届き、思わず身構える。


「でもね? それのおかげで私は気付けたんだ。こいつらに遠慮する必要はない。だって、こいつらは私を認めない。永遠に私を陥れようとしてくる。そんな奴らに、どうして私は苦しまなきゃいけない! どうして私は傷付かなければいけない!?」


 カガミは、バッと両手を広げる。


「だから壊した! 何もかも、私を邪魔する全てを壊してやった! アハハッ! アッハハハハハッ!!」


 カガミは高らかに笑う。


 私は、それが聞くに耐えなかった。


「エリスには感謝しているんだよ? 遠慮せずにやって良いって言ってくれたから、私はその通りに行動出来た。…………フフッ、なぁんだ。こんなに簡単だったんだね。こんなのに、悩む必要なんて無いんだよね? ねぇそうでしょう?」


 カガミは私に手を差し出す。


「エリス。一緒に行こう? こんな国、こんな腐った世の中から抜け出そう? エリスは一緒に来てくれるよね? だって私達は友達だもん!」


 迷いのない満面の笑みを浮かべるカガミは、やはり私の目には別人のように見えた。


「エリスと一緒なら何だって出来る。私達の邪魔なんてさせない。邪魔なら殺せば良い。そうでしょう? だからほら、私の手を取って? こっちに来て?」


「すまないカガミ。私は、一緒に行けない」


「…………どうして? どうしてエリスは私を拒絶す────ああ、なるほど。そっか……そう言うこと、なんだね」


 カガミは納得したように、小さく呟いた。


「やっぱり、エリスもこいつらと同じなんだね」

「違う! 私はそうでは──」

「だって! だって、エリスはそんなんじゃない。私のお願いなら叶えてくれるって……言ってくれたのに……!」

「──っ! そ、れは……!」

「結局は私を利用したいから、私に甘い言葉を吐いていただけなんだ。私に敵意を向けられるのが怖いから、気味が悪いから、私に優しくして、そして遠ざけた! …………メレヴァの、言った通りだった。所詮は同じ国に巣食うこいつらと同じ。誰も私のことなんて大切に思ってくれちゃいない!」

「カガ、ぐっ……カガミッ!」

「もういや! 何もかも、もういやだァアアアアアア!」


 その時、全てが崩れ去った。


「私は幸せが欲しかっただけなのに、どうしてみんなはそれを否定するの! どうして私は、私だけは幸せになったらいけないの!? もう、いや……こんな世界! 消えて無くなってしまえばいい! 私が壊してやればいい!!」


 それは紛れもないカガミの本心だったのだろう。

 荒れ狂う魔力の渦の中、大量に涙を流す少女の姿は、今にも消えてしまいそうなくらい、とても弱々しく見えた。


「ああ、そうだな。そうだったな、カガミ」


 私は納得したように頷き、カガミを真正面に見据えた。


「私は、お前に言った。遠慮なくやれ。お前は自分のしたいことをやれ。その後は、大人である私がどうにかしてやろう、と」


 そして、今がその時だ。


 私は聖剣をゆっくりと抜き、カガミに切っ先を向けた。


「私がお前を救ってやる──南条鏡」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ